1 隣地使用に関する保全処分(総論)
2 隣地使用に関する保全処分の見解(全体)
3 請求権説による仮処分の扱い
4 形成権説による仮処分の扱い
5 住家立ち入りに関する仮処分

1 隣地使用に関する保全処分(総論)

隣地の使用は一定の範囲で認められます。
詳しくはこちら|隣地使用権の基本(規定・趣旨・法的性質・類似規定)
しかし,隣地の権利者が強硬に反対し,立ち入りを妨害されると,建築工事が中断してしまいます。そこで,早急に裁判所の判断をもらう必要があるケースもあります。
そこで,隣地使用に関する保全処分として,仮処分を行うことが考えられます。
本記事では,隣地使用に関する保全処分の解釈・扱いについて説明します。

2 隣地使用に関する保全処分の見解(全体)

隣地使用に関する保全処分の可否や内容についてはいくつかの見解があります。まずは見解がどのように分かれているかということを整理します。

<隣地使用に関する保全処分の見解(全体)>

あ 隣地使用権の法的性質

『隣地使用権の法的性質』には2つの見解がある
詳しくはこちら|隣地使用権の基本(規定・趣旨・法的性質・類似規定)

い 一般的な隣地使用に関する保全処分

一般的な隣地使用に関する保全処分について
→『あ』の解釈によって扱いが異なる
ア 請求権説による見解(後記※1)
イ 形成権説による見解(後記※2)

う 住家立ち入りに関する保全処分

仮処分の可否について複数の見解がある
『あ』の解釈とは別の(独立した)解釈である(後記※3)

3 請求権説による仮処分の扱い

一般的な隣地使用に関する仮処分について,請求権説を元にした見解を整理します。

<請求権説による仮処分の扱い(※1)>

あ 見解の内容

次のような仮処分を行うことができる
ア 意思表示を命じる仮処分
イ 立入妨害禁止の仮処分
※下光軍二『法律相談所に現れた相隣関係の問題点』ジュリスト225号p21

い 形成権説からの批判

仮処分に違反して現実に妨害行為があった場合
→新たな仮処分を求めなければならない
将来の違反を予測して措置をとることができない
→実効性に欠ける
※太田豊『相隣関係をめぐる紛争の際の保全処分』/『実務法律体系8』青林書院新社p365

4 形成権説による仮処分の扱い

一般的な隣地使用に関する仮処分について,形成権説を元にした見解を整理します。

<形成権説による仮処分の扱い(※2)>

あ 見解の内容

妨害行為を禁止する不作為の仮処分ができる
『い』の事項が制限される
→申立の際に特定が必要である
図面,写真,工事計画表等を用いて行う

い 特定/制限する事項

ア 立ち入りが許される土地の範囲
イ 立ち入りの目的
ウ 立ち入りの期間・時刻
※太田豊『相隣関係をめぐる紛争の際の保全処分』/『実務法律体系8』青林書院新社p358

5 住家立ち入りに関する仮処分

以上の仮処分は,一般的な隣地使用権を被保全債権とするものです。一方,隣地使用権(広義)の1つとして,住家立入権もあります。これに関する仮処分についても,複数の見解があります。これは隣地使用権の法的性質を元にした解釈ではありません。

<住家立ち入りに関する仮処分(※3)>

あ 一般的な見解

隣家居住者の任意の承諾が必要である
仮処分によることはできない
※埼玉弁護士会『相隣関係をめぐる法律と実務〜現代型相隣紛争解決の手引〜』ぎょうせいp83

い 仮処分を認める見解

隣家居住者が承諾を拒否した場合
→権利濫用という主張はあり得る
立ち入りの受忍を求める仮処分の可能性はある
※澤井裕ほか『相隣関係に関する仮処分』/中野貞一郎ほか『民事保全講座3仮処分の諸類型』法律文化社p6

大きな傾向としては,仮処分はできない方向性です。個別的状況によって,住家への立ち入りを拒否する方が不合理であるというケースでは仮処分が認められることもあります。