1 戦後期の継続賃料算定手法
2 地価高騰時代の継続賃料算定方式
3 スライド法と利回り法の関係性(基本)
4 地価急騰と利回り法/スライド法
5 個別的事情や賃料改定合意と利回り法の優位性
6 利回り法だけの算定を否定した最高裁判例

1 戦後期の継続賃料算定手法

継続賃料の算定手法の中のスライド法は,利回り法から派生した経緯があります。
本記事ではスライド法の確立プロセスを説明します。
継続賃料の算定手法について,時代の流れに沿って説明します。
まずは戦後期にさかのぼります。

<戦後期の継続賃料算定手法>

あ 戦後の継続賃料算定の傾向

継続賃料の算定について
戦後の判例において多く採用された方式
→主に『い』であり,次いで『う』であった

い 利回り法

主に利回り法(積算法)が用いられていた
=『地価』にスライドするもの

う スライド法

『い』に次いでスライド法が用いられていた
※鈴木禄弥氏の説明/賃料評価実務研究会『賃料評価の理論と実務〜継続賃料評価の再構築〜』住宅新報社p93

2 地価高騰時代の継続賃料算定方式

戦後期の後は,地価高騰時代が到来します。従来の利回り法が機能しない状況となったのです。

<地価高騰時代の継続賃料算定方式(※1)>

あ 地価高騰

昭和40年代以降
→異常な地価の高騰が続いた

い 利回り法の不都合

利回り法では,賃料が地価に追随する
→この方式では賃料が大幅に上昇することになる
→算定結果が社会性を欠く状況となった

う 利回り法の回避=スライド法

賃料を連動させる指標について
地価から一般的な経済指標に次第に移行していった
経済指標の具体例=物価変動率
※賃料評価実務研究会『賃料評価の理論と実務〜継続賃料評価の再構築〜』住宅新報社p93

3 スライド法と利回り法の関係性(基本)

以上のスライド法が使われるようになった経緯を踏まえて,利回り法との関係をまとめます。

<スライド法と利回り法の関係性(基本)>

あ 利回り法の優位性(基本)

利回り法はスライド法よりも優れている
※鈴木禄弥『現代法律学全集14 借地法 下 改訂版』青林書院社新社1980年p891,893

い 利回り法とスライド法の関係性(概要)

スライド法の成立過程について
利回り法の補充・代替という性格があった(前記※1)
=地価高騰による利回り法の不合理性の回避

4 地価急騰と利回り法/スライド法

利回り法とスライド法の妥当性の関係は,地価急騰という状況で変わります。

<地価急騰と利回り法/スライド法>

あ 地価高騰があるケースと利回り法

一時的な地価急騰が生じている場合
→利回り法の試算賃料は重視しない
※東京地裁平成3年9月25日/『判例時報1427号』p103

い 地価高騰がないケースと利回り法/スライド法

地価高騰がないケースでは『ア・イ』の傾向がある
ア 利回り法の妥当性が高い
イ スライド法の妥当性は低い

5 個別的事情や賃料改定合意と利回り法の優位性

利回り法の妥当性・優位性について指摘した裁判例などの見解をまとめます。

<個別的事情や賃料改定合意と利回り法の優位性>

あ 個別的事情と利回り法の優位性

利回り法は賃貸借当事者間の過去の合意に基礎を置く
→契約の個別性をより反映することができる
→個別性の強い賃貸借契約においては有力な試算方式である
※東京地裁平成4年4月15日/『判例時報1462号』p128;借家について

い 地価連動の合意と利回り法の優位性

『ア・イ』の両方に該当する場合
→特に利回り法の妥当性が非常に強い
ア 賃料を地価の変動に連動させる合意がある
イ 合意から一義的に改定賃料が定まらない
※賃料評価実務研究会『賃料評価の理論と実務〜継続賃料評価の再構築〜』住宅新報社p93

6 利回り法だけの算定を否定した最高裁判例

実質的な利回り法による試算を元に相当賃料を算定する方法を否定した最高裁判例があります。
利回り法の位置付けについての判断が示されています。

<利回り法だけの算定を否定した最高裁判例>

あ 利回り法単独算定の否定

類似する土地の賃料が考慮事情として規定されている
※借地法12条
→利回り法のみによる継続賃料の算定を否定した
否定した内容=従来の賃料に地価高騰率を乗じた算出方法
※最高裁昭和40年11月30日

い 利回り法の本則的位置付けの否定

ア 結論
利回り法のみによる継続賃料の算定を否定した
結論としては利回り法による算定を肯定した
イ 傍論
傍論として次の内容を示した
利回り法だけの算定が本則とまではいえない
最高裁昭和43年7月5日

う 補足説明

『あ・い』の事案ともに
賃料改定に関する特約は存在しない
(認定されていない)
仮に賃料改定に関する特約があった場合
→『ア・イ』のいずれかの扱いとなる
ア 特約どおりに改定賃料を算定する
イ 特約内容に沿う算定手法の試算の比重を大きくする