1 マイナス差額と配分(基本)
2 マイナス差額の配分の肯定/否定説
3 マイナス差額の配分を認める理由
4 マイナス差額の配分率
5 マイナス配分を認めない一般的な理由
6 マイナス配分を認めない有力な見解
7 配分を否定する横須賀鑑定士の発言

1 マイナス差額と配分(基本)

差額配分法による賃料試算の手法では,マイナス差額は本来想定されていません。
そのままマイナス差額を配分すると不合理です。
詳しくはこちら|差額配分法の不合理性と修正する方法
本記事ではマイナス差額の配分について説明します。
まずは,マイナス差額の意味や見解の対立についてまとめます。

<マイナス差額と配分(基本)>

あ マイナス差額の意味

実際支払賃料が価格時点の新規賃料より高いこと

い マイナス差額の実情

地価下落傾向の時期に締結された賃貸借について
→多くのケースが該当する
※賃料評価実務研究会『賃料評価の理論と実務〜継続賃料評価の再構築〜』住宅新報社p78

う マイナス差額の配分

マイナス差額の配分について
肯定/否定の見解がある(後記※1)

2 マイナス差額の配分の肯定/否定説

マイナス差額の配分に関する複数の見解をまとめます。

<マイナス差額の配分の肯定/否定説(※1)>

あ マイナス差額の配分を認める見解

マイナス差額を貸主・借主で配分することを肯定する
配分を認める理由はいろいろなものがある(後記※2)
配分方法については複数の見解がある(後記※3)

い マイナス差額の配分を認めない見解

マイナス差額は貸主がすべて負担する
=新規賃料まで一気に引き下げるべきである
配分を認めない理由や見解について
→複数のものがある(後記※4,※5,※6)

う 特殊事情による判断

個別的な特殊事情があるケースにおいて
→マイナス差額の配分を認めることもある
これは『あ・い』の見解の違いとは直接関係しない
詳しくはこちら|差額配分法における特殊事情によるマイナス差額配分の肯定

3 マイナス差額の配分を認める理由

マイナス差額の配分を認める見解の理由をまとめます。

<マイナス差額の配分を認める理由(※2)>

あ 合意の尊重

契約当事者の過去の合意内容・合意に至った経緯を尊重する

い 新規賃料の精度不足

新規賃料を判断の基準とすることについて
→新規賃料の精度に疑いや問題が多い

う 地価上昇・下落の同等扱い

土地に帰属する収益の変化について
上昇時と下落時の両方で分配すべきである

え 不動産鑑定評価基準の形式

不動産鑑定評価基準について
差額の加減の『加・減』を区別していない
『減』だけ新規賃料水準まで下げるべきとは規定されていない

お 移転摩擦の存在

賃貸借には移転摩擦がある
=引越費用や移転によって生じるマイナスの影響
→継続賃料は新規賃料よりも『移転摩擦』分上回ることは合理性がある

か 痛み分け理論

マイナス差額の一部を賃借人が負担することについて
→国民全体の痛み分けとして容認される
正常賃料にまで引き下げると賃貸人にだけ不利益を負わせることになる
※賃料評価実務研究会『賃料評価の理論と実務〜継続賃料評価の再構築〜』住宅新報社p77

4 マイナス差額の配分率

マイナス差額の分配を認める見解では,次に分配率の扱いがあります。
3分の1(法)は不合理であるという見解があります。

<マイナス差額の配分率(※3)>

マイナス差額が生じた場合
→『社会』が賃料負担をするわけではない
→3分の1法は妥当ではない
『(社会への配当分)この分を折半し公平に配分すると結局の所折半法となる』
※賃料評価実務研究会『賃料評価の理論と実務〜継続賃料評価の再構築〜』住宅新報社p76

5 マイナス配分を認めない一般的な理由

マイナス差額の分配を否定する方が一般的な見解です。
その理由をまとめます。

<マイナス配分を認めない一般的な理由(※4)>

あ 想定外の異常値

継続賃料は新規賃料を後追いする
実際支払賃料が新規賃料を超えるのは異常な状態(値)である

い 歴史的経緯

評価手法として差額配分法が全面的に活用された時代について
→新規賃料の方が実際支払賃料より上にあった時代である

う 経済的合理性の欠如

経済価値に即応した賃料(新規賃料)を超える賃料について
→賃借人に対して説明できない
=合理性が欠けている
※鵜野和夫『不動産の評価・権利調整と税務 第38版』清文社2016年p584
※賃料評価実務研究会『賃料評価の理論と実務〜継続賃料評価の再構築〜』住宅新報社p78

6 マイナス配分を認めない有力な見解

マイナス差額の分配を否定する具体的な見解を紹介します。

<マイナス配分を認めない有力な見解(※5)>

あ 経済的合理性の追求

経済的に借主は賃貸借により利益を受ける
損得なしであれば,まだ経済的合理性がある
それを超えて損失まで至ると経済的な合理性はない
※『不動産鑑定と法的解釈並びに司法の判断』/『不動産鑑定2004年10月』p15横須賀博発言(後記※6)

い 正常実質賃料の重視

継続賃料も正常実質賃料を基準に決定すべきである
※若林眞『サブリース賃料の評価〜法律と不動産鑑定評価の接点〜』/『判例タイムズ1140号』p38

7 配分を否定する横須賀鑑定士の発言

マイナス差額を否定する見解(前記)の理由を分かりやすい説明を引用します。

<配分を否定する横須賀鑑定士の発言(※6)>

横須賀博鑑定士の発言
『鑑定人自らが積算賃料や新規比準賃料をベースにして経済価値に即応した適正な実質賃料を求めて,これが正常実質賃料であるとしながらも,継続賃料の遅行性や上記の理由をもとにして,これを超える賃料を『適正な継続賃料である』とする最終判断が下せるものだろうか。もし,下せるとすれば,それこそ経済的裏付けのある秤量計算を伴った説明責任を負うことになろう。ましてや,比準賃料をも超える結果ともなればなおさらである』
『『差額配分法』の試算賃料が,高位水準にある実際実質賃料(現行賃料)と低位水準の正常実質賃料(新規賃料)との乖離分を配分するために,どうしても新規賃料より高位の継続賃料が算定される結果となることに配慮し,継続賃料評価に当たっての基本的手法とはいえ,『差額配分法を参考に留め採用しない』とした当職の鑑定結果が採用された判例が,昨今しばしば見られる』
※横須賀博『不動産鑑定士が求める経済価値を適性に表示する賃料と司法が求める相当賃料について』/『不動産鑑定2004年2月』p36