【導管袋地|ライフラインを隣地の地下に埋設できる】

1 導管袋地|袋地へのライフライン接続・囲繞地の利用

公道に通じない『袋地』は法律上の通行権が認められます。
詳しくはこちら|公道に接しない土地の所有者は周囲の土地を通行できる(囲繞地通行権)
この点、通行権ではなく、地下のライフライン埋設も必要になります。
問題が生じる具体的な典型例をまとめます。

導管袋地|具体的典型例

Aの自宅は、周囲が私道や隣家の敷地となっていて、公道に直接接していない
上下水道を通すためには、他人B、Cの所有地の地下を利用せざるを得ない
しかし、周囲の土地所有者B、Cが認めてくれない
『掘削承諾書』に調印してくれない
上下水道の設置はできないのか

この場合の法律的な扱いについて、次に説明します。

2 導管袋地|ライフライン設置の権利

(1)導管袋地|判例で認められている

囲繞地へのライフラインを設置する権利は認められています。

導管袋地|ライフライン設置の権利

『囲繞地』所有者には『ライフラインの設置を許容する義務』がある
※下水道法10条、11条
※民法209条、210条、211条、220条、221条類推
※最高裁平成5年9月24日
※東京地裁平成4年4月28日
※福岡高裁平成3年1月30日
※東京地裁平成3年1月29日

認められる内容が、一般的な『通行権』ではなく『ライフラインの設置』です。
そこで『導管袋地』と呼んでいます。

(2)法解釈の手法にはバラツキがある

法解釈については多少複雑なので説明しておきます。
関連する条文がありますが、いずれもストレートには該当しないです。
そこで直接適用ではなく類推適用という形が取られています。
また、類推適用(類推解釈)としては、実務上はこれらのうち一部のみをピックアップすることが多いです。
裁判例においても、ばらつきが目立ちます。
ただし、法解釈の結論には特に影響がないでしょう。

関連する条文

条文 規定上の対象
下水道法10条、11条 公共下水道の供用が開始された場合
民法209条、210条、211条 対象=通行権
民法220条、221条 対象=高低差がある土地、排水のみ

3 導管袋地×違法建築|利用権が認められないこともある

(1)導管袋地×違法建築|事例

袋地の建物が『違法建築』というケースではライフライン設置で問題があります。

導管袋地×違法建築|事例

私の自宅は、周囲が私道や隣家の敷地となっていて、公道に直接接していない
上下水道を通すためには、他人の所有地の地下を利用せざるを得ない
しかし、周囲の土地所有者が認めてくれない
ところで、私の自宅は建築基準法に違反している部分がある
上下水道の設置はできないのか

(2)導管袋地|ライフライン設置否定判例

違法建築と導管袋地のライフライン設置についての判例を紹介します。

導管袋地|ライフライン設置が否定されたケース

あ 事案

工事施行停止命令が発せられた
これを無視して建物が建築された

い 裁判所の判断

ライフライン設置のための袋地利用権を認めない
理由=権利濫用
※最高裁平成5年9月24日

この判例における判断のポイントは工事施工停止命令です。
逆に、このような明確な停止の要請がなかった場合は、別の結論となる可能性が高いでしょう。

(3)導管袋地×違法建築|ポイント

違法建築と導管袋地の解釈の要点をまとめます。

導管袋地×違法建築|ポイント

単に建築基準法に適合しない点があるというだけ
→導管袋地として否定されるとは限らない
=ライフライン設置・利用権が認められることもある

4 囲繞地のライフライン|既存設備への接続が認められる

導管袋地|既存設備への接続|事例

私の自宅は、周囲が私道や隣家の敷地となっていて、公道に直接接していない
上下水道を通すためには、他人の所有地の地下を利用せざるを得ない
隣地Aには、上下水道の設備が通っている
しかし、隣地Aの所有者は認めてくれない
隣地Aに既にある設備に接続する形で私の自宅に上下水道を延長することはできないのか

袋地は、囲繞地を利用しないと上下水道などのライフラインを設置できません。
そこで、囲繞地の利用は一定の範囲で認められています(前述)。
さらに『囲繞地に既に設置された給排水設備の利用』も認められることがあります。
この条件と、費用の負担について、判例の解釈をまとめると↓のようになります。

囲繞地に設置済の給排水設備の利用が認められるケース

あ 条件

既存の給排水設備を、袋地の給排水のために使用することが、他の方法に比べて合理的である

い 裁判所の判断

ア 利用権 当該給排水設備の利用が認められる
イ 費用負担 設置やメンテナンスの費用について
→囲繞地所有者は袋地所有者に分担を請求できる
※民法220条、221条2項類推
※最高裁平成14年10月15日

5 導管袋地×提訴|請求権の特定|確認・妨害排除/承諾請求

導管袋地に関する提訴の際は『請求権の特定』が問題となります。

導管袋地×提訴|請求権の特定|事例

私の自宅は、周囲が私道や隣家の敷地となっていて、公道に直接接していない
上下水道を通すためには、囲繞地の所有地の地下を利用せざるを得ない
囲繞地所有者が設置工事を認めてくれない
訴訟によって裁判所に認めてもらうしかない状態である
ところで、設置工事をする場合には、役所に、掘削対象土地所有者の『掘削承諾書』を出す必要がある
訴訟の請求内容は『承諾請求』にすべきか

『請求権の特定』についての解釈論をまとめます。

導管袋地×提訴|請求権の特定

あ 請求権=訴訟物の特定の必要性

提訴の際は請求権を特定、明記する必要がある

い 『掘削承諾書』の性質

ライフライン設置については、役所の手続上『承諾書』が要求される
『承諾書』の承諾は、法的なものではなく、俗称に過ぎない

う 請求権の内容

ア 理論・原則論 『承諾』は登記申請などの『意思表示の擬制』のみである
『掘削承諾』は『意思表示の擬制』ではない
→理論的には確認請求or妨害排除請求が正しい
※長岡簡判昭和42年5月17日
※民事執行法174条参照;意思表示の擬制
※不動産登記法63条1項参照;登記申請の意思表示擬制
イ 実務の傾向 最近は実務上、承諾請求も認められる傾向がある

通常は、審理手続・判決において具体的な違いは生じないでしょう。
ただし、担当裁判官の考え・方針で扱いが変わることもあります。
請求権を併記する=予備的請求、などの不利益を未然に防ぐ方法もあります。

6 導管袋地×提訴|請求権の特定|まとめ

導管袋地の訴訟での請求権の特定についてまとめます。

導管袋地の提訴における請求権の構成

請求権の種類 具体的内容 理論 実務
承諾請求 ライフライン設置を『承諾』する
確認請求 ライフライン設置の権利の存在の確認を求める
妨害排除請求 ライフライン設置業務を妨害することを防止する

7 導管袋地の紛争解決×実例|所要期間・コスト

導管袋地に関する訴訟は、平均的な訴訟一般の中では『軽い』方です。
所要期間・コストなどの実務的な傾向をまとめます。

導管袋地の紛争解決×実例|所要期間・コスト

あ 典型例

権利関係で他の所有者・共有者から『反対』されるケースが多い

い 解決の見通し|概要

現況で通行している状況があれば比較的早期・低コストで解決可能

う 実例

掘削承諾書への調印拒否
→提訴
→2〜3か月で和解・10万円だけの和解金
→現実に建築作業が再開→完成した

8 ライフライン設置を合意で設定|地役権・賃貸借契約など

以上の説明は、ライフラインの設置について当事者間に『合意・契約』がない場合が前提です。
この点、ライフライン設置について『合意』があれば、当然スムーズに埋設作業を進められます。
さらに『地役権』などの権利を登記しておくと保全がしっかりとできます。
通路の土地を譲り受けた者も『地役権』を承継することになるのです。
なお、一定の状況があると『登記がなくても』権利の承継が認められることもあります。
このような内容については別記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|私道の通行権|設定方法|共有・通行地役権・賃貸借・使用貸借|登記・対抗力

参考情報

安藤一郎『現代裁判法体系5 私道・境界』新日本法規出版

9 上下水埋設管の状態→建築確認NG|売買契約のトラブル

不動産の売買契約後に『埋設管』が理由で建築確認が下りない、というケースもあります。
この場合『売買契約』の行方や売主の責任が生じます。

不動産売買×上下水道管埋設|トラブル

あ 典型例

不動産の売買契約後に『埋設管』が理由で建築確認が下りない

い 法的解決方法|概要

売買契約の解除
損害賠償請求

詳しい内容については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|土地売買後の上下水道の容量不足発覚によるトラブル

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【除斥期間の基本(消滅時効との比較・権利行使の内容・救済的判例)】

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