【借地・借家・使用貸借の「期間」に関するルール比較(普通・定期・終身)】

1 借地・借家・使用貸借の「期間」に関するルール比較(普通・定期・終身)

借地,借家ともに,期間については細かいルールが決まっています。借地と借家ではルールが似ているところもありますが,大きく違うところもあります。
さらに,無償で貸し借りをする使用貸借にも期間や契約終了についてのルールがあります。
同じ「貸し借り」でも,状況によってルールが違うので,勘違いしやすいです。
本記事では,期間に関して,借地・借家・使用貸借を比較しながら説明します。

2 普通借地と普通借家の期間の規制の比較

まず,「普通」の借地と借家の期間のルールをまとめます。
両方とも,強く借主が保護されているので,設定(合意)する期間には最低限が決められています。
普通借地では30年,普通借家では1年です。借地では,その土地上に借主が建物を建築することになります。契約が終了した時には,建物の撤去が必要となります。このように借主の経済的負担の規模が(借家と比べて)とても大きいので,最低期間は長めになっているのです。
また,期間を定めないという方式が可能かどうか,という点でも借地と借家は違います。借地必ず期間(年数)を定めることになっています。定めない場合には最低限の年数を定めた扱いとなります。
借家の場合は,期間を定めないことも可能です。その場合には,貸主(賃貸人)が解約の申入をすることができますが,正当事由がないと解約(契約終了)になりません。結果的に,明渡料を支払わないと解約はできないのが通常です。

普通借地と普通借家の期間の規制の比較

設定できる最低期間 「期間の定めなし」の可否
普通借地 30年
普通借家 1年

3 期間満了の際の法定更新(概要)

ところで,設定した期間が満了した時には,常識的には,契約は終了するはずです。しかし,(普通)借地・借家では原則として更新する(例外的に終了する)というようにとても変わった扱いとなっています。つまり,自動的に契約が更新する,というルールがあるのです。これを法定更新といいます。
貸主(賃貸人)が法定更新を食い止めようとしても,正当事由が必要です。通常は明渡料の支払が必要になります。

4 定期借地と定期借家の期間の規制の比較

(普通)借地や借家では更新が原則なので,貸主の立場からすると,いったん貸したらいつ戻ってくるか分からないということになります。そうすると,貸したくないということになり,賃貸不動産が出回らなくなるという弊害も出てきます。
そこで,平成12年に法定更新(自動的に更新する)がない方式が登場しました。定期借地・定期借家です。
定期借地・定期借家は,文字としては期間が定まっているということになりますが,要するに,最初に決めた期限がきたら確実に戻ってくるというものです。
詳しくはこちら|定期借地は普通借地と違って法定更新がない;3種類がある
詳しくはこちら|定期借家の基本(更新なし=期間満了で確実に終了する)
定期借地にはさらに3つのタイプに分けられます。そのタイプによって,決められる期間の最低限は,10年,20年,30年のいずれかになります。普通借地では最低限が30年なので,(2つのタイプについては)それより短い期間の設定も可能となっています。さらに期間の上限も30年または50年と決まっています。
定期借家には1タイプだけです。決められる期間の制限はありません。普通借家では最低限が1年でしたが,それより短い期間を設定することも可能です。
ところで,賃料減額請求はできないという特約をつけることができるかどうか,についても違いがあります。定期借地ではそのような特約は可能です。定期借家はそのような特約はできません。

定期借地と定期借家の期間の規制の比較

最低期間 最長期間 賃料減額請求の排除
定期借地 10年・30年・50年 30年・50年or制限なし 特約で排除できる
定期借家 制限なし 制限なし 特約で排除できない

詳しくはこちら|借地期間|30年→20年→10年|旧借地法は異なる|借地期間不明への対応
詳しくはこちら|定期借家の基本(更新なし=期間満了で確実に終了する)

5 「普通」から「定期」への切り替えの制限

前述のように,「定期」借地・借家は平成12年から始まりました(施行)。当時,オーナー(貸主)としては,既存の契約を定期に切り替えたいとみんな思ったものです。ここでも借主保護ルールが作られています。住居タイプの借家については,普通から定期(借家)への切り替えはできないことになっています。ただし,この切り替え禁止ルールは,平成12年3月の改正法施行をまたいだ場合が前提なので,それ以降に始まった契約については切り替え可能です。
また,借地については切り替え禁止ルール自体がありません。借地は借家と違って,満了・更新が頻繁には来ないので,契約を切り替えることに慎重になる傾向があるので,そこまで借主を保護する必要はない,という考えがあるのです。

「普通」から「定期」への切り替えの制限

切り替え形態 制限
普通借地から定期借地への切り替え 制限なし(可能)
普通借家から定期借家への切り替え 契約開始時が平成12年3月1日以前である居住用建物の場合は切替禁止

詳しくはこちら|平成12年3月1日以前の居住用建物の普通借家は定期借家への切替ができない

6 「終身」(借主死亡時に終了)という設定の可否

定期借地や借家は,決めた時期に確実に戻ってくる方式でしたが,具体的に時期を決めずに,借主が亡くなるまで(貸主の生涯ずっと貸している)という決め方をしたい,というニーズがあります。
結論として,借主が亡くなるまでという決め方はできません。そのような合意をしても無効になるのです。というのは,正当事由がない限り契約は続くという借主の保護に反するからです。
結局,借主が亡くなった時には,契約は終了せずにそのまま続きます。借主の相続人が新たな借主となります(承継します)。
なお,借家については高齢者向けの一定条件をクリアした建物(事業)については,特別に終身の設定ができます(逆にそれ以外では終身の設定はできません)。

「終身」(借主死亡時に終了)という設定の可否

あ 普通借地・普通借家

「終身」という設定は,普通借地の更新拒絶の制限や期間の強行規定に反する
→できない

い 定期借地・定期借家

定期借地・定期借家では確定的な期間を定める必要がある
→「終身」という設定はできない

う 例外的な終身の借家

高齢者向けの住宅について事業の認可を含む一定の要件をクリアした場合にだけ,終身の建物賃貸借が可能となる
詳しくはこちら|終身借家契約は借地借家法に抵触するが高齢者住まい法で認められた

え 借地権の相続(現実的な感覚)

借地権は価値が大きく,これが相続財産となることが確保される結果となっている

7 使用貸借の期間・終期

以上で説明した借地・借家は,(通常は)賃貸借契約のことです。土地や建物を使う対価として賃料の支払がある,という契約です。
この点,無償(対価を支払わない)で貸し借りをする使用貸借の場合にはルールが大きく違います。
どのような期間(期限)を設定するのも自由ですし,期間を定めないことも可能です。「借主が資力を回復するまで」のような不確定な期限を定めることもできます。
また,条文に,借主が死亡したら終了するというルールがあります。もともと終身がデフォルトなのです。逆に借主が死亡しても終了しないという設定も可能です。
ただし注意が必要です。建物所有目的の土地の使用貸借では原則と例外が逆になります。何も決めておかないと,借主が死亡しても契約は終了しない(相続人が引き継ぐ)のが原則ということになります。

使用貸借の期間・終期

あ 設定する期間の制限

使用貸借において定める期間(期限)については制限はない
期間を定めないということも可能である

い 借主死亡による終了

ア 規定 民法597条3項が「借主の死亡によって終了する」と定めている
イ 建物所有目的の土地の使用貸借の特別扱い 建物所有目的の使用貸借では,原則として借主が死亡しても終了しない
借主の死亡で終了させたい場合はそのように合意しておく必要がある
詳しくはこちら|借主の死亡による使用貸借の終了と土地の使用貸借の特別扱い

本記事では,借地・借家・使用貸借の「期間(期限)」に関するルールを説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に不動産の貸し借りやその終了・明渡などの問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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