1 不当な告訴・告発への反撃|法的責任の種類
2 告訴・告発に対する反撃→刑事責任=虚偽告訴罪|基本事項
3 虚偽告訴罪の解釈論・判例|『客観的真実に反する』
4 虚偽告訴罪の不確定性|曖昧な境界部分・典型例
5 虚偽告訴罪の不確定性|そこまでは曖昧ではないケース
6 告訴・告発への反撃|民事責任=損賠償請求|判断要素
7 告訴・告発・懲戒請求→確認不十分だった→違法|事例
8 虚偽告訴罪での告訴→確認義務を果たした→適法|事例

1 不当な告訴・告発への反撃|法的責任の種類

不当な告訴・告発を受ける,というケースも多いです。
要するに『脅し』や『嫌がらせ』目的の告訴・告発,というものです。
この場合には,法律上の『反撃手段』があります。

<不当な告訴・告発への反撃|法的責任の種類>

責任の種類 具体的内容
刑事責任 虚偽告訴罪
民事責任 不法行為による損害賠償請求

それぞれの内容については順に説明します。

2 告訴・告発に対する反撃→刑事責任=虚偽告訴罪|基本事項

告訴・告発のうちで一定のヒドいものは,逆にこれ自体が犯罪になります。

<虚偽告訴罪の基本事項>

あ 構成要件

人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で,虚偽の告訴,告発その他の申告をした

い 法定刑

懲役3か月以上10年以下

う 告訴の要否

不要(非親告罪)
※刑法172条

3 虚偽告訴罪の解釈論・判例|『客観的真実に反する』

当然ですが,告訴・告発をすると,捜査機関の捜査が『必ず』遂行されます(別記事;リンクは末尾に表示)。
捜査機関のリソースも奪いますし,被疑者となった者その他の関係者も社会的に大ダメージを受けかねません。
そこで,『虚偽の告訴・告発』は刑事責任を負うことになっているのです。
しかしこのことは逆に,正当な『告訴・告発』までもを萎縮させることにもなります。
虚偽告訴罪の判断基準についてまとめます。

<虚偽告訴罪の要件の解釈>

あ 『虚偽』の意味

『客観的真実に反すること』をいう
※最高裁昭和33年7月31日

い 『故意』の判断

『未必の故意』で足りる

う 『虚偽』+『故意』のミックス

『間違いかもしれないが,仮に間違いでも構わない』という認識
※最高裁昭和28年1月23日;『故意』一般論

まず,虚偽の対象は『客観的真実』です。
『法的評価』や『目撃情報・人の記憶(証言)からの事実認定の違い』,は対象外です。

4 虚偽告訴罪の不確定性|曖昧な境界部分・典型例

『事実認定の違い』なのか『虚偽』なのかは中間に『曖昧な境界部分』があります。

<『虚偽』と『評価の違い』が曖昧な例>

あ 事例

多くの人(目撃者)が『Aが盗んだ』と言っている
これを聞いたSは『みんなが口裏を合わせてAに罪をなすりつけている』かもしれないと思った
でも目撃者は多く,話も整合している・リアリティもあるので本当だと思った
そこで『Aが盗んだ』という内容の告訴をした
その後,捜査・刑事裁判の中で『Aではなかった』と認定された

い 判定

『客観的真実』に反した→『虚偽』成立
『(虚偽)かもしれない』と思っていた→『未必の故意』の一部成立

『虚偽でも構わない』(認容)の気持ちの有無で虚偽告訴罪の成否が決まる

5 虚偽告訴罪の不確定性|そこまでは曖昧ではないケース

次に,もう少し分かりやすい例を挙げておきます。

<虚偽告訴罪の(そこまで曖昧ではない)限界事例>

あ 真実ではない・故意あり→虚偽告訴罪成立

盗んだのはBだと知っているのに『Aが盗んだ』と告訴した

い 真実ではない・故意なし→虚偽告訴罪不成立

盗んだのはAだと信じていたから『Aが盗んだ』と告訴した
しかし調査・捜査の結果『Bが盗んだ』と判明した=Aは無罪となった

う 事実は真実である・法的評価のみ違った→虚偽告訴罪不成立

AがC所有の物を持ち出して,しばらく後に戻したことを知っている
『窃盗罪』が成立するかどうかは分からないが『Aが盗んだ』と告訴した
しかし裁判所の判断(判決)は無罪であった
理由= 『占有移転に該当しないので窃盗罪不成立(無罪)』

以上は事情を大雑把に設定したモデルです。
実際には『処罰されたかもしれない可能性(リスク)』の大きさが判断に影響することもあります。
上記の『未必の故意』,特にその中の『認容』の部分です。
以上のように,告訴・告発に対する『反撃』である虚偽告訴罪は難しい論点を含むのです。
逆に言えば,弁護士が告訴・告発を引き受ける際は『虚偽告訴罪』の反撃を常に意識しているのです。

<豆知識;空耳アワー>

裁判員裁判の一般人にありがちな,ロマン空耳
『未必の故意』を『密室の恋』と聞き違える

刑事裁判・刑法用語全般の簡易化が進められている

6 告訴・告発への反撃|民事責任=損賠償請求|判断要素

不当な告訴・告発をされた側の反撃は『虚偽告訴罪』だけではありません。
民事的な責任,つまり損害賠償請求もあります。
告訴や告発について損害賠償責任が認められる基準をまずはまとめます。

<告訴・告発×確認義務|判断要素>

あ 確認義務|判断基準

犯罪の嫌疑をかけるのに相当な客観的根拠がない
→『違法』となる
→不法行為による損害賠償責任が生じる

い 弁護士の確認・注意義務

弁護士が告訴・告発・懲戒請求をする場合
→一般人より高度な注意義務が課せられる

う 確認義務|判断要素

ア 告訴・告発の理由
イ 訴追可能性
ウ 告訴・告発の目的の不当性
※民法709条,710条
※東京地裁平成5年11月18日など
※『訴訟活動と不法行為の成否−その現状と課題』判例タイムズ1242・26

7 告訴・告発・懲戒請求→確認不十分だった→違法|事例

告訴・告発と弁護士の懲戒請求について損害賠償責任が認められたケースを紹介します。

<告訴・告発・懲戒請求→違法|事例>

あ 問題となった行為

ア 告訴・告発
詐欺・文書変造・行使など
イ 懲戒請求
弁護士会に対する,相手側弁護士の懲戒請求

い 経緯

弁護士は,証人(目撃者)に直接聴取しなかった
依頼者の『伝聞』による把握のみであった

う 裁判所の判断

確認が不十分であった
→注意義務違反
→不法行為による損害賠償責任を認めた
※東京地裁平成5年11月18日

8 虚偽告訴罪での告訴→確認義務を果たした→適法|事例

後から『不当な告訴』となったけれど,違法性は認められなかったケースを紹介します。

<虚偽告訴罪での告訴→適法|事例>

あ 問題となった行為

ア 告訴
弁護士が『虚偽告訴罪』で告訴した
→後から『虚偽告訴罪』には該当しないこととなった
イ 告訴理由書
当事者の人格や名誉を損なう表現を用いていた

い 裁判所の判断

ア 告訴
『虚偽告訴罪』が成立する可能性・根拠は一定程度あった
イ 告訴理由書
弁護士として努めなければならない高い品性の保持の観点から不適切である
しかし,全体としては社会的相当性を大きく逸脱していない
=正当な弁護活動の範囲内である
→違法性はない
※弁護士法2条
※高松高裁平成17年12月8日

告訴をする時点での把握できた状況を前提に『告訴する』判断が妥当かどうか,がポイントなのです。