【低額譲渡・共有持分放棄×課税|みなし譲渡所得課税・贈与税】

1 低額譲渡・共有持分放棄×課税|全体
2 個人→個人|基本
3 個人→個人|低額譲渡|贈与税(概要)
4 個人→法人|基本
5 個人→法人|みなし譲渡所得課税
6 同族会社への低額譲渡×株式の評価額増加
7 法人→個人
8 法人→法人
9 低額譲渡×課税関係|まとめ

1 低額譲渡・共有持分放棄×課税|全体

不動産の移転は税務上『資産の譲渡』になります。
共有持分の譲渡もこれに含まれます。
この点,共有物分割は特別な扱いがあります。
詳しくはこちら|共有物分割×税金|基本・全体
共有物分割で特殊事情があると『低額譲渡』として扱われます。
大雑把に言えば『贈与』と同じ扱いとなるのです。
一方『共有持分放棄』は民法上贈与とは大きく異なります。
詳しくはこちら|共有持分放棄の登記(対抗関係・固定資産税・登記引取請求)
しかし税務上は『贈与』と同じ扱いになります。
本記事では,これらの『贈与と同じ税務上の扱い』を説明します。
当事者が『個人か法人か』で扱いが違います。
以下,パターンを分けて説明します。

2 個人→個人|基本

個人から個人に共有持分が動いたというケースの課税を整理します。

<個人→個人|基本>

あ 持分放棄

持分放棄による持分の取得について
→税務では贈与とみなされる
→取得者に贈与税が課される
※相続税法9条,相続税法基本通達9−12

い 低額譲渡|概要

『著しく低い価額』で譲渡した場合
→贈与税が課税されることがある(後記※1

3 個人→個人|低額譲渡|贈与税(概要)

『低額譲渡』に関する税務上の扱いをまとめます。

<個人→個人|低額譲渡|贈与税(概要・※1)>

あ 基本

『著しく低い価額』で個人が財産の譲渡を受けた場合
→贈与税が課税される
課税対象=財産の対価と時価との差額
※相続税法7条本文

い 『著しく低い価額』の判断基準

個別具体的に判断される
一律の基準は法令上定められていない
時価の78%での売却について低額譲渡の適用を否定した裁判例がある
詳しくはこちら|低額譲渡(低廉売買)によるみなし贈与課税の基本(規定と実務的判断)
比較;所得税・法人税のみなし譲渡所得課税の『著しく低い価額』には基準がある(後記※2

4 個人→法人|基本

個人から法人に共有持分が動いたというケースの課税を整理します。

<個人→法人|基本>

あ 持分放棄

ア 放棄者(個人) 課税関係は生じない
例外=みなし譲渡所得課税(後記※2
※所得税法59条1項1号
イ 取得者(法人) 『益金』が生じる
→法人税課税の対象となる
※法人税法22条2項

い 低額譲渡

ア 譲渡者(個人) みなし譲渡所得課税が生じる(後記※2
イ 譲受人(法人) 時価相当額と対価との差額が益金となる
→法人税課税の対象となる
※法人税法22条2項

5 個人→法人|みなし譲渡所得課税

個人から法人への財産の動きには『譲渡とみなす』制度があります。
『みなし譲渡所得課税』と呼ばれる制度です。

<個人→法人|みなし譲渡所得課税(※2)

あ 基本

個人が法人に対して『著しく低い価額の対価』で譲渡した場合
→時価相当額を対価として資産の譲渡があったものとみなす
→譲渡所得・山林所得の計算をする
※所得税法59条1項1号

い 『著しく低い価額』の基準

時価の2分の1未満の金額
時価=実勢価額
※所得税法施行令169条
詳しくはこちら|所得税におけるみなし譲渡所得課税(低額譲渡・所得税法59条)

6 同族会社への低額譲渡×株式の評価額増加

実務では個人から同族会社への財産移転がよくあります。
これら低額譲渡に該当すると『株式』に関する課税が生じます。

<同族会社への低額譲渡×株式の評価額増加>

あ 前提事情

個人株主Bが会社Aに資産を譲渡した
会社AはB個人の『同族会社』に該当する
会社Aに経済的な利益が生じた

い 株主への贈与税課税

Aの株主のうちB以外の者Cの有する株式について
価額が増加した場合
→CはBから贈与により取得したものとして扱う
贈与税課税対象=Cの有する株式の評価額増加部分
※相続税法9条,相続税法基本通達9−2

う 具体例・共有物分割

A・Bが甲不動産の共有者であった
持分割合に応じない共有物分割がなされた
結果的にAが持分割合よりも大きな価額の財産を取得した
Cの有する株式の価値が増加した

7 法人→個人

法人から個人に共有持分が動いたケースの課税を整理します。

<法人→個人>

あ 持分放棄

ア 放棄者(法人) 譲渡益が生じる
→『益金』として法人税の課税対象となる
イ 取得者(個人) 所得税の課税対象となる
例;一時所得・給与所得
※所得税法基本通達34−1(5)

い 低額譲渡

ア 譲渡人(法人) 時価で資産を譲渡したものとして益金を計上する
※東京地裁昭和55年10月28日
イ 譲受人(個人) 時価と対価の差額について
→所得税が課税される
例;給与所得・退職所得・一時所得
※所得税法34条,所得税法基本通達34−1(5)

8 法人→法人

法人から法人に共有持分が動いたケースの課税を整理します。

<法人→法人>

あ 持分放棄

ア 放棄者(法人) 『無償による資産の譲渡』に該当する
→譲渡益が益金となる
→法事税の課税対象となる
※法人税法22条2項
イ 取得者(法人) 『益金』が生じる
→法人税の課税対象となる

い 低額譲渡

ア 譲渡人(法人) 時価で資産を譲渡したものとして益金を計上する
※東京地裁昭和55年10月28日
イ 譲受人(法人) 時価相当額と対価との差額が益金となる
→法人税課税の対象となる
※法人税法22条2項

9 低額譲渡×課税関係|まとめ

以上のように低額譲渡の課税関係はちょっと複雑です。
当事者の種類による税務上の扱いの全体をまとめます。

<低額譲渡×課税関係|まとめ>

当事者 譲渡人 譲受人
個人→個人 所得税 贈与税
法人→個人 益金→法人税 所得税
個人→法人 みなし譲渡所得課税 益金→法人税
法人→法人 益金→法人税 益金→法人税

本記事では,共有持分放棄などに関する課税について説明しました。
このように,共有不動産の解決などで無償(または低額)での財産の移転が生じるケースでは贈与税の課税に配慮する必要があるのです。
共有持分放棄や低額譲渡に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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