1 不増額特約の有効性判断基準
2 賃料改定特約の有効性の基本
3 旧法の限定的有効説の承継
4 限定的有効説の内容
5 相当性(有効性)を肯定する事情
6 相当性(有効性)を否定する事情
7 特約の有効性を問題にしない見解(概要)
8 公租公課連動特約の有効性判断(概要)
9 評価額連動特約の有効性判断(概要)
10 物価指数などとの連動・固定率増額特約の有効性判断(概要)

1 不増額特約の有効性判断基準

賃料に関する特約は状況によっては無効となります。
本記事では,賃料に関する特約の有効性判断の一般的・基本的な基準について説明します。
賃料に関する特約として,法律の条文上認められているのは『賃料を増額しない』という特約です。
この不増額特約の有効性判断基準をまとめます。

<不増額特約の有効性判断基準>

あ 不増額特約

内容=賃料の増額は行わない
条文の規定上認められている
詳しくはこちら|賃料増減額請求(変更・改定)の基本

い 有効性判断基準

当事者が契約締結当時に予想できなかった事情が生じた場合
→特約の効力は生じない
※東京控判昭和3年7月17日(う)
※水本浩『地代・家賃』/遠藤浩ほか『現代契約法大系3 不動産の賃貸借・売買契約』有斐閣1983年p121
※星野英一『法律学全集26 借地・借家法』有斐閣1969年p240

う 裁判例(引用)

契約締結後,非常なる公租公課の激増,地価・地代の暴騰等経済上当事者の全然予想外なる非常の変動を来したる如き場合には賃料不増額の特約は全然効力を有さない
※東京控判昭和3年7月17日

2 賃料改定特約の有効性の基本

賃料を自動的に改定する特約は有用であり,活用されることも多いです。
一般的な賃料改定特約の有効性に関する基本的事項をまとめます。

<賃料改定特約の有効性の基本>

あ 賃料改定特約の内容

一定の事情がある場合に賃料を当然に増額する
一定の事情があっても賃料を減額しない

い 有効性判断(概要)

一律に無効となるわけではない
不相当な範囲で無効(失効)となる
限定的有効説と呼ぶ(後記※1)

3 旧法の限定的有効説の承継

賃料に関する特約の有効性は,旧法(借地法)の時代に裁判実務で限定的有効説がとられていました。
新法(借地借家法)の時代になってもこの解釈は承継されているといえます。

<旧法の限定的有効説の承継>

あ 借地法の一般的解釈

賃料増減額請求は片面的強行法規とされていない
詳しくはこちら|賃料増減額請求(変更・改定)の基本
→限定的有効説(後記※1)が大勢を占めていた
※幾代通ほか『新版 注釈民法(15)債権(6)増補版』有斐閣1996年p867

い 新/旧法の全般的同質性

借地法の賃料増減額請求全般について
→借地借家法でも同様の解釈が妥当する
※幾代通ほか『新版 注釈民法(15)債権(6)増補版』有斐閣1996年p867
詳しくはこちら|新法と旧法の賃料増減額請求の規定の比較と法改正の経緯

う 法改正における国会での発言

ア 発言した政府委員
法務省民事局長
イ 発言内容
借地借家法の解釈について
限定的有効説の裁判実務の扱いを肯定する
※衆院法務委平成3年9月6日会議録4;清水発言

4 限定的有効説の内容

賃料に関する特約の有効性については,一般的に限定的有効説がとられています(前記)。
この見解の内容を整理します。

<限定的有効説の内容(※1)>

あ 基本的事項

賃料改定特約をそれだけでただちに無効としない
特約の相当性を評価した上でその効力を定める
不相当なものである場合に限って無効となる
※神戸地判平成元年12月26日
※東京地裁平成元年8月29日
※大阪地裁昭和62年4月16日
※ほか多数の裁判例

い 限定的有効説の基準

『ア・イ』の両方に該当する事情について
事後的に,この事情を超えた経済事情の変動があった場合
→特約は無効となる
ア 特約当時,一般人が予見可能であった
イ 特約当時,当事者が予見していた
※鈴木禄弥『現代法律学全集 借地法 下 改訂版』青林書院1971年p872
※星野英一『法律学全集(26) 借地・借家法』有斐閣1969年p240

5 相当性(有効性)を肯定する事情

賃料に関する特約の有効性は『相当性』で判断します(前記)。
相当性の判断には多くの広い範囲の事情が影響します。
相当性を肯定する方向性の事情をまとめます。

<相当性(有効性)を肯定する事情>

あ 基本的事項

『い・う』に該当する場合
→相当である=特約が有効となる方向に働く

い 客観的数値

賃料の決定基準が客観的な数値によるものである

う 賃料との相関性

賃料に比較的影響を与えやすい要素を基準としている
具体例=増減額請求の条文の規定の例示事項
※大阪高裁平成15年2月5日

6 相当性(有効性)を否定する事情

相当性を否定する方向性の事情をまとめます。

<相当性(有効性)を否定する事情>

あ 基本的事項

『い・う』に該当する場合
→不相当である=特約が無効となる方向に働く

い 合理性のない増額

経済的事情の変更がなくとも賃料を増額する

う 合理性のない減額排除

経済的事情の変更があっても賃料を減額しない

え 不合理な増減額の幅

増減される賃料の額or割合について
経済的事情の変更の程度と著しく乖離する
=不合理なものである
※大阪地裁昭和62年4月16日

7 特約の有効性を問題にしない見解(概要)

理論的な考え方の枠組みとして『有効性』自体は問題にしない方法もあります。
特約ではなく,法律に基づく賃料増減額請求ができるかできないか,だけを判断すれば足りるというものです。
この場合でも,実質的な判断は『賃料が不相当となったか否か』です。
相当性の判断自体は必要ということに変わりはありません。
この考え方により具体的な事案の結論が異なるというものではありません。

<特約の有効性を問題にしない見解(概要)>

賃料改定特約による賃料が不相当となった場合
→賃料増減額請求が行使できる
詳しくはこちら|増減額請求権の強行法規性に関する4つの最高裁判例(要点)
→結果的に賃料改定特約に拘束されないことになる
→特約の『有効/無効(失効)』の判断をする必要がない
詳しくはこちら|賃料に関する特約と賃料増減額請求権の関係(排除の有無と影響)

賃料改定特約にはいろいろな種類があります。
種類ごとの有効性判断についてはそれぞれ別の記事で説明しています。
以下,順に紹介します。

8 公租公課連動特約の有効性判断(概要)

賃料を公租公課の変動と連動させる特約はよく使われています。
これについての有効性判断に基準や裁判例は別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|賃料を公租公課に連動させる特約の有効性判断

9 評価額連動特約の有効性判断(概要)

賃料を不動産の評価額の変動と連動させる特約はよく使われています。
評価額にはいくつかの種類があります。
固定資産評価額や路線価が代表的なものです。
このような特約の有効性判断に基準や裁判例は別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|賃料を不動産の評価額に連動させる特約の有効性判断

10 物価指数などとの連動・固定率増額特約の有効性判断(概要)

以上のようなタイプ以外の賃料改定特約もあります。
連動させる指数を複数にしたり,また,減額しない特約を組み合わせるものなどです。
このような特約について実際に有効性が判断された事例については,別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|賃料の消費者物価指数連動・不減額や固定率増額特約の有効性判断