【現物分割(共有物分割)における課税(共有物分割の通達・交換の特例)】

1 現物分割(共有物分割)における課税(共有物分割の通達・交換の特例)

共有物分割では、課税が問題となることがあります。本記事では、共有物分割が現物分割で終わった場合の課税について説明します。

2 共有物分割の通達(譲渡所得税・法人税)

現物分割の法的性質は、交換です。
詳しくはこちら|共有物分割の法的性質と契約不適合責任(瑕疵担保責任)
つまり、共有持分権が共有者間で移転(移動)する、ということになります。そうすうると、形式的には資産の譲渡にあたるので、譲渡所得税や法人税が課税されることになるはずです。
しかし、もともと共有持分は所有権の性質をもっているので、実質的には経済的利益が移動したわけではありません。そこで、この実質に着目して、譲渡所得税や法人税は課税されないことになっているのです。
なお、この扱いが適用されるのは、現物分割の内容が持分に応じた場合です。持分に応じた分割とは、各当事者が取得した土地の評価額の比率が、もとの持分割合とおおむね等しいということです。
大幅にずれていて、その差額分の賠償金支払がない場合(アンバランスである場合)には、差額分の利益が移動したことになるので、この非課税扱いは適用になりません(後記※3)。

共有物分割の通達(譲渡所得税・法人税)(※1)

あ 所得税法基本通達

(共有地の分割)
33-1の7 個人が他の者と土地を共有している場合において、その共有に係る一の土地についてその持分に応ずる現物分割があったときには、その分割による土地の譲渡はなかったものとして取り扱う
(昭56直資3-2、直所3-3追加、令元課資3-3、課個2-20、課法11-5、課審7-3改正)
(注) 1 その分割に要した費用の額は、その土地が業務の用に供されるもので当該業務に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されたものを除き、その土地の取得費に算入する。
2 分割されたそれぞれの土地の面積の比と共有持分の割合とが異なる場合であっても、その分割後のそれぞれの土地の価額の比共有持分の割合におおむね等しいときは、その分割はその共有持分に応ずる現物分割に該当するのであるから留意する。
※所得税法基本通達33−1の7

い 法人税法基本通達

(共有地の分割)
2-1-19 法人が他の者と土地を共有している場合において、その共有に係る土地をその持分に応じて分割したときは、その分割による土地の譲渡はなかったものとして取り扱う
(昭55年直法2-8「六」により追加)
(注) その分割に要した費用の額は、その支出をした日の属する事業年度の損金の額に算入することができる。
※法人税法基本通達2−1−19

3 固定資産の交換の特例

前述の通達のルールとは別に、法律上規定されているルールとして、固定資産の交換の特例があります。このルール自体は、共有物分割を対象としたものではなく、交換契約が対象となっています。ただ、前述のとおり、現物分割(共有物分割)は交換の性質をもっているので、現物分割にも固定資産の交換の特例が適用されます。
固定資産の交換の特例は、交換の前後で用途が同じである場合には譲渡所得税や法人税を課税しない、というものです。ただし、各当事者が取得した財産の評価額の比率が、もとの持分割合とおおむね等しいことが前提です。大幅にずれている場合には、この特例は適用になりません(後記※3)。
どのような場合に、大幅にずれたといえるか、ということは、所得税法には明記があります。差額(交換差金)が0.2倍を超えた場合です(大きい方の額が小さい方の額の1.2倍を超えた場合)。
なお、実際には取得する不動産の評価額と持分割合がずれるので、その差額分を金銭で調整する(部分的価格賠償)ことが多いです。
詳しくはこちら|部分的価格賠償の基本(昭和62年最判・法的性質・賠償金算定事例)
この場合には、賠償金の支払も含めて、持分割合とのずれがあるかどうかを判定します。
全体的に、前述の共有物分割の通達と、この固定資産の交換の特例の2つのルールはとても似ていますが、細かいところで違いもあります。両方使えるケースではどちらを使う(課税なしにする)ことも可能です。

固定資産の交換の特例(※2)

あ 所得税法58条

(固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例)
第五十八条 居住者が、各年において、一年以上有していた固定資産で次の各号に掲げるものをそれぞれ他の者が一年以上有していた固定資産で当該各号に掲げるもの(交換のために取得したと認められるものを除く。)と交換し、その交換により取得した当該各号に掲げる資産(以下この条において「取得資産」という。)をその交換により譲渡した当該各号に掲げる資産(以下この条において「譲渡資産」という。)の譲渡の直前の用途と同一の用途に供した場合には、第三十三条(譲渡所得)の規定の適用については、当該譲渡資産(取得資産とともに金銭その他の資産を取得した場合には、当該金銭の額及び金銭以外の資産の価額に相当する部分を除く。)の譲渡がなかつたものとみなす
一 土地(建物又は構築物の所有を目的とする地上権及び賃借権並びに農地法(昭和二十七年法律第二百二十九号)第二条第一項(定義)に規定する農地(同法第四十三条第一項(農作物栽培高度化施設に関する特例)の規定により農作物の栽培を耕作に該当するものとみなして適用する同法第二条第一項に規定する農地を含む。)の上に存する耕作(同法第四十三条第一項の規定により耕作に該当するものとみなされる農作物の栽培を含む。)に関する権利を含む。)
二 建物(これに附属する設備及び構築物を含む。)
三 機械及び装置
四 船舶
五 鉱業権(租鉱権及び採石権その他土石を採掘し、又は採取する権利を含む。)
2 前項の規定は、同項の交換の時における取得資産の価額と譲渡資産の価額との差額がこれらの価額のうちいずれか多い価額の百分の二十に相当する金額を超える場合には、適用しない
3・・・

い 法人税法50条

(交換により取得した資産の圧縮額の損金算入)
第五十条 内国法人(清算中のものを除く。以下この条において同じ。)が、各事業年度において、一年以上有していた固定資産(当該内国法人が適格合併、適格分割、適格現物出資又は適格現物分配(以下この項及び第七項において「適格組織再編成」という。)により被合併法人、分割法人、現物出資法人又は現物分配法人(以下この項及び第七項において「被合併法人等」という。)から移転を受けたもので、当該被合併法人等と当該内国法人の有していた期間の合計が一年以上であるものを含む。)で次の各号に掲げるものをそれぞれ他の者が一年以上有していた固定資産(当該他の者が適格組織再編成により被合併法人等から移転を受けたもので、当該被合併法人等と当該他の者の有していた期間の合計が一年以上であるものを含む。)で当該各号に掲げるもの(交換のために取得したと認められるものを除く。)と交換し、その交換により取得した当該各号に掲げる資産(以下この条において「取得資産」という。)をその交換により譲渡した当該各号に掲げる資産(以下この条において「譲渡資産」という。)の譲渡の直前の用途と同一の用途に供した場合において、その取得資産につき、その交換により生じた差益金の額として政令で定めるところにより計算した金額の範囲内でその帳簿価額を損金経理により減額したときは、その減額した金額に相当する金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する
一 土地(建物又は構築物の所有を目的とする地上権及び賃借権並びに農地法(昭和二十七年法律第二百二十九号)第二条第一項(定義)に規定する農地(同法第四十三条第一項(農作物栽培高度化施設に関する特例)の規定により農作物の栽培を耕作に該当するものとみなして適用する同法第二条第一項に規定する農地を含む。)の上に存する耕作(同法第四十三条第一項の規定により耕作に該当するものとみなされる農作物の栽培を含む。)に関する権利を含む。)
二 建物(これに附属する設備及び構築物を含む。)
三・・・

4 将来の譲渡における譲渡所得税の期間の判定

前述のように、現物分割では、原則として、譲渡はなかったものとして、譲渡所得税(や法人税)が課税されないことになります。ところで、共有物分割が完了した後で、将来当該不動産を売却する時には譲渡所得税が課税されますが、ここで所有期間の問題が出てきます。
共有物分割の時に課税がなかった場合、つまり譲渡はない扱いとなった場合には、共有物分割の前後をとおして所有していたことになります。所有期間は共有物分割の前後を通算することになります。
例外的に共有物分割の時に譲渡所得税の課税があった場合、つまり譲渡があった扱いとなった場合には、共有物分割の時点で取得したことになるので、この時点が所有期間の起算点となります。

将来の譲渡における譲渡所得税の期間の判定

あ 前提

共有物分割の完了後に譲渡がなされた場合
→譲渡所得税が課税される
→所有期間に短期・長期の区分がある

い 所有期間の判定

所有期間の短期・長期の判定において
譲渡はなかったものとして扱った場合
→共有物分割の前後を通算して期間を算定する

5 部分的価格賠償に伴う賠償金(差額部分)への課税

現物分割でも価値の過不足があると金銭で調整することがあります。この金銭を賠償金といい、この分割方法を部分的価格賠償といいます。
詳しくはこちら|部分的価格賠償の基本(昭和62年最判・法的性質・賠償金算定事例)
この賠償金について、共有物の基本通達は適用がありません。交換の特例は適用されます。

差額分の賠償金への所得税の課税

あ 共有物分割の基本通達→適用なし

部分的価格賠償の賠償金(差額の支払)について、共有物分割の基本通達(前記※1)は適用されない
賠償金については所得税の課税対象となる

う 交換の特例

部分的価格賠償の賠償金(差額の支払)について、交換の特例(前記※3)の要件を満たせば適用される
その場合、賠償金だけが所得税の課税対象となる

6 アンバランスな現物分割における課税

(1)譲渡所得税・法人税

前述のように、現物分割の内容が持分割合に整合していれば、譲渡所得税や法人税は例外ルールが適用され、結果的に課税されないことになります。
逆に、現物分割の内容が持分割合に整合していない場合、つまりアンバランスである場合には、例外ルールは適用されない、つまり原則的なルールが適用されます。原則的なルールとは、資産の譲渡として、譲渡所得税が課税される、法人税の計算上の益金(利益)となる、ということです。
詳しくはこちら|低額譲渡・共有持分放棄×課税|みなし譲渡所得課税・贈与税

(2)贈与税→みなし贈与

もともと共有物分割は贈与とは違いますので、贈与税が課税となることはありません。しかし、アンバランスな分割内容である場合、差額部分を贈与したものとみなすルールが適用されてしまいます。財産を相場よりも大幅に安く売った場合の扱い(低額譲渡)と同じです。
詳しくはこちら|低額譲渡・共有持分放棄×課税|みなし譲渡所得課税・贈与税

本記事では、現物分割における課税について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有物分割などの共有不動産に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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