【小学生アイドルの『抱っこ会』は児童福祉法違反の疑いあります!】

1 小学生アイドルの『抱っこ会』は問題では!?
2 児童ポルノ法には該当しない
3 児童虐待防止法は直接的な罰則がない
4 労働基準法の『有害業務』は『裸に近い』が前提→該当しない方向性だが曖昧
5 児童福祉法違反となる可能性あります!

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このテーマに関して取材を受けました。
J-CASTニュース 女子小学生アイドル撮影会で「抱っこ」 児童福祉法に触れる可能性も

1 小学生アイドルの『抱っこ会』は問題では!?

小学生の『アイドル』を成人男性が抱きかかえる画像が出回っています。
『抱っこ会』と言われていますが,実際には『握手会』のようなものであると思われます。
常識的感覚から主催することが『問題ではないか』という疑問が持たれています。
この法的扱いについて説明します。

<小学生アイドルとの『握手会』イベント>

小学生の女子アイドルとファンが握手をする
サービスが過剰となり男性ファンがハグする事態が発生
なお,衣類はフルに着用している

2 児童ポルノ法には該当しない

まず,『児童ポルノに抵触する』という発想があります。
確かに,児童ポルノ法の『目的』に性的搾取などという用語があるので,これに該当するように思えます(1条)。
しかし,違反とされる行為は,性交性交類似行為です(2条3項)。
『ハグする』程度ではこれに該当しません。

3 児童虐待防止法は直接的な罰則がない

次に,発想としては,『児童虐待だ!』という叫びがあります。
確かに,児童虐待防止法では,『わいせつな行為』や『心理的外傷を与える言動』が違反とされています。
しかし,あくまでも親権者への『指導』が主なものです。
直接的な罰則(刑事罰)が規定されているわけではありません。

4 労働基準法の『有害業務』は『裸に近い』が前提→該当しない方向性だが曖昧

(1)『有害な場所における業務に就かせた』→有罪

労働基準法では,18歳未満の者に『福祉に有害な場所における業務』をさせることが違反とされています(労働基準法62条2項)。

<『有害な業務』をさせた者に適用される法定刑>

6か月以下の懲役または30万円以下の罰金

(2)『有害な業務』という言葉の解釈で決まる

この『有害な業務』というのは解釈の幅が非常に広いです。
別の業態についての規則,通達では『客に性的な慰安歓楽を与えることを1つの目的とするもの』とされています。
さらに,具体的な基準の例として,ある程度『裸に近い』+『客との接触』という解釈が示されています。
ただ,必ずしもこの『基準』がすべての業態に適用されるとは限りません。
元々は『有害』かどうか,という文言の解釈です。
例えば,特に年齢が低い子供については,社会通念として,より『厳格』な基準となるべきでしょう。
具体的な基準が明確に存在するわけではありません。
ただ,小学生という特に低い年齢の女児が対象の場合,男性成人が身体に触れること自体が『有害』とみられる可能性があります。
詳しくはこちら|ソフト性的サービスと労働基準法の抵触

(3)解釈が拡がることの法的問題;明確性の原則

一方で,解釈としてこのような『拡がり』を展開すること自体は問題です。
『(刑事的な)違法/適法の境界』が不明確となるからです。
『明確性の原則』に違反するとして,規定自体を無効とする理論もあります。
詳しくはこちら|青少年育成条例の『みだらな性交』の解釈と明確性の原則違反

5 児童福祉法違反となる可能性あります!

(1)ファンの『ハグ』が迷惑防止条例違反に該当すると主催者は児童福祉違反となる

まず,児童福祉法で明確に禁止されている一定の『風俗営業』には該当しません(34条1項4号の3)。
ただし,『刑罰法令に触れる行為をなすおそれのある者に・・・児童を引き渡す』に該当する可能性はあります(34条1項7号)。
ここで『刑罰法令に触れる行為』についてまとめます。

<『刑罰法令に触れる行為』の例>

ア 『衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること』(東京都迷惑防止条例5条1項1号)  羞恥・不安を生じる態様,という前提があります(同1項本文)。
イ 『わいせつな行為』(強制わいせつ罪;刑法176条)

いわゆる『痴漢』と呼ばれるものです。
強制わいせつ罪は,一般に,下着に手を入れた以上の場合に該当すると扱われています。
『握手会でのハグ』については迷惑防止条例レベルです。
詳しくはこちら|痴漢;法的な罪名,量刑相場

(2)『小学生アイドルのハグ』が迷惑防止条例違反となるか

東京都の迷惑防止条例の条文をまとめます。

<東京都迷惑防止条例5条;要約>

『人を著しく羞恥させ,又は人に不安を覚えさせるような行為』
『衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れる』
※いずれも(『かつ』)

テンションが上がってハグに至った,という具体的な状況で判断は大きく違ってくるでしょう。
『ヤバい!』という素朴な感情を生じるものであれば『羞恥』『不安』に該当すると考えることもできます。
ファンの行為が迷惑条例違反となれば,主催者は児童福祉法違反となる可能性がある,ということです。

<児童福祉法違反の法定刑>

3年以下の懲役または100万円以下の罰金

(3)アイドル自身が我慢していても許されない

まず,法解釈の一般論として,小学生程度の子供の意見・判断は重視すべきではないとされています。

<子供の意見をスルーする例>

ア 離婚の際の親権者選択における家裁調査官のヒアリングでは年少者のコメントは重視されないイ 遺言・養子縁組の判断は15歳以上(民法961条,797条1項)

次に,児童福祉法違反は親告罪とはされていません。
要するに,『被害者』のアイドルやその親権者が問題視していなくても,理論的には警察や検察が主催者を捜査・起訴できるのです。
実際には被害者側の処罰の希望は捜査の段階から重視されます。

(4)主催者の『故意』は予見可能性で決まる

『握手会』の主催者が,当初『ファンがハグする』ということを予想できなかった,ということもありましょう。
その場合は,『故意』ではないので,主催者が児童福祉法違反(や労働基準法違反)という責任を負わないことになります。
逆に,『ハグ』という事態が発生する可能性が分かっていた場合,事態が発生した後にも続行した(止めなかった)場合,『故意』は成立します。
以上のように,細かい状況次第で,主催者が『児童福祉法違反』や『労働基準法違反』となる可能性があると言えます。

条文

[児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律]
(目的)
第一条  この法律は、児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性にかんがみ、あわせて児童の権利の擁護に関する国際的動向を踏まえ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童の権利を擁護することを目的とする。
第二条(略)
3  この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一  児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二  他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三  衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの

[児童虐待の防止等に関する法律]
(目的)
第一条  この法律は、児童虐待が児童の人権を著しく侵害し、その心身の成長及び人格の形成に重大な影響を与えるとともに、我が国における将来の世代の育成にも懸念を及ぼすことにかんがみ、児童に対する虐待の禁止、児童虐待の予防及び早期発見その他の児童虐待の防止に関する国及び地方公共団体の責務、児童虐待を受けた児童の保護及び自立の支援のための措置等を定めることにより、児童虐待の防止等に関する施策を促進し、もって児童の権利利益の擁護に資することを目的とする。
(児童虐待の定義)
第二条  この法律において、「児童虐待」とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)がその監護する児童(十八歳に満たない者をいう。以下同じ。)について行う次に掲げる行為をいう。
一  児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
二  児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。
三  児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。
四  児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。

[児童福祉法]
第三十四条  何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
一〜二(略)
三  公衆の娯楽を目的として、満十五歳に満たない児童にかるわざ又は曲馬をさせる行為
四  満十五歳に満たない児童に戸々について、又は道路その他これに準ずる場所で歌謡、遊芸その他の演技を業務としてさせる行為
四の二  児童に午後十時から午前三時までの間、戸々について、又は道路その他これに準ずる場所で物品の販売、配布、展示若しくは拾集又は役務の提供を業務としてさせる行為
四の三  戸々について、又は道路その他これに準ずる場所で物品の販売、配布、展示若しくは拾集又は役務の提供を業務として行う満十五歳に満たない児童を、当該業務を行うために、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律 (昭和二十三年法律第百二十二号)第二条第四項 の接待飲食等営業、同条第六項 の店舗型性風俗特殊営業及び同条第九項 の店舗型電話異性紹介営業に該当する営業を営む場所に立ち入らせる行為
五〜六(略)
七  前各号に掲げる行為をするおそれのある者その他児童に対し、刑罰法令に触れる行為をなすおそれのある者に、情を知つて、児童を引き渡す行為及び当該引渡し行為のなされるおそれがあるの情を知つて、他人に児童を引き渡す行為
八(略)
九  児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的をもつて、これを自己の支配下に置く行為
○2(略)

第六十条
1(略)
2  第三十四条第一項第一号から第五号まで又は第七号から第九号までの規定に違反した者は、三年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
3~5(略)

[東京都;公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例]
(粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止)
第五条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。
一 公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。
二 公衆便所、公衆浴場、公衆が使用することができる更衣室その他公衆が通常衣服の全部若しくは一部を着けない状態でいる場所又は公共の場所若しくは公共の乗物において、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
三 前二号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること。
2~4(略)

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