【共有物の使用方法の意思決定の方法(当事者・協議の要否)】

1 共有物の使用方法の意思決定の方法(当事者・協議の要否)

共有物の使用方法を決定するには、その内容が変更・(狭義の)管理・保存行為のいずれにあたるかによって要件が異なります。管理行為は、持分の価格の過半数の共有者の賛成が必要です。
詳しくはこちら|共有物の変更・管理・保存行為の意思決定に必要な同意の範囲と大まかな分類
実際に、持分の過半数の賛成を確認して共有者としての意思決定をするプロセスに関する解釈論があります。本記事ではこれについて説明します。

2 共有物の使用方法の意思決定の条文

最初に、共有物の使用方法の意思決定に関する条文の規定を押さえておきます。過半数で決するという記載だけで、どのように決するのか、ということについては記載がありません。

共有物の使用方法の意思決定の条文

共有物の管理に関する事項(次条第一項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み、共有物に前条第一項に規定する変更を加えるものを除く。次項において同じ。)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。
※民法252条1項

3 共有物の使用方法の意思決定の当事者

共有物の使用方法の意思決定をする当事者(主体)は、当然ですが共有者です。この共有者とは、登記上の共有者ということになります。

共有物の使用方法の意思決定の当事者

あ 基本

使用方法の決定は『共有者』が行う
※民法252条

い 持分譲渡の対抗要件(概要)

共有者であることを他の共有者に主張するためには登記が必要である
※大判大正5年12月27日
詳しくはこちら|共有持分の登記の効力(持分譲渡・持分割合の対抗関係・平等推定)

う 使用方法の意思決定の当事者

共有者間の合意は登記上の共有者だけで可能である
登記を得ていない共有者(共有持分の譲受人)は合意の無効を主張できない
※能見善久ほか編『論点体系 判例民法2物権 第3版』第一法規2019年p337

え 共有物分割の当事者(参考)

共有物分割請求は登記上の共有者を当事者にする
『う』と同様の状況である
※最高裁昭和46年6月18日
詳しくはこちら|共有物分割(訴訟)の当事者(共同訴訟形態)と持分割合の特定

4 使用方法の意思決定の協議を不要とする見解

共有者が使用方法の意思決定をする方法(プロセス)について、条文上には特に記載されていません。株主総会については会社法で、意思決定までの流れが細かく規定されていますが、これとは大きく異なります。
このような理由から、協議は不要であるという見解もあります。

使用方法の意思決定の協議を不要とする見解

あ 条文上の規定の有無(前提)

共有物の使用方法の意思決定において、協議・意思表明の機会が必要かどうか
→条文上には規定はない

い 協議を不要とする裁判例

(多数持分権者から占有共有者に対する明渡請求を前提として)
多数持分権者は当然には明渡請求権を有しないが、管理方法としてみずから使用・収益することに決意したことを理由として管理方法の決定を訴状送達の方法によって意思表示をしたものと解する
※神戸地裁昭和37年7月25日
※大阪高裁昭和38年2月1日(前記裁判例の上告審)
※奈良次郎稿『最高裁判所判例解説民事篇 昭和41年度』p249参照
※大阪高裁昭和61年10月30日(最判昭和63年5月20日の原審・協議は必要ないと読み取れる)
※齊木敏文稿『共有者の一部の者から共有物の占有使用を承認された第三者に対するその余の共有者からの明渡請求の可否』/『判例タイムズ706号臨時増刊』p37参照
※大阪高裁平成20年11月28日(準共有株式の権利行使者の指定について)

う 平野裕之氏・物権法

「決する」というが、共有者は団体を構成するものではないので、総会を開催する必要はなく、多数持分を持つ共有者が他の共有者に意見を述べる機会を与えるプロセスは不要である(判例はなく不明)。
ただし、共有者は共有物の管理に利害関係を有しているため、決定内容を通知すべきである。
不満のある共有者には分割請求権が保障されている・・・。
※平野裕之著『物権法 第2版』日本評論社2022年p362

え 判例民法

「その過半数で決する」という意味は、全員で協議したうえで決定することが必要か、過半数の持分割合を持っている者だけで自由に決定し、他の共有者は自己の意思を表明し協議に参加する機会も与えられなくてよいのかは、明確ではない。
この点についての判例はない。
1つの団体を構成しているのではないので、団体としての意思決定のプロセスを確保する必要はなく、疑問は残るが、全員で協議する必要はなく後者のように考えてよいものと思われる。
※平野裕之稿/能見善久ほか編『論点体系 判例民法2 第3版』第一法規2019年p350
※鈴木一洋ほか編『共有の法律相談』青林書院2019年p32(同趣旨)

5 使用方法の意思決定の協議を必要とする見解

いくつかの判例の内容を元にしつつ、共有物の使用方法の意思決定には協議が必要であるという見解もあります。つまり、協議や多数決がない限り、意思決定としての効果は生じないという見解です。

使用方法の意思決定の協議を必要とする見解

あ 昭和63年最判からの読み取り

・・・本判決(注・最判昭和63年5月20日)は、協議は必要であり、これがない以上、本件使用貸借契約にXが拘束されるいわれはなく、直接の占有権限(Yの占有を全画的(注・原文のまま)に正当ならしめるもの)は認められないとしたものであろう。
※齊木敏文稿『共有者の一部の者から共有物の占有使用を承認された第三者に対するその余の共有者からの明渡請求の可否』/『判例タイムズ706号臨時増刊』p37

い 昭和41年最判からの読み取り

ア 昭和41年最判の要点 持分の過半数を有する共有者が共有物を占有する共有者に対して明渡請求をすることは認められない
※最判昭和41年5月19日
イ 使用方法の協議との関係(概要) 共有物の使用方法として
持分の過半数を有する共有者の賛成により、共有物の使用方法としての意思決定を行えば、明渡請求が認められる
詳しくはこちら|共有物を使用する共有者に対する明渡・金銭の請求(基本)
ウ 読み取れる内容 昭和41年最判は、次の事項を前提としていると読み取れる
協議をしていないと意思決定の効果は生じない
・多数持分権者による意思表明(訴状送達)だけでは意思決定の効果は生じない
※富越和厚稿『ジュリスト918号』有斐閣1988年9月p78参照

う 学説

ア 多数決の性質を理由とする見解 (民法252条の管理行為の意思決定について)
明文にはないが、多数決の前提として協議が当然必要であると解されている
※齊木敏文稿『共有者の一部の者から共有物の占有使用を承認された第三者に対するその余の共有者からの明渡請求の可否』/『判例タイムズ706号臨時増刊』p37
※東京家庭裁判所身分法研究会稿『相続家屋における居住の保護とその評価』/『ジュリスト346号』有斐閣1966年5月p82(同趣旨)
イ 「全員による決定」を理由とする見解 ・・・共有物の管理として過半数決定をするためには、原則として、共有者全員による協議を経る必要がある。
多数持分権者のみによる決定は、全員による過半数決定とはいえないからである。
※伊藤栄寿稿/潮見佳男ほか編著『Before/After民法・不動産登記法改正』弘文堂2023年p33

え 下級審裁判例

(共有者の1人による共有物の使用の法的性質の言及の中で)
控訴人を除いた他の共有者の同意のみをもつて、適法な協議を経たものということはできないし、・・・
※東京高判昭和58年1月31日

6 令和3年改正における議論→協議不要方向

以上のように、協議の要否の解釈はどちらの見解もありますが、令和3年の民法改正の中でも議論になっています。仮に協議が必要(協議をしないで決定しても無効となる)という規定を作った場合、共有者による意思表明の機会が確実に与えられるというメリットがあります。一方、たとえば数十人の共有者が存在する場合、意思決定の後に、そのうち1人への通知が不備であるという理由で決定が無効になるリスクを残す、というデメリットもあります。
議論の初期段階では、デメリットを重視して、協議不要を明文化する発案がありましたが、賛成、反対の両方の意見があったので、結果的に明文化自体をしない(見送る)という結論になりました。ただ、法務省としては協議不要の解釈をとっていると読み取れます。法務省の意見が裁判所を拘束するわけではないですが、影響は大きいと思います。

令和3年改正における議論→協議不要方向

あ 部会資料3→協議必要説批判+不要説の明文化志向

持分の価格に従ってその過半数で決することの意味について、学説の中には、過半数を有する共有者の意思に合致しているだけでは足りず、共有者全員での協議(話合い)を経ることを要するとする意見がある。
もっとも、この意見に従うと、過半数を有する共有者らの意思が合致していても、他の共有者の中に所在等が不明である者がいれば、結局、共有物の利用方法を定めることなどができなくなり、妥当ではないと思われるが、共有物を円滑に利用することができるようにする観点から、このことを条文等で明確にすることが考えられる。
※法制審議会民法・不動産登記法部会第2回会議(平成31年4月23日)『部会資料3』p8

い 部会資料40→条文化見送り

ア 協議必要という発想(前提) 第13回会議においては、共有物の管理に関する事項を持分の価格に従ってその過半数で決する際には、所在等が知れている共有者にその対象を限るなどした上で、他の共有者の意思表明の機会を保障することに配慮すべきであるとの指摘があった。
イ 協議を決定の要件とした場合の不合理性 そこで改めて検討すると、仮に、管理に関する事項を決するに当たり、共有者間での協議又は他の共有者への通知を義務付ける規律を設けるとすると、この義務を履行しなかった場合の効果が問題となるが、共有者による共有物の管理に関する事項の決定を無効とする共有物の管理に関する事項の定め等をするための要件とする)と、多数の共有持分を有する共有者の権利を過度に制約することになり妥当でないと考えられる。
ウ 訓示的規定の創設→意義薄弱 また、協議又は通知の規律を訓示的なものとする(共有物の管理に関する事項の定め等をするための要件としない)ことも考えられるが、結局、共有者による協議又は通知を強制することができないことになるため、規律を設ける意義が乏しいことになる。
エ 結論→規律創設なし そうすると、結局、少数持分を有する共有者の意思表明の機会を保障しつつ、多数持分を有する共有者の権利を調整する規律を適切に置くことは難しいと考えられる。
そこで、結論としては、本文において、共有物の管理に関する事項の定め等につき各共有者の持分の価格に従ってその過半数で決する際の手続については、規律を設けないとする提案を維持している。
オ 実務における協議の推奨 なお、実務上、紛争予防の観点から、管理に関する事項を決する際には、当事者間において協議を行うことが望ましいと考えられるが、本文の提案は、当事者によるこのような工夫を否定するものではない。
※法制審議会民法・不動産登記法部会第17回会議(令和2年8月25日)『部会資料40』p6

う 私道ガイドライン→協議不要説前提

なお、工事が管理に関する事項に当たり、各共有者の持分の過半数で決する場合であっても、少数者との協議の機会を設けることが望ましい
※『複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書~所有者不明私道への対応ガイドライン~第2版』共有私道の保存・管理等に関する事例研究会2022年p18

え 令和3年改正の議論の読み取り→協議不要方向

ア 荒井達也氏指摘 42)法務省事務当局の見解(協議不要説?)
法務省事務当局が当初、協議不要説を前提とした提案をしていたことを踏まえると(部会資料3・8頁)、法務省事務当局は、協議不要説に立っているように思われます。
また、法務省が作成に関与した共有私道ガイドラインでは、「工事が管理に関する事項に当たり、各共有者の持分の価格に従った過半数で決する場合であっても、少数者との協議の機会を設けることが望ましい。」とされており(同13頁)、ここでも協議不要説に立っているように見受けられます。
※荒井達也著『Q&A 令和3年民法・不動産登記法改正の要点と実務への影響』日本加除出版2021年p82
イ 秋山靖浩氏指摘 以上の経緯(注・令和3年改正における議論)によると、252条1項の下では、協議必要説は採用しにくくなったようにも見える。
もっとも、多数決という団体的意思決定においては意思表明の機会を共有者に保障するべきであるとの認識に依拠した上で、上記①②の説明は必ずしも説得的でないとの批判がすでに提起されている。
同項の下でも、引き続き、議論を続けていくべきだろう。
※秋山靖浩稿/潮見佳男ほか編『詳解 改正民法・改正不登法・相続土地国庫帰属法』商事法務2023年p84

7 準共有の株式の権利行使者の決定における協議の要否(概要)

ところで、株式が準共有である場合には権利行使者の指定が必要となります。権利行使者を決定することは共有物の管理行為に分類されるので多数決によって定めます。この多数決についても、協議が必要とする見解と不要とする見解に分かれています。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|株式の準共有における権利行使者の指定・議決権行使

8 協議を拒否する共有者への明渡請求(参考)

共有者間の協議が明渡請求の判断に影響した裁判例(東京地裁昭和35年10月18日)があります。
原則的に、共有者から他の共有者に対する明渡請求は認められません。しかし、協議を拒否したなどの特殊な事情により例外的に明渡請求が認められたという裁判例です。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有物を使用する共有者に対する明渡・原状回復請求(特殊事情のあるケース)

9 共有物の使用方法についての黙示の合意の認定(参考)

ところで、実際の共有不動産では、特定の共有者が占有(居住)している状態が長期間継続しているというケースがよくあります。このような場合に、このような使用方法を共有者全員が黙示に同意している、と認定される傾向もあります。
詳しくはこちら|共有物の使用方法・意思決定|典型例・暗黙の合意
逆にいえば、以上で説明した、協議が必要か不要かという議論は、まだ協議や(黙示も含めた)合意をしていないことが前提となっています。間違えやすいので注意を要します。

10 実務における使用方法の意思決定の原則的な方法

実際の原則的な共有物の使用方法を決定するプロセスは、共有者全員が集まって協議した上で多数決をするというものです。

実務における使用方法の意思決定の原則的な方法

あ 基本

一般的には、共有者全員が集まって協議をする
過半数の持分権者が賛成した場合
→『共有者全体としての意思決定』となる
いわゆる『決を採る』ことである

い 共有者への通知の内容の例

協議の前に各共有者に次の事項を通知する
ア 予定する行為の内容イ 共有者の意向を質問・聴取する内容

11 使用方法の意思決定のアレンジ(簡略化)

実際には、共有者間の対立が激しい状況もよくあります。そのような場合には、協議自体を省略するとか、書面で協議や決議をするという方法もあります。

使用方法の意思決定のアレンジ(簡略化)

あ 前提事情

少数の持分権者が強く反対する
事実上の妨害がなされることが予想される
→状況によって最適な方法を選択する

い 通知なし

敢えて事前通知を避ける
多数の共有者のみで決定する
少数持分の共有者には決定結果だけを通知する
協議不要説からは問題ないが、協議必要説からは有効ではないことになる

う 書面決議

少数持分の共有者には意見を質問する通知を出す
集まって行う協議は実施しない

12 共有物の使用方法の意思決定の通知書サンプル(概要)

共有物の使用方法の意思決定のプロセスで用いる通知書の具体例、サンプルは別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|使用方法の意思決定プロセス|具体例|通知書サンプル・トラブル予防

本記事では、共有物の使用方法の意思決定のプロセスについて説明しました。
実際には、具体的な状況によって最適な手法は異なります。
実際に共有物(共有不動産)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【共有持分譲渡における共有者間の権利関係の承継(民法254条)の基本】

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