【比例原則・平等原則|行政処分は不公平だと無効となる|取消訴訟】

1 行政処分については『裁量権の逸脱』があると『取消』の対象となる
2 裁量権の逸脱の類型として,比例原則や平等原則違反がある
3 平等原則,比例原則は違反とされる可能性は低い

1 行政処分については『裁量権の逸脱』があると『取消』の対象となる

行政処分については,行政庁に一定の裁量が認められています。
逆に,裁量権の範囲を逸脱すると,取消の対象となります(行政事件手続法30条)。

一般的に取消を求める対象として典型的なものは,次のようなものです。

<行政処分取消請求の典型的な対象>

・公務員の懲戒免職
・交通違反による免許取消等の処分
・その他許認可の判断
・医師・歯科医師の行政処分

2 裁量権の逸脱の類型として,比例原則や平等原則違反がある

(1)平等原則・比例原則違反の具体例

裁量権の範囲の逸脱のうち,1つの類型として『平等原則違反』『比例原則違反』というものがあります。
これは,差別的な処分である,という主張です。
例えば,罰則など,処分対象者に不利益を生じる処分について,次のような言い分です。

<比例原則違反,平等原則違反の主張の具体例>

あ 『他の人は見逃されている』
い 『自分だけ処分されるのは不当だ』

要するに,行政処分における裁量権の行使の場面では『平等』,『比例』が要請される,ということです。
そこで『平等原則』,『比例原則』と呼ばれています。
『他の案件における処分とのバランス』が考慮される,と言うこともできます。

(2)平等原則・比例原則の内容

平等原則,比例原則はとても似ている原則です。
簡単にまとめると次のようになります。

<平等原則,比例原則の内容のまとめ>

↓原則 根拠条文 条文の内容 内容
平等原則 憲法14条 平等原則 恣意的,不合理な行政権行使の禁止
比例原則 憲法13条 幸福追求権 行政権行使内容と実現する目的の合理的比例関係の要請

(3)平等原則・比例原則により『無効』となる処分

平等原則・比例原則に反する行政処分は『無効』となります。
これをまとめます。

<平等原則・比例原則により無効となる行政処分|まとめ>

あ 他の案件との『平等』に反する処分
い 処分の『必要性』『目的・手段の比例』が欠けるもの

※憲法14条1項,13条

3 平等原則,比例原則は違反とされる可能性は低い

一般論として,行政裁量は広く認められています。
ですから,『平等原則』,『比例原則』に違反する,という判断はレアケースです。
逆に言えば,極端に不合理な行政処分については,取消が認められます。
判例をまとめておきます。

<平等原則,比例原則違反を判断した判例のまとめ>

あ 平等原則・比例原則違反に関する判例の分類
↓取消請求の対象 裁量権逸脱なし 平等原則違反と認定 比例原則違反と認定
国家公務員の懲戒免職 (判例1) (裁判例2)(裁判例4)
地方公務員の降任処分 (判例3)
産米供出個人割当通知処分 (判例5)
い 判例の特定

判例1 比例原則;違反を否定 最高裁昭和52年12月20日
判例2 比例原則;判例1の原審 大阪高裁昭和47年2月16日
判例3 比例原則;違反を否定 最高裁判所昭和48年9月14日
判例4 比例原則;違反を肯定 京都地裁平成23年9月9日
判例5 平等原則;違反を否定 最高裁昭和30年6月24日

条文

[行政事件訴訟法]
(裁量処分の取消し)
第三十条  行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる。

判例・参考情報

(判例1;比例原則;違反を否定)
[昭和52年12月20日 最高裁第三小法廷 昭47(行ツ)52号 行政処分無効確認等請求・上告審]
公務員に対する懲戒処分は、当該公務員に職務上の義務違反、その他、単なる労使関係の見地においてではなく、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務することをその本質的な内容とする勤務関係の見地において、公務員としてふさわしくない非行がある場合に、その責任を確認し、公務員関係の秩序を維持するため、科される制裁である。ところで、国公法は、同法所定の懲戒事由がある場合に、懲戒権者が、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をするときにいかなる処分を選択すべきかを決するについては、公正であるべきこと(七四条一項)を定め、平等取扱いの原則(二七条)及び不利益取扱いの禁止(九八条三項)に違反してはならないことを定めている以外に、具体的な基準を設けていない。したがつて、懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきか、を決定することができるものと考えられるのであるが、その判断は、右のような広範な事情を総合的に考慮してされるものである以上、平素から庁内の事情に通暁し、部下職員の指揮監督の衝にあたる者の裁量に任せるのでなければ、とうてい適切な結果を期待することができないものといわなければならない。それ故、公務員につき、国公法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきである。もとより、右の裁量は、恣意にわたることを得ないものであることは当然であるが、懲戒権者が右の裁量権の行使として懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきである。したがつて、裁判所が右の処分の適否を審査するにあたつては、懲戒権者と同一の立場に立つて懲戒処分をすべきであつたかどうか又はいかなる処分を選択すべきであつたかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである。
 右の見地に立つて、原審が確定した事実に基づき、本件処分が社会観念上著しく妥当を欠くものと認められるかどうかについて検討する。
 まず、八月一九日の抗議行動については、大塚の処分につき税関当局側の態度が組合員を納得させるものでなかつたことが執ようかつ激しい抗議活動を誘発した原因の一つとなつていたとしても、原判決もいうように、当局は根拠なく大塚の行動に疑いを抱いたわけではないことがうかがわれ、その根拠の公表を強く迫つた本件抗議活動の態様は明らかに行き過ぎであり、殊にその際における被上告人田代の言動は甚だしく乱暴であつて、その情状は決して軽いものではない。次に、一〇月五日、二六日の職場集会等は、職場離脱の時間がそれほど長時間にわたるものではなく、また、そのため業務処理が遅れ具体的に問題が生じたことがなかつたとしても、公共性の極めて強い税関におけるものであり、職場離脱が一部の職場だけでなく全体で行われたこと、しかも、それが当局の再三の警告、執務命令を無視して強行されたことも、軽視することができないところである。更に、一〇月三一日から一一月二日までの人員増加要求活動は、繁忙期における執務状態に基因し、職場からの強い要求があり、人員増加要求の目的自体は正当であつたとしても、繁忙期以外は休暇をとれないというほどではなく、一か月を平均すれば神戸税関だけが特に繁忙といえない状態であり、大蔵省関税当局も当時人員増加の要求に力を入れ、他省庁に比較してかなりの増員を獲得し、神戸税関にも多数の配分があつたというのであつて、本件の行為は、繁忙期において輸出関係書類の処理件数を低下させ、残件が増加したところで超過勤務を妨害し、重点審査が指示されるやそれをも妨害するという悪質な一連の業務処理の妨害であり、人員不足を認識させる方法として正当とはいいがたいものである。また、従前いわゆる梅干事件があり重点審査につき職員に不安があつて文書にすることを要求したものであつたとしても、梅干事件は収賄の疑いから取調べがされたものであつたのに対し、本件は上司の指示によるものであつて、両者は同一には論じられないものというべきであり、従来も職員各人の責任で重点審査が行われていたというのであるから、本件の場合に限り文書にしなければ不安であつたとは認められないし、また、本件行為により船積みができないという最悪の事態は避けられたとしても、職場を混乱させ、一一月一日に処理すべき分を二日に持ち越すという結果を発生させ、その遅延により業者に迷惑を及ぼし業者の苦情が出るという影響は軽視することができないところであり、これらの活動における被上告人らの行為の責任は重大であるといわなければならない。また、一二月二日超過勤務命令撤回闘争は、繁忙期の勤務状態に遠因があり、船積みすることができないという最悪の事態の発生はなかつたとしても、繁忙期における職場離脱による超過勤務の拒否であつて、輸出関係全体に及び、ために業者からも抗議が出ていたこと等を考慮すれば、その情状は軽いものということはできない。なお、国家公務員の争議行為及びそのあおり行為等を禁止する国公法九八条五項の規定が憲法二八にに違反するものではなく、また、公務員の行う争議行為に同法によつて違法とされるものとそうでないものとの区別を認めるべきでないことは、当裁判所の判例(昭和四三年(あ)第二七八〇号同四八年四月二五日大法廷判決・刑集二七巻四号五四七頁)とするところであるから、国公法八二条の適用にあたつても、同法九八条五項により禁止される争議行為とそうでないものとの区別を設け、更に、右規定に違反し違法とされる争議行為に違法性の強いものと弱いものとの区別を立てて、右規定違反として同法八二条により懲戒処分をすることができるのはそのうち違法性の強い争議行為に限るものと解すべきでないことは、当然である。したがつて、被上告人らに対する本件懲戒処分が裁量権の範囲を超えるかどうかの判断に際して、原判決のように、禁止される争議行為と許される争議行為との限界の判断がむずかしいこと、特に時間内にくい込んだ職場集会の許されるか否かの判断がむずかしいことを考慮に入れるべきでないことは、いうまでもないところである。
 前記の被上告人らの本件行為の性質、態様、情状及び被上告人らが日米安保条約反対闘争で昭和三五年六月三度にわたり午前九時三〇分ころまでの勤務時間内職場集会をしたことにより、同年七月被上告人神田が減給一〇分の一を二か月、同中田が減給一〇分の一を三か月、同田代が戒告の各懲戒処分を受けていること等に照らせば、原審が挙げる諸事情を考慮したとしても、本件処分が社会観念上著しく妥当を欠くものとまではいえず、他にこれを認めるに足る事情も見当たらない以上、本件処分が懲戒権者に任された裁量権の範囲を超えこれを濫用したものと判断することはできないものといわなければならない。

(判例2;比例原則;判例1の原審)
[昭和47年 2月16日 大阪高裁 昭44(行コ)55号 行政処分無効確認等請求控訴事件]
懲戒処分には免職、停職、減給、戒告の四種がある(国公法八二条)。前記認定のとおり国公法九八条が国家公務員の争議行為を一律全面的に禁じているものでないこと、禁止される為議行為と許される争議行為との限界の判断はむずかしいこと、特に時間内に喰い込んだ職場集会の許されるか否かの限界の判断はむずかしいこと、その他前記認定の諸般の事情、行為の態様、被控訴人らの組合における地位及び本件行為の当時の社会情勢等を考慮するならば、昭和三五年七月、日米安保条約反対斗争で、同年六月三度にわたり午前九時三〇分頃までの勤務時間内職場集会をしたことにより、原告神田が減給一〇分の一を二カ月間、同中田が減給一〇分の一を三カ月間、同田代が戒告の各懲戒処分を受けた前歴があること(〈証拠〉により認める)を考え合わせても、懲戒免職処分をもつて臨むのは、本人の現在及び将来に重大な苦痛を与え、その結果は余りにも過酷であり、社会観念上著しく妥当を欠くと認められるから、本件処分は裁量の範囲を超えたものとして違法というべきである。

(判例3;比例原則;違反を否定)
最高裁判所第2小法廷昭和48年9月14日判決
「ひとしく適格性の有無の判断であつても、分限処分が降任である場合と免職である場合とでは、前者がその職員が現に就いている特定の職についての適格性であるのに対し、後者の場合は、現に就いている職に限らず、転職の可能な他の職をも含めてこれらすべての職についての適格性である点において適格性の内容要素に相違があるのみならず、その結果においても、降任の場合は単に下位の職に降るにとどまるのに対し、免職の場合には公務員としての地位を失うという重大な結果になる点において大きな差異があることを考えれば、免職の場合における適格性の有無の判断については、特に厳密、慎重であることが要求されるのに対し、降任の場合における適格性の有無については、公務の能率の維持およびその適正な運営の確保の目的に照らして裁量的判断を加える余地を比較的広く認めても差支えないものと解される」

(判例4;比例原則;違反を肯定)
京都地方裁判所平成23年9月9日判決
「このようにみた場合,本件処分行政庁である上下水道局長において,前記ウの各事情に加えて,前記エの各事情を十分にしんしゃくし,さらに,懲戒免職処分が公務員の地位を失わせるとともに名誉や財産の観点から有形無形の大きな不利益を与えるものであって,ほかの懲戒処分に比して特に慎重な考慮が要請されるべきものであること,公務の円滑な執行,その質の維持,公務員の士気の向上といった行政課題は,個々の公務員に対する懲戒の厳格化によってのみ達成されるものではないこと等を考慮すれば,これらの事情に十分配慮することなく懲戒免職処分という結論に達した本件処分は,その判断過程において十分ならざるものがあり,かつ,その結論においても,社会観念上著しく妥当を欠いて苛酷であって,裁量権を付与した目的を逸脱して,これを濫用したものと評価すべきである。」

(判例5;平等原則;違反を否定)
 最高裁昭和30年6月24日判決
 「その方法として、いわゆる事前割当の方法 (生産開始前に予め部落内の生産者相互の協議を経て割当額を決定通知する方法) によるべきかどうか、また割当通知の時期を何時とすべきか等については、何等具体的な定めがなかつたことは明らかである。従つて、これらの点についてどのような措置をとるかは、一応、行政庁の裁量に任されていたものと解さざるを得ない。もつとも、かような場合においても、行政庁は、何等いわれがなく特定の個人を差別的に取り扱いこれに不利益を及ぼす自由を有するものではなく、この意味においては行政庁の裁量権には一定の限界があるものと解すべきである。」

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