【土地賃貸借は一時使用目的であれば通常の借地としては扱われない】

1 土地賃貸借が一時使用目的に該当すると,借地期間などの適用がない
2 一時使用目的は客観的+合理的理由があれば認められる
3 建物が存在する場合でも一時的と分かれば一時使用目的が認められる
4 土地のリースバックは,取り壊し予定が明確なので一時使用目的と認められる
5 区画整理等で長期間の土地利用が不可能な場合,一時使用目的となる
6 賃貸人の土地利用計画を借地人が十分理解していないと一時使用目的と認められない
7 裁判上の和解で短期間の土地賃貸借を合意した場合,原則的に一時使用目的と認められる
8 裁判上の和解でも,賃貸借期間が長いと一時使用目的が否定されることもある
9 当事者が合意しただけでは一時使用目的は認められない(強行規定)

1 土地賃貸借が一時使用目的に該当すると,借地期間などの適用がない

建物所有の土地賃貸借は,借地借家法上の『借地』となります(借地借家法2条1号)。
しかし,土地の賃貸借契約の目的が「一時使用の目的」であることが明確であれば,借地借家法の規定の大部分が適用されません(借地借家法25条(借地法9条))。
つまり借地ということにはなりません。
そうすると,最低期間制限(30年)も適用になりません。
例えば,契約書で『3年』と規定してあればこれは有効,ということになります。

2 一時使用目的は客観的+合理的理由があれば認められる

借地借家法は,借主保護のための法律です。
仮に契約書の記載で簡単に適用を排除できるとすると,適用排除とする契約(書)が流行ってしまいましょう。
それでは意味がないので,借地借家法は契約(合意)で排除できないのが原則,とされています(強行法規性)。
つまり一時使用目的という目的がハッキリしている場合だけ,そのルールが適用されるのです。

<一時使用目的の適用条件>

短期間に限り賃貸借を存続させる,という合意について客観的・合理的な理由が存在する
※最高裁昭和43年3月28日

<判断要素の例>

・土地の利用目的
・地上建物の種類、設備、構造
・賃貸期間

3 建物が存在する場合でも一時的と分かれば一時使用目的が認められる

賃貸借の対象土地の上に,実際に建物が建っていると,通常は一時使用目的ではない,と考えられます。
しかし,必ず,というわけではありません。

<建物が存在しても一時使用目的と認められるケース>

背景事情等から,暫定的・一時的な建物,ということが分かる

判例では,医学就業中限定という前提で土地を貸したケースについて,一時使用目的と認めたものがあります。
※最高裁昭和37年2月6日
この事例においては,期間を3年としており,実際には更新や賃料(地代)増額もなされていました。
更新賃料増額は,契約期間を長期化する意図があるという認定につながる方向です。
しかし,更新や賃料増額は一時使用目的を否定することにはならないと判断されました。

4 土地のリースバックは,取り壊し予定が明確なので一時使用目的と認められる

<取り壊し予定→一時使用目的が認められる典型例>

売買契約が締結された
土地上に古い建物があり,取り壊しまでの一定期間だけ売主が住んでいることにした

このように,土地の売買契約は先行させ,その後一定期間は,買主が売主に土地を貸すということが行われます。
売却とは逆方向に賃貸借が行われるのでリースバックと呼ぶことがあります。
この賃貸借契約により,売主が所有する建物の占有権原を確保することになります。
このような経緯から,建物が取り壊し予定となっていることを重視し,このリースバックについて,一時使用目的であると認められるのです。

5 区画整理等で長期間の土地利用が不可能な場合,一時使用目的となる

(1)公的プロジェクトで長期間の利用不可能一時使用目的となる

区画整理など,公的なプロジェクトにより,長期間の利用が不可能であることが明白な土地があります。
このような場合は,その土地を賃貸しても,客観的に長期間の利用は想定されていないということが明らかです。
原則として,一時使用目的賃貸借となります。
※最高裁昭和32年2月7日

(2)公的プロジェクトによる影響が小さい→長期間の利用可能一時使用目的とならない

しかし一方,区画整理の具体的な内容によっては,土地の位置・形状が大幅には変わらないということもあります。
その場合,土地の賃貸借について区画整理後も賃貸借が継続するということも想定できます。
そこで,一時使用目的とは認められず,その結果,借地として扱われる可能性もあります。

6 賃貸人の土地利用計画を借地人が十分理解していないと一時使用目的と認められない

判例の理論では,一時使用目的と言えるためには,短期間限定,ということが客観的であることが要求されています。
地主側の計画である場合は,これが具体化していて,かつ,賃借人も了解していることがポイントです。
逆に,賃借人が地主側の計画を知らなかった場合は,一時使用目的が認められないこともあります。
要は,借地人サイドから見ると後付けで利用計画を作ったということになってしまうからです。
このようなケースにおいては,賃貸借契約締結当初より,次のような工夫をしておくと良いでしょう。

<地主側の土地利用計画→一般の借地と扱われるリスクを回避する工夫>

・一定期間後の土地利用計画を地主から賃借人に十分に説明しておく
・賃貸借契約書に,土地利用計画の内容を記載しておく
・土地利用計画に関する設計図,図面等を保管しておく

このような工夫は,地主・賃借人の認識を共通にしておくことにつながります。
無用な誤解,誤った主張を回避することになります。

7 裁判上の和解で短期間の土地賃貸借を合意した場合,原則的に一時使用目的と認められる

(1)裁判上の和解として短期間の土地賃貸借を合意することがある

裁判上の和解として,1年〜数年の土地賃貸借契約を合意することがあります。
裁判上の和解は,裁判官が関与して条項を作成し,調書として完成します。
つまり,裁判官が内容をチェックしているのです。
ここで,短期間限定の賃貸借として裁判上の和解が成立していれば,一時使用目的として有効です。
※最高裁昭和43年3月28日

(2)裁判官がチェックしているので一時使用目的として期間も有効である

仮に一時使用目的ではないとすれば,最低限の期間30年となります。
和解内容が借地借家法違反となってしまいます。
裁判官の適法性チェックが誤っていた,ということになります。
結局裁判官が判断を誤っていないのであるから,一時使用目的として有効である,という考え方になります。

8 裁判上の和解でも,賃貸借期間が長いと一時使用目的が否定されることもある

(1)裁判上の和解による『期間』(一時使用目的)が否定されたこともある

裁判上の和解における一時使用目的の土地賃貸借について,別の訴訟で有効性が否定された判例があります。
※最高裁昭和45年7月21日
つまり更新はないという条項が無効とされたのです。

(2)期間が22年と中途半端であったため一時使用目的にしては長い,と考えられた

この判例で,一時使用目的を否定した決め手は期間が長いということです。
契約期間が22年とされていたのです。
さすがに長いので短期間限定という意図は見えない,と判断されたのです。
裁判上の和解の有効性が否定されるという意味でレアなケースです。

9 当事者が合意しただけでは一時使用目的は認められない(強行規定)

(1)当事者が合意しただけでは一時使用目的は認められない

実際に,契約書に『一時使用目的』ということが明記されているけれど,現実的な短期限定の必要性・特殊性が一切ない,というケースがあります。
このような場合は,短期限定という客観的・合理的理由がない,ということになり,一時使用目的とは認められません。
合意しても無効,という性質を強行法規性と言います。

(2)長期間経過後に紛争が具体化することが多い

契約開始当時は,地主・賃借人ともに意向は合致しているのでトラブルになることはないでしょう。
しかし,長期間が経過し,気持ちが変わってきたり,また,相続により当事者に変更が生じると,借地権の主張が不意に飛び出すこともあります。

(3)一時使用目的は後から否定されるリスクがあるので定期借地契約が確実で使いやすい

土地の賃貸借があり,賃借人が土地上に建物を建てる,という場合は,十分に慎重に契約内容・契約書の確認・検討を行っておくべきです。
具体的には,現在は,定期借地契約,が整備されています。
詳しくはこちら|定期借地の基本(3つの種類と普通借地との違い)
この方式で契約すれば,後から解釈が割れるリスクを避けることができます。
逆に一時使用目的賃貸借は,利用する場面が一挙に減っています。

本記事では,土地の賃貸借が一時使用目的として,借地借家法が適用されなくなるケースについて説明しました。
実際には,個別的事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に借地(土地の賃貸借)に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【建物所有目的の土地賃貸借は『借地』として借地借家法が適用される】
【借主の金銭負担の程度により土地の使用貸借と借地(賃貸借)を判別する】

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