1 利回り法における期待利回りの位置付け
2 従前賃料の修正による利回り算定事例
3 期待利回りの内容と不合理性
4 適正利潤率の不合理性と修正要素
5 具体例による適正利潤率の不合理性

1 利回り法における期待利回りの位置付け

本記事では,利回り法の試算における期待利回りの位置付けを説明します。
本質的には,利回り法で一般的な期待利回りを用いるのはふさわしくありません。
あくまで参考として用いられることがあるという位置付けなのです。

<利回り法における期待利回りの位置付け>

あ 過去の判断

現在の不動産鑑定評価基準の公表(改正)前において
期待利回りをそのまま利用するケースも多くあった

い 現在の不動産鑑定評価基準(概要)

利回り法の試算において
直近合意(改定)時の利回りが基礎となる
一般的な期待利回りも比較衡量の対象となる
詳しくはこちら|利回り法の基本(考え方と算定式)

う 現在の『期待利回り』の位置付け

現在は期待利回りがそのまま適用されるわけではない
『期待利回り』は参考として参照される位置付けである
次の事項について判断の幅がある
判断対象=反映させる/させない,反映する程度

2 従前賃料の修正による利回り算定事例

利回り法は,従前の利回りを固定する考え方です。
利回りは,一般的に従前の賃料額から算定します。
これに関して,過去の権利金のやりとりを賃料の算定に反映させた裁判例があります。
実質的に,利回りを修正したのと同じことになりました。

<従前賃料の修正による利回り算定事例>

あ 権利金の法的性格

支払われた権利金について
→賃料の前払いという性格である

い 継続賃料の算定

地価に連動させる算定方法において
=現在の利回り法に近い
前払い分も含めた金額を従前の賃料とみなした
これを前提として改定賃料を算定した
※旭川地裁昭和40年3月23日;権利金などの授受を参酌した

3 期待利回りの内容と不合理性

参考という位置付けで,利回り法の試算の中で期待利回りが用いられることもありえます。期待利回りの内容や不合理性をまとめます。

<期待利回りの内容と不合理性>

あ 一般的な期待利回り

裁判例における一般的な『期待利回り』の主流
→5%,6%
※民法404条,商法514条
※藤田耕三ほか『不動産訴訟の実務 7訂版』新日本法規出版2010年p756

い 適正利潤率の不合理性(概要)

貸地は一般的な投資とは異なる特殊事情がある
→適正利潤率を適用することは妥当ではない
※東京高裁昭和49年10月29日(後記※1)
※東京地裁昭和47年11月14日(後記※2)

う 不合理性の回避方法(概要)

不合理性を解消する方法について
裁判例が採用する方法は主に3つに分類できる
詳しくはこちら|利回り法の試算の修正方法の種類全体

4 適正利潤率の不合理性と修正要素

一般的な利回りとして適正利潤率を用いる例も以前はありました。
しかし,適正利潤率をそのまま用いると不合理な算定となってしまいます。
実際に,現在の鑑定評価基準では適正利潤率をそのまま使うような規定にはなっていません。

<適正利潤率の不合理性と修正要素(※1)>

あ 一般的な期待利回り

『期待利回りについて考えてみると,通常上記利回りは不動産の取引利回り,公債利回りその他一般の金利水準に照らし,年5分ないし6分とするのが客観的に適正であるとされる』

い 賃料額の形成要素

『元来前記継続賃料については,従前からの賃貸借契約の内容,過去における賃料値上の経緯,権利金,敷金又は更新料等の授受の有無,当事者の生活状態及び力関係等,要するに個別的要因によって大きくその決定が左右されるものである』
『一般に急激な地価の上昇,異常な物価の高騰,大幅な租税の増加等経済変動の激しい場合には庶民の生活はこれに追随することができず,従って賃料も相当低額に押さえられる傾向があ(る)』

う 賃料額の社会的な相場

『殊に永年賃貸借が継続した住宅地については特段の事情がない限り賃料は適正ないし期待される利潤率よりかなり下廻るのが実情である』

え 期待利回りの修正要素

継続賃料の算定における利回り率について
一般的な期待利回りを用いることは相当ではない
個別的要因を十分に考慮し,妥当な利益調整を行う
→合理的な期待利回りを決定すべきである
※東京高裁昭和49年10月29日

お 補足説明

『あ〜お』の裁判例は現在の鑑定評価基準の公表前である
現在の基準を前提にすると次のように言い換えられる
一般的な期待利回りは考慮すべきではない
=直近合意時の利回りをそのまま用いることが妥当である

5 具体例による適正利潤率の不合理性

適正利潤率を用いて試算した賃料は不合理です(前記)。
これについて,具体例を挙げて指摘する裁判例を紹介します。

<具体例による適正利潤率の不合理性(※2)>

あ 適正利潤率の不合理性

適正利潤率は『高度利用をしている前提の利益率』である(い)
借地人が居住用の住宅の敷地として利用している場合
借地人は適正利潤率に相当する利益を挙げていない(う)
適正利潤率により算定した賃料の請求は公平を欠く
この算定方法はとれない

い 高度利用における利益率

土地の時価5000万円
借地権者がマンションを建築した
建築費1億円
家賃収益年額900万円
土地全体を含めた投資効率=6%
6%の投資効率を底地に適用する
→妥当である

う 居住用住宅の敷地利用の利益率

土地の時間5000万円
借地人が住居を建築した
建築費1000万円
土地を含めた投資効率について
6%(年額360万円)を大きく下回る
※東京地裁昭和47年11月14日
※『判例タイムズ298号』p388