【温泉権の公示方法=対抗要件の種類と具体例・判例】

1 温泉権の公示方法=対抗要件の種類と具体例・判例
2 対抗関係・対抗要件の意味や機能(前提・概要)
3 温泉権の対抗要件=公示方法の種類
4 公示方法の慣行を否定した判例

1 温泉権の公示方法=対抗要件の種類と具体例・判例

温泉を利用する権利が物権として認められることがあります。物権として認められるためには対抗要件(公示)が必要とされています。
詳しくはこちら|温泉利用の権利(物権としての温泉権の性質・全体)
温泉権の対抗要件は何か,ということには統一的な見解はなく,その地域の慣習で決まります。
本記事では,温泉権の対抗要件について説明します。

2 対抗関係・対抗要件の意味や機能(前提・概要)

対抗要件が機能するのは,対抗関係の扱いです。典型例は2重譲渡の際に最終的に権利を得る者を,対抗要件で判定するというものです。

<対抗関係・対抗要件の意味や機能(前提・概要)>

あ 対抗関係の意味

物権について複数の権利者が存在する
両方が成立することはない状態である
→対抗要件で優劣が決まる(う)

い 対抗関係の例

ア 権利の過剰な販売 湧出地所有者が,湧出量を超える温泉権を売った
→『購入者全員が予定どおりの温泉供給を受ける』ことが不可能である
イ 2重譲渡 温泉の権利者が2重に権利を売った
→購入者のうち,いずれかは温泉の供給を受けられない

う 対抗要件による判断

対抗要件を得た者が優先する
※民法177条
(参考)対抗要件の基本について説明している記事
詳しくはこちら|対抗要件の制度(対抗関係における登記による優劣)の基本

対抗要件の代表例は不動産登記です。不動産を購入した場合,代金支払と引き換えに登記移転を受けます。温泉権の売買でも,対抗要件の移転を行っておくと確実なのです。温泉権の対抗要件の具体的内容は次に説明します。

3 温泉権の対抗要件=公示方法の種類

不動産の所有権については登記というしっかりした制度があります。この点,温泉権については登記の制度がありません。
解釈による,登記以外の対抗要件があります。数種類の権利を公示する方法のことです。これをまとめます。

<温泉権の対抗要件=公示方法の種類>

あ 温泉台帳(保険所)への記録(記載)

次のような事項が記載される
ア 温泉名イ 所在地ウ 掘削許可を受けた者の住所・氏名

い 温泉台帳(温泉組合)への記録(記載)
う 湧出施設に設置した看板

『明認方法』(めいにんほうほう)の1つである

え 土地or建物の所有権登記

次のような不動産の所有権登記について
→温泉権の対抗要件を兼ねる(流用する)
ア 湧出口・採湯場の土地イ 湧出口を擁護する建物

4 公示方法の慣行を否定した判例

一般的には温泉権の公示方法が対抗要件として認められています(前記)。しかし,公示方法として否定する判断や見解もあります。レアな判断として,公示方法を否定した裁判例を紹介します。

<公示方法の慣行を否定した判例>

あ 鉱泉所有名義人の登録

次の台帳に鉱泉所有名義人の登録がなされている
ア 警察署備付の鉱泉台帳イ 保健所備付の温泉台帳

い 裁判所の判断の要点

『あ』の登録について
温泉に関する権利変動の公示方法とする一般慣行はない
→慣習によって確立した公示方法がない
→物権としての本件温泉利用権は認めない

う 判決文

しかるに本件においては,本件温泉利用権に関する右のような慣習,殊にその権利変動の公示方法に関する慣習の存することにつき被控訴人は何らの主張立証をもなさず,他にこれを肯認するに足る何らの資料も存しない。
もつとも各成立に争のない甲第一四号証,乙第一,二号証によれば,明治四五年大分県令鉱泉取締規則による別府警察署備付の鉱泉台帳及び昭和二四年大分県訓令温泉法施行手続による別府保健所備付の温泉台帳に本件鉱泉地の鉱泉所有名義人の登録がなされている事実が認められるけれども,右台帳制度は温泉の濫掘防止や公衆衛生保健に関する取締等を主たる目的とするものと認められ,本件温泉所在地方において右台帳の記載をもつて温泉に関する権利変動の公示方法とする一般慣行の存する事実は未だ認められない。故に被控訴人が物権としての本件温泉利用権を有する事実を認めることはできず,・・・
※福岡高判昭和34年6月20日

本記事では,温泉権の対抗要件(公示)について説明しました。
実際には,個別的な事情によって法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に温泉・源泉に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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