【増減額請求権の強行法規性に関する4つの最高裁判例(引用)】

1 賃料改定特約と賃料増減額請求の関係(総論)
2 最高裁平成16年6月29日(新法・借地;引用)
3 最高裁平成15年10月21日(新法・借家;引用)
4 最高裁昭和56年4月20日(旧法・借地;引用)
5 最高裁昭和31年5月15日(旧法・借家;引用)

1 賃料改定特約と賃料増減額請求の関係(総論)

賃料改定特約と賃料増減額請求権の関係は複雑です。
詳しくはこちら|賃料に関する特約と賃料増減額請求権の関係(排除の有無と影響)
この関係性について判断した最高裁判例として代表的なものが4つあります。
本記事では,これらの判例の中の判断の重要な部分を引用します。
要点については別の記事にまとめてあります。
詳しくはこちら|増減額請求権の強行法規性に関する4つの最高裁判例(要点)

2 最高裁平成16年6月29日(新法・借地;引用)

<最高裁平成16年6月29日(新法・借地;引用)>

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
  (1) 前記確定事実によれば,本件各賃貸借契約は,建物の所有を目的とする土地の賃貸借契約であるから,本件各賃貸借契約には,借地借家法11条1項の規定が適用されるべきものである。
 本件各賃貸借契約には,3年ごとに賃料を消費者物価指数の変動等に従って改定するが,消費者物価指数が下降したとしても賃料を減額しない旨の本件特約が存する。しかし,借地借家法11条1項の規定は,強行法規であって,本件特約によってその適用を排除することができないものである(最高裁昭和28年(オ)第861号同31年5月15日第三小法廷判決・民集10巻5号496頁,最高裁昭和54年(オ)第593号同56年4月20日第二小法廷判決・民集35巻3号656頁,最高裁平成14年(受)第689号同15年6月12日第一小法廷判決・民集57巻6号595頁,最高裁平成12年(受)第573号,第574号同15年10月21日第三小法廷判決・民集57巻9号1213頁参照)。したがって,本件各賃貸借契約の当事者は,本件特約が存することにより上記規定に基づく賃料増減額請求権の行使を妨げられるものではないと解すべきである(上記平成15年10月21日第三小法廷判決参照)。
 なお,前記の事実関係によれば,本件特約の存在は,本件各賃貸借契約の当事者が,契約締結当初の賃料額を決定する際の重要な要素となった事情であると解されるから,衡平の見地に照らし,借地借家法11条1項の規定に基づく賃料増減額請求の当否(同項所定の賃料増減額請求権行使の要件充足の有無)及び相当賃料額を判断する場合における重要な事情として十分に考慮されるべきである(上記平成15年10月21日第三小法廷判決参照)。
  (2) したがって,上告人らは,借地借家法11条1項の規定により,本件各土地の賃料の減額を求めることができる。そして,この減額請求の当否及び相当賃料額を判断するに当たっては,賃貸借契約の当事者が賃料額決定の要素とした事情その他諸般の事情を総合的に考慮すべきであり,本件特約の存在はもとより,本件各賃貸借契約において賃料額が決定されるに至った経緯や本件特約が付されるに至った事情等をも十分に考慮すべきである。
※最高裁平成16年6月29日

3 最高裁平成15年10月21日(新法・借家;引用)

<最高裁平成15年10月21日(新法・借家;引用)>

 2 しかしながら,原審の上記(1),(2)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
  (1) 前記確定事実によれば,本件契約における合意の内容は,第一審原告が第一審被告に対して本件賃貸部分を使用収益させ,第一審被告が第一審原告に対してその対価として賃料を支払うというものであり,本件契約は,建物の賃貸借契約であることが明らかであるから,本件契約には,借地借家法が適用され,同法三二条の規定も適用されるものというべきである。
 本件契約には本件賃料自動増額特約が存するが,借地借家法三二条一項の規定は,強行法規であって,本件賃料自動増額特約によってもその適用を排除することができないものであるから(最高裁昭和二八年(オ)第八六一号同三一年五月一五日第三小法廷判決・民集一〇巻五号四九六頁,最高裁昭和五四年(オ)第五九三号同五六年四月二〇日第二小法廷判決・民集三五巻三号六五六頁参照),本件契約の当事者は,本件賃料自動増額特約が存するとしても,そのことにより直ちに上記規定に基づく賃料増減額請求権の行使が妨げられるものではない。
 なお,前記の事実関係によれば,本件契約は,不動産賃貸等を目的とする会社である第一審被告が,第一審原告の建築した建物で転貸事業を行うために締結したものであり,あらかじめ,第一審被告と第一審原告との間において賃貸期間,当初賃料及び賃料の改定等についての協議を調え,第一審原告が,その協議の結果を前提とした収支予測の下に,建築資金として第一審被告から約五〇億円の敷金の預託を受けるとともに,金融機関から約一八〇億円の融資を受けて,第一審原告の所有する土地上に本件建物を建築することを内容とするものであり,いわゆるサブリース契約と称されるものの一つであると認められる。そして,本件契約は,第一審被告の転貸事業の一部を構成するものであり,本件契約における賃料額及び本件賃料自動増額特約等に係る約定は,第一審原告が第一審被告の転貸事業のために多額の資本を投下する前提となったものであって,本件契約における重要な要素であったということができる。これらの事情は,本件契約の当事者が,前記の当初賃料額を決定する際の重要な要素となった事情であるから,衡平の見地に照らし,借地借家法三二条一項の規定に基づく賃料減額請求の当否(同項所定の賃料増減額請求権行使の要件充足の有無)及び相当賃料額を判断する場合に,重要な事情として十分に考慮されるべきである。
 以上により,第一審被告は,借地借家法三二条一項の規定により,本件賃貸部分の賃料の減額を求めることができる。そして,上記のとおり,この減額請求の当否及び相当賃料額を判断するに当たっては,賃貸借契約の当事者が賃料額決定の要素とした事情その他諸般の事情を総合的に考慮すべきであり,本件契約において賃料額が決定されるに至った経緯や賃料自動増額特約が付されるに至った事情,とりわけ,当該約定賃料額と当時の近傍同種の建物の賃料相場との関係(賃料相場とのかい離の有無,程度等),第一審被告の転貸事業における収支予測にかかわる事情(賃料の転貸収入に占める割合の推移の見通しについての当事者の認識等),第一審原告の敷金及び銀行借入金の返済の予定にかかわる事情等をも十分に考慮すべきである。
※最高裁平成15年10月21日

4 最高裁昭和56年4月20日(旧法・借地;引用)

<最高裁昭和56年4月20日(旧法・借地;引用)>

ところで,土地の賃貸借契約の当事者は,従前の賃料が公租公課の増減その他の事由により不相当となるに至つたときは,借地法一二条一項の定めるところにより,賃料の増減請求権を行使することができるところ,右の規定は強行法規であつて,本件約定によつてもその適用を排除することはできないものである(最高裁昭和二八年(オ)第八六一号同三一年五月一五日第三小法廷判決・民集一〇巻五号九六頁参照)。そうすると,本件約定は,賃貸借当事者間の信義に基づき,できる限り訴訟によらずに当事者双方の意向を反映した結論に達することを目的としたにとどまり,当事者間に協議が成立しない限り賃料の増減を許さないとする趣旨のものではないと解するのが相当である。そして,賃料増減の意思表示が予め協議を経ることなく行なわれても,なお事後の協議によつて右の目的を達することができるのであるから,本件約定によつても,右の意思表示前に必ず協議を経なければならないとまでいうことはできない。また,当事者相互の事情によつて協議が進まない場合においては,本件約定は,当事者が訴訟により解決を求めることを妨げるものではないのであつて,右のような場合でも当事者は協議を尽くすべき義務を負い,これに違反すると先にした増減請求の意思表示は無効となると解すべきものではない(最高裁昭和四一年(オ)第二八五号同四一年一一月二二日第三小法廷判決・裁判集八五号二四三頁参照)。
※最高裁昭和56年4月20日

5 最高裁昭和31年5月15日(旧法・借家;引用)

<最高裁昭和31年5月15日(旧法・借家;引用)>

尤も原判決の確定するところによれば,本件契約においては,賃料名義の額については銭湯の騰落,経費の増減,浴客の多寡等に応じてこれを改訂するものとし,一年毎に両当事者協議の上これを決定すべき旨の約定があるというのであるが,かかる約定の存在は未だもつて借家法七条の適用を否定すべき特別の事情となすに足りない。けだし右約定によつては,賃料の増減につき当事者間に協定が成立しない場合にもなお当事者の右法条による賃料の増減請求権を否定すべきものとした趣旨が窺いえないのみならず,同条は契約の条件いかんにかかわらず借家契約にこれを適用すべき強行法規であることは疑なく,右の如き約定によつてその適用を排除することをえないからである。原審は或いは上告人の賃料増額に関する主張をもつて右法条による賃料増額請求と解しなかつたかの疑があるが上告人は原審において本件浴場の賃料は他の浴場に比較し月五万円をもつて適正賃料とする(実際は月八万円と主張する)として被上告人に対し屡々その請求をしたと主張するのであつて(昭和二六年一一月一二日附準備書面,同日の口頭弁論で陳述),その主張はもとよりこれを借家法七条による賃料増額請求に関する主張と解すべきこと当然である。
※最高裁昭和31年5月15日

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