【共有土地の賃貸借|不適法な借地権譲渡承諾→対応策】

1 前提|借地権譲渡承諾→管理
2 不適法な借地権譲渡承諾|実例
3 不適法な借地権譲渡承諾|対抗策|まとめ
4 不適法な借地権譲渡承諾|明渡請求
5 不適法な借地権譲渡承諾|借地契約解除
6 不適法な借地権譲渡承諾×建物買取請求権

1 前提|借地権譲渡承諾→管理

共有の土地が貸地となっていることも多いです。
賃貸人が複数いるという状態です。
借地権譲渡の承諾に関する問題があります。
具体的事例を用いて説明します。
まずは譲渡承諾の要件をまとめます。

<前提|借地権譲渡承諾→管理>

あ 地主の承諾の必要性

借地権(賃借権)を譲渡する場合
→地主の承諾が必要である
※民法612条1項
詳しくはこちら|賃借権の譲渡・転貸と賃貸人の承諾と無断譲渡・転貸に対する解除

い 土地共有者の承諾の分類

共有の土地の借地権の譲渡を承諾することについて
→共有物の管理となる
→持分の過半数の賛成が必要である
詳しくはこちら|共有物の賃貸借に関する各種行為の管理行為・変更行為の分類(全体)

『管理』行為の1つとされています。
共有者の持分の過半数の賛成があれば『承諾』できます。
過半数の賛成がないのに『承諾』されてしまうこともあります。
このような不適法な承諾の効果について次に説明します。

2 不適法な借地権譲渡承諾|実例

不適法な借地権譲渡承諾の実例をまとめます。

<不適法な借地権譲渡承諾|実例(※1)

あ 事例

A・Bの共有の土地がある
持分割合は2分の1ずつである
Cに貸地をした
これについてはA・Bの両方が納得していた
CはDへの借地権譲渡を希望していた
BがAに無断で借地権譲渡を承諾してしまった

い 結論

借地権譲渡は『管理』となる
→持分割合の過半数の賛成が必要である
→Bの持分割合では過半数に達していない
→Bによる『譲渡承諾』は不適法である

承諾が不正なので『承諾なし』と同じことになります。
つまり『無断譲渡』ということです。
Aとしては迷惑を受けていることになります。
Aの対抗策について,以下説明します。

3 不適法な借地権譲渡承諾|対抗策|まとめ

Aの立場における対抗策はいろいろなものがあります。
最初に全体をまとめます。

<不適法な借地権譲渡承諾|対抗策|まとめ>

明渡請求
解除 ×
建物買取請求権を防ぐ ×(=防げない)

それぞれの内容については,以下,順に説明します。

4 不適法な借地権譲渡承諾|明渡請求

Aとしては『明渡請求』をすることが考えられます。

<不適法な借地権譲渡承諾|明渡請求>

前記※1の事情を前提とする
AからDに対する明渡請求について
→認められる可能性が高い

DはCから借地権譲渡を受けました。借地権を持っているようにみえます。
しかし,借地権譲渡には地主の承諾が必要です。前記のようにBだけでは適法(有効)な承諾にはなりません。結論として,無承諾の状態です。そこで,Aの立場からは,Dは占有権原がないと言えます。つまり不法占有者と同じです。
不法占有者への明渡請求は保存行為として,または,共有持分権に基づく妨害排除請求として,共有者が単独で行えます。
結果的に,Aは単独でDに対して明渡請求を行うことができます。
ただし,別の解釈の可能性もあります。まず,共有者であるBが単独で共有物を使用していても,他の共有者は明渡を請求することは認められません。Bから使用承諾を受けた者に対する明渡請求も同様という考え方もあるのです。
詳しくはこちら|共有者から使用承諾を受けて占有する第三者に対する明渡請求

5 不適法な借地権譲渡承諾|借地契約解除

Aとしては『借地契約を解除する』という発想もあります。

<不適法な借地権譲渡承諾|借地契約解除>

あ 一般的解釈

前記※1の事情を前提とする
AがDに対して借地契約を解除することについて
『管理』行為に該当する
→持分の過半数の賛成が必要である
→A単独での解除は認められない

い 別の解釈の可能性

特殊事情により『保存』行為に該当する考え方もあり得る
→この場合はA単独での解除が認められる

借地契約の解除は『管理』行為です。
そこで,A単独では『解除』はできないことになります。
ただし,保存行為として解除できるという考え方もあり得るでしょう。

6 不適法な借地権譲渡承諾×建物買取請求権

Aのアクションを考える上で重要な注意点があります。
逆にDからの反撃があり得るのです。

<不適法な借地権譲渡承諾×建物買取請求権>

あ 前提事情

前記※1の事情を前提とする
Aは借地権譲渡を承諾しない

い 借地権の譲受人からの対抗策

建物買取請求権を行使することができる
※借地借家法14条,借地法10条
※最高裁昭和39年6月26日
→共有者は建物買取を強制される結果となる
賃貸借契約の特約・条項で排除することはできない
※借地借家法16条;強行法規性

借地権譲渡の承諾は不適法です。
そこで『承諾』がないのと同じ状態です(前記)。
借地権譲渡の承諾が拒否された借地人には対抗策があります。
『建物買取請求権』です。
地主に建物を強制的に買い取らせるという内容です。
無断譲渡という,非常識なことをした者を保護する制度と言えます。
不合理な面もある制度なのです。
しかし,判例上は建物買取請求権の行使は認められています。
ただし建物買取請求の金額算定では借地人はあまり優遇されません。
『借地権』はない前提で算定されるのです。
詳しくはこちら|建物買取請求における代金算定方法・場所的利益の意味と相場

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