1 更新料の合意の有効性の問題(総論)
2 更新料を無効とする見解の理由
3 更新料を有効とする見解の理由
4 過去の裁判例における更新料の有効性判断
5 平成23年判例の更新料の内容と判断結果
6 『当事者の理解』についての評価
7 更新料の合意の有効性判断基準
8 有効性判断と消費者契約法の関係
9 平成23年判例への反対説(更新料合意無効)

1 更新料の合意の有効性の問題(総論)

建物賃貸借の更新料の合意(条項)については有効性に関するいろいろな問題があります。
詳しくはこちら|建物賃貸借の更新料の趣旨と合意の有効性(全体)
本記事では,一般的な更新料の合意の有効性について説明します。
更新料の合意の有効性については,以前,見解が大きく分かれていました。そして平成23年に最高裁が有効性判断の基準を示し,見解が統一されました。
まずは,有効と無効の見解それぞれの理由を順に紹介します。

2 更新料を無効とする見解の理由

更新料の特約が無効であるという見解の理由をまとめます。

<更新料を無効とする見解の理由>

『更新料』は,民法・借地借家法に規定がない
→不当な賃借人の負担である
→賃借人の利益侵害である
※民法1条2項,消費者契約法10条

3 更新料を有効とする見解の理由

更新料の特約が有効であるという見解の理由をまとめます。

<更新料を有効とする見解の理由>

あ 更新料の趣旨

更新料には家賃(賃料)の趣旨も含まれている
=更新料なしだとしたら賃料の金額はもっと高かったはず
→合理的な賃借人の負担である

い 当事者の理解(※1)

賃借人は,更新料の金額を承知した上で契約を締結したはず
→不当な賃借人の利益侵害とは言えない

う 結論

『更新料の趣旨』『当事者の理解』のいずれも合理的である
→『更新料(の特約・条項)』は有効である
※最高裁平成23年7月15日

平成23年の最高裁判例は,主に有効とする見解を採用しています。判例の内容については,後述します。

4 過去の裁判例における更新料の有効性判断

平成23年の最高裁の前は,更新料の合意の有効性が下級審裁判例で分かれていました。その状況について整理しておきます。

<過去の裁判例における更新料の有効性判断>

あ 有効と判断した裁判例

京都地裁平成20年1月30日
大津地裁平成21年3月27日
大阪高裁平成21年10月29日
京都地裁平成22年10月29日

い 無効と判断した裁判例

大阪高裁平成21年8月27日
京都地裁平成21年7月23日
京都地裁平成21年9月25日
大阪高裁平成22年2月24日
大阪高裁平成22年5月27日

5 平成23年判例の更新料の内容と判断結果

以下,平成23年の最高裁判例の内容を紹介します。判断基準が非常に重要です。その前に,審理された更新料の条項と有効性の判断結果をまとめます。

<平成23年判例の更新料の内容と判断結果>

あ 更新料の条項内容

更新期間=1年
更新料=賃料の2か月分

い 判断結果

有効である
※最高裁平成23年7月15日

6 『当事者の理解』についての評価

平成23年判例では,更新料の合意の有効性判断の中で『当事者の理解』を慎重に検討しています。

<『当事者の理解』についての評価>

あ 賃借人の主張

入居者(賃借人)は,賃貸人(オーナー)よりも立場が弱い
契約書に不利な内容が盛り込まれていてもサインせざるを得ない
→『当事者の理解』は不十分である

い 裁判所の判断

契約書に不利な内容を見つけたら,変更(削除)を申し入れれば良い
オーナーが削除に応じなかったら,契約しなければ良い
→他の物件を探せば良い
→当事者の理解(前記※1)が不十分ということはない

従来,借地や借家の分野では,全体的に『借主保護』の傾向が強かったです。
しかし,更新料を一律に無効としてしまうと,逆に不合理が発生してしまいます。オーナーの賃貸経営の権利を保護しなくて良いわけではありません。
最高裁は,このような背景を踏まえて『双方の利害関係』を丁寧に分析したのです。そして『当事者の理解』は合理的なものである,と判断しています。
結論として,最高裁は『更新料の条項は有効』と判断したのです。

7 更新料の合意の有効性判断基準

平成23年の最高裁判例は更新料を『一律に有効』と判断したわけではありません。重要なところは有効性の判断基準です。

<更新料の合意の有効性判断基準>

あ 前提事情

賃借人が『消費者』であることが前提となっている(後記※2)

い 有効性判断基準

次のいずれにも該当する場合
→更新料の合意は有効である
ア 賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載されている
イ 更新料の額が高額過ぎるものではない
対照となる事情=賃料額・更新される期間など
※民法1条2項,消費者契約法10条
※最高裁平成23年7月15日

賃貸借契約書の調印後に想定外に条項が無効となると困ります。そこで,有効性判断基準は,賃貸借契約書の作成する時に役立ちます。

8 有効性判断と消費者契約法の関係

前記の有効性判断基準については注意すべきことがあります。解釈の中で消費者契約法が使われているということです。
有効性判断では『消費者』という属性が前提となっているといえるのです。

<有効性判断と消費者契約法の関係(※2)>

あ 判例の前提=消費者契約法の適用

上記判例は消費者契約法が適用されることが前提である
=賃借人が『消費者』であるケース

い 賃借人の属性による影響

賃借人が『消費者』に該当しない場合
=事業者・法人ということである
→判例と同じ判断基準が用いられるとは限らない
『消費者』の解釈論は別に説明している
詳しくはこちら|消費者契約法|基本|定義・不当勧誘行為・不当条項・差止請求

9 平成23年判例への反対説(更新料合意無効)

平成23年判例の判断に反対する見解もあります。正面から否定するものと,判例以前からある見解を紹介します。
これらの見解は実務では無意味だということはありません。協議や和解においてはこのような見解が取り入れられることも十分にあり得るでしょう。

<平成23年判例への反対説>

あ 法定更新

建物賃貸借が更新されるか否かについて
賃貸人に正当事由があるか否かによって決められる
賃貸人に正当事由がない限りは当然に更新される
→金銭の授受がなくても当然に更新されなければならない

い 合意更新

賃貸人に正当事由のない場合における合意更新について
→法定更新の確認に過ぎない
→『あ』と同様である
=更新料の支払は必要ではない

う 更新料の特約の有効性

借地借家法の片面的強行規定に違反する
→無効である
消費者契約法の適用を待つまでもない
※借地借家法30条
※澤野順彦『実務解説借地借家法 改訂版』青林書院p392
※藤井俊二『借家契約における更新料支払特約の効力』/『マンション学42号』日本マンション学会 p262

<平成23年判例への反対の従前の見解>

借地では更新料の合意は合理性がある
借家の期間は短期である
→更新料の合意はあまり合理性がない
→更新料の請求権は生じないと解する
※星野英一『法律学全集26 借地・借家法』有斐閣1969年p495