【親族間の犯罪に関する特例(親族相盗としての刑の免除と親告罪化)】

1 親族間の犯罪に関する特例(親族相盗)
2 親族間の犯罪による刑の免除
3 親族間の犯罪による親告罪化
4 親族相盗の対象犯罪
5 実務的な警察の対応

1 親族間の犯罪に関する特例(親族相盗)

刑法の犯罪の中には,被害者と加害者(犯人)に親族などの関係があると特別扱いされるものがあります。対象となる犯罪は窃盗などの財産に関するものです(後述)。そこで『親族相盗(しんぞくそうとう)』と呼ぶこともあります。
根本的な考え方として,法は家庭に入らない,というポリシーがあるのです。
なお,この基本方針は民事的な規定になっているものもあります。
詳しくはこちら|夫婦間の契約取消権の基本的事項(背景・趣旨・実害・条文削除意見)

2 親族間の犯罪による刑の免除

まず最初に,一定の親族関係によって刑が免除されるという規定についてまとめます。

<親族間の犯罪による刑の免除(※1)

あ 刑の免除となる親族関係(※3)

犯人と被害者に次のいずれかの関係がある
ア 配偶者イ 直系血族ウ 同居の親族

い 軽減の効果=刑の免除

『あ』の関係にある者において
親族相盗の対象犯罪(後記※4)を行った場合
→刑を『免除』する
犯罪が『成立しない』というわけではない
※刑法244条1項

刑の免除となるのは,被害者との関係が特に濃いものに限定されています。

3 親族間の犯罪による親告罪化

被害者との関係が多少遠い親族というケースでは,刑の免除にはなりません。しかし一定の範囲で『親告罪』として扱われます。つまり,本来は被害者の告訴が不要ですが,特別に告訴を『必要』に変えるというものです。

<親族間の犯罪による親告罪化(※2)

あ 親告罪化する親族関係

次のいずれにも該当する
ア 犯人と被害者が『親族』である 詳しくはこちら|一般的な扶養義務(全体・具体的義務内容の判断基準)
イ 犯人と被害者が前記※3に該当しない

い 軽減の効果=親告罪化

『あ』の関係のある者において
親族相盗の対象犯罪(後記※4)を行った場合
→親告罪となる
=告訴がなければ公訴提起ができない
※刑法244条2項

4 親族相盗の対象犯罪

親族の特別扱い(親族相盗)の対象となる犯罪は決まっています。これをまとめます。

<親族相盗の対象犯罪(※4)

罪名 条文(刑法)
窃盗罪 235条,244条
不動産侵奪罪 235条の2,244条
上記の2つの未遂 243条,244条
詐欺罪 246条,251条
背任罪 247条,251条
準詐欺罪 248条,251条
恐喝罪 249条,251条
上記の4つの未遂罪 250条,251条
横領罪 252条,255条
業務上横領罪 253条,255条
遺失物横領罪 254条,255条

5 実務的な警察の対応

実際に親族間の犯罪があった場合,いきなり裁判が始まるわけではありません。被害者が警察を呼ぶということから始まります。以上の親族間の特例によって,警察の対応にも影響が出てきます。

<実務的な警察の対応>

あ 刑の免除の対象犯罪

刑の免除の対象犯罪行為(前記※1)について
仮に立件・裁判となっても実際に刑に処されることがない
→立件自体をしない傾向が強い

い 親告罪化の対象犯罪

親告罪化された犯罪行為(前記※2)について
被害者の告訴があれば通常の事案と変わらない
→通常の案件と同様の立件の傾向となる

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