【建物賃貸借における『敷金』『保証金』|法的性格・違い】

1 建物賃貸借における『敷金』『保証金』の法律的な性格
2 賃貸建物の売却→賃貸借の承継→『敷金』は承継される/『保証金』は承継されない
3 オーナーが破産した場合の『敷金』『保証金』の行方
4 オーナーチェンジ(建物売却)×『敷金・保証金』|まとめ

1 建物賃貸借における『敷金』『保証金』の法律的な性格

建物賃貸借契約を締結する際,通常,『敷金』や『保証金』の支払いがなされています。
法的性質についてまとめます。

<『敷金』の法的性質>

ア 賃貸借契約開始時に賃借人から賃貸人に預託されるイ 賃貸人が賃借人に対して賃貸借契約成立から明渡しまでに生じる損害を担保するウ 損害(未払賃料等)があれば相殺の意思表示を待つことなく当然に充当されるエ 賃貸借契約終了時に(控除後の金額が)返還される ※大判大正15年7月12日

次に『保証金』についてですが,法的性格はいくつかの種類があります。
敷金と同じ意味,ということが多いですが,多少アレンジが加わっているタイプも存在します。
この法的性格によって効果が違います。
そのため,法的解釈についての見解が食い違い,トラブルとなることがよくあります。
裁判例として,性格論が示されたものを元にしてまとめます。

<『保証金』の法的性格|バリエーション>

あ 『敷金』と同様
い 『敷金』とは違う性格

ア 金銭消費貸借(貸金)の趣旨 賃貸人が建物建築資金に利用することを目的として融資を受ける性格
返還時期は賃貸借終了前もある(分割返済)
『建設協力金』とも呼ばれる
返済方法・返済時期の取り決めがなされている
法的性質としては貸金(金銭消費貸借)と同じ扱い
イ 『空室補償』の趣旨 賃貸借契約終了,明渡終了後の損害を担保する
約定期間満了よりも前に明け渡す際,その後の『空室損失』を担保する
『違約金』,『損害賠償額の予定』,『制裁金』,『空室補償』という趣旨
※最高裁昭和51年3月4日

2 賃貸建物の売却→賃貸借の承継→『敷金』は承継される/『保証金』は承継されない

法律理論の大原則では,『売買は賃貸を破る』ということになります。
つまり,新所有者は(旧)賃借人に対して明渡請求ができる,というのが大原則なのです。
しかし,対抗要件というルールがあります。
建物賃貸の場合,入居さえしていれば,『例外的に賃貸借が優先』→『新所有者は明渡請求できない』となります。
別項目;賃貸借;対抗要件

結果的に,『賃貸借契約が新所有者に承継される』ということになるのです。
そうすると,『賃貸借』とセットになっていた『敷金(契約)』も新所有者に承継されます。
ここで,保証金については,このような理論がないので,原則に戻って新所有者には承継されないということになります。
ただし,『保証金』の種類によっては,法的には『敷金』と同じ,ということもあります(前記『1』)。
その場合は,『敷金』と同じように『新所有者に承継される』ということになります。

なお,通常の『売買』ではなく『担保権実行による競売』の場合は,対抗要件の優劣が『登記の時期』によって判断されます
また『賃貸借』が劣後,という場合でも『明渡猶予』という一定期間の保護があります。
詳しくはこちら|競売された建物の賃借人は明渡猶予期間が与えられる

3 オーナーが破産した場合の『敷金』『保証金』の行方

(1)オーナーの破産×『敷金』

オーナー(賃貸人)が破産した場合に,建物賃借人の立場からは『敷金が返還されない』ということを心配します。
この点,破産法で『敷金の保護』の制度があります。
正確には『将来の請求権・停止条件付債権』に適用される『寄託請求』という手続です。
条文上『敷金』も明記されています。

<オーナー破産時の建物『賃借人』による『寄託請求』>

あ 寄託請求の方法

ア 対象者 敷金を差し入れている賃借人(敷金返還請求権の債権者)
イ 行使方法 破産管財人に『寄託請求』を行う(通知する)

い 寄託請求の効果

ア 敷金相当額を配当しない=別に管理(寄託)されるイ 『寄託』の解消 その後,次の期限までに敷金返還請求権が具体化していないと『配当』に回される
イ 寄託の期限 最後配当に関する除斥期間満了時
ウ 敷金返還請求権の具体化 賃貸借契約の終了・物件の明渡完了
※破産法70条

(2)オーナーの破産×『保証金』

敷金ではなく保証金の場合は,その性質次第で,適用の有無が変わります。

<オーナーの破産時の『保証金』の扱い>

あ 『敷金』と同じ法的性格の場合

敷金と同じ扱いになる
寄託請求が使える

い 『金銭消費貸借』(貸金)の趣旨(建設協力金など)

寄託請求は使えない
理由=『将来(の請求権)・停止条件付債権』に該当しない

う 『空室補償』の趣旨

寄託請求が使える可能性が高い
理由=『敷金』ではないが『停止条件付返還請求権』に該当すると思われる

4 オーナーチェンジ(建物売却)×『敷金・保証金』|まとめ

以上の内容をまとめておきます。

<オーナーチェンジ×『敷金・保証金』|まとめ>

種類・法的性格 建物売買時の承継 オーナー破産時の寄託請求の可否
敷金
保証金(敷金の趣旨)
保証金(貸金)
保証金(空室補償)

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