1 賃貸借の一方当事者が複数×法律問題|総論
2 賃貸借|借主が複数|賃料債務の不可分性
3 既発生賃料の相続|金銭債権→可分
4 賃貸借|借主が複数|損害金債務の不可分性
5 賃貸借|貸主が複数|賃料債権の可分性
6 賃貸借|貸主が複数|保証金返還債務の不可分性
7 賃借権の準共有と賃料増額請求

1 賃貸借の一方当事者が複数×法律問題|総論

賃貸借の一方当事者が複数存在するケースがあります。
共有の不動産では通常貸主は共有者全員です。
貸主が複数人ということになります。
複数の入居者が賃借人になるケースもあります。
いずれも,代金などの債権・債務の法的扱いが問題となります。
具体的には『可分or不可分』という解釈論です。
本記事ではこのような問題について説明します。
なお,売買に関する債権の法的扱いは別に説明しています。
詳しくはこちら|売主or買主が複数×所有関係・代金の可分/不可分

2 賃貸借|借主が複数|賃料債務の不可分性

借主が複数存在するというケースについてまとめます。

<賃貸借|借主が複数|賃料債務の不可分性(※2)>

あ 前提事情

次のいずれかに該当する
ア 契約締結時に借主が複数であった
イ 賃借人に相続が生じて複数の相続人が借主になった

い 賃料債務×不可分性

『貸す債務』は性質上不可分の給付である
賃料債務は『不可分給付』の対価である
→賃料債務も不可分とする
特約があれば別である
既に発生している過去の賃料は別扱いである(後記※1)
※民法428条,429条,430条
※大判大正11年11月24日
※大判昭和14年5月12日
※大判昭和8年7月29日

3 既発生賃料の相続|金銭債権→可分

一般的な賃料は不可分債務として扱われます(前記)。
この点,既に発生している過去の賃料は扱いが異なります。

<既発生賃料の相続|金銭債権→可分(※1)>

あ 前提事情

Aが賃借人であった
賃料債務に滞納があった
Aが死亡した
相続人はB・Cである

い 賃料債務×可分性

既に発生していた賃料債務について
→一般的な金銭債権として扱う
→可分債務となる
→分割して相続する
※大決昭和5年12月4日
※最高裁昭和34年6月19日

4 賃貸借|借主が複数|損害金債務の不可分性

借主が負う債務は賃料だけではありません。
損害金の支払債務が生じることもあります。
結果的に賃料債務と同じ扱いとなります。

<賃貸借|借主が複数|損害金債務の不可分性>

あ 前提事情

賃貸借契約が締結されている
賃借人が複数人いる

い 損害金債務×不可分性

賃借物返還義務不履行による損害賠償の債務について
→共同賃借人は各自が全額の支払義務を負う
※大判昭和8年7月29日

5 賃貸借|貸主が複数|賃料債権の可分性

貸主が複数というケースについて説明します。

<賃貸借|貸主が複数|賃料債権の可分性>

あ 前提事情

賃貸借契約が締結されている
賃貸人が複数人である

い 賃料債権×可分性

賃料債権は一般的な金銭債権の性質である
→可分である
※最高裁平成17年9月8日参照

6 賃貸借|貸主が複数|保証金返還債務の不可分性

貸主は『金銭を支払う側』になることもあります。
過去に預かった保証金・敷金を返還する状況です。
このような返還債務の法的扱いをまとめます。

<賃貸借|貸主が複数|保証金返還債務の不可分性>

あ 前提事情

賃貸借契約が締結されている
貸主が死亡した
相続人は複数人である
→賃貸人が複数となった

い 保証金・敷金返還債務×不可分性

賃借人に対する保証金・敷金の返還債務について
→不可分債務である
※大阪高裁昭和54年9月28日

7 賃借権の準共有と賃料増額請求

賃借人が複数人存在するケースでの賃料の増額請求の当事者について説明します。
賃借人の全員に通知をしないと一切効果を生じないことになります。
単純な賃料請求は賃借人のうち1人に全額の請求が可能です(前記※2)。似ているけど扱いが異なるので誤解しやすいところです。

<賃借権の準共有と賃料増額請求>

あ 増額請求の当事者

賃借権が準共有となっている場合
=賃借人が複数人存在する
→賃貸人は賃借人の全員に対して増額の意思表示をする必要がある

い 相対的な効力

賃借人の一部だけに対する意思表示について
→意思表示を受けた者との関係においても効力を生じない
※民法430条
※最高裁昭和54年1月19日;借地について

う 共同訴訟形態(概要)

増減額請求権の行使を前提とする訴訟について
→類似必要的共同訴訟となる見解が一般的である
※幾代通ほか『新版 注釈民法(15)債権(6)増補版』有斐閣p652
詳しくはこちら|共有物と共同訴訟形態(損害賠償・境界確定・登記請求・賃料増減額)