【共有持分放棄の登記(対抗関係・固定資産税・登記引取請求)】

1 共有持分放棄の登記

共有者は、共有持分の放棄によって、共有持分をなくすことができます。
詳しくはこちら|共有持分放棄の基本(法的性質・通知方法など)
共有持分放棄によって比較的手間の少ない手続で、確実に共有関係から離脱することができるのです。実際には共有持分放棄の後に他の共有者に登記の引取を請求することが多いです。
本記事では、共有持分放棄に関する登記について説明します。

2 共有持分放棄の登記手続→持分移転

共有持分放棄の理論的なメカニズムは放棄者の共有持分が消滅し、一方で他の共有者が共有持分を原始的に取得するというものです。
詳しくはこちら|共有持分放棄の基本(法的性質・通知方法など)
そうすると、不動産登記としては、共有持分の抹消登記と新たな取得(保存登記)となるのが自然です。しかし、持分移転登記をすることになっています。移転登記である以上、登記手続としては共同申請ということになります。

共有持分放棄の登記手続→持分移転(※1)

あ 昭和44年最判

すでに共有の登記のなされている不動産につき、その共有者の一人が持分権を放棄し、その結果、他の共有者がその持分権を取得するに至つた場合において、その権利の変動を第三者に対抗するためには、不動産登記法上、右放棄にかかる持分権の移転登記をなすべきであつて、すでになされている右持分権取得登記の抹消登記をすることは許されないものと解すべきところ(大審院大正三年一一月三日決定、民事判決録二〇輯八八一頁以下参照。)、・・・
※最判昭和44年3月27日
※大決大正3年11月3日(同内容)
※名古屋高裁平成9年1月30日(同内容)
※川島武宣ほか『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p464(同内容)
※末弘厳太郎『物権法 上』有斐閣1921年p420(同内容)

い 実質的理由

・・・右のような場合にいかなる登記をなすべきかの問題は、手続法、すなわち不動産登記法の見地から、これを決定すべきものであるところ、個々の不動産に関する権利変動の経過を登記簿上に明確に表示するという不動産登記法の精神からすれば、右の場合においては、右後者の登記をなすべきものと解するのが相当であろう。
※奥村長生稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 昭和44年度』法曹会1970年p199

う 登記申請の当事者(基本)

放棄者放棄により持分が帰属した者との共同申請により、持分移転の登記申請がされる
※昭和37年9月29日民事甲2751号民事局長回答

え 登記と実体が一致していない場合の登記申請の当事者

ア 登記手続における共有者の認定(前提) 誰が共有者であるかは登記記録によって判断すればよい
※藤原勇喜著『不動産の共有と更正の登記をめぐる理論と実務』日本加除出版2019年p134
詳しくはこちら|共有持分の登記の効力(持分譲渡・持分割合の対抗関係・平等推定)
イ 共有持分放棄の登記申請の当事者 A・B共有名義の不動産につき、Aの持分について共有名義人でないCのために『持分放棄』を登記原因とする共有持分移転の登記は、受理することができない
※昭和60年12月2日民三5441号民事局長通達
※七戸克彦『条解不動産登記法』p196

3 共有持分放棄による対抗関係(登記の効力)

共有持分放棄による権利の変動は、登記上は移転登記です(前記)。この点、共有持分放棄による権利変動と、持分譲渡は対抗関係となりますので、これらの登記が対抗要件となります。つまり、原始取得ではなく特定承継と同じような扱いとなっているのです。

共有持分放棄による対抗関係(登記の効力)

あ 民法177条の「第三者」の意味(前提)

民法177条の「第三者」とは、当事者以外の者であり、かつ、登記の欠缺を主張する正当の利益を有する者である
詳しくはこちら|民法177条の適用範囲(『第三者』の範囲・登記すべき物権変動)の基本

い 対抗関係の判断(概要)

共有持分放棄のよる権利変動を第三者に対抗するためには、持分権の移転登記が必要である
※最判昭和44年3月27日(前記※1

4 共有持分放棄による固定資産税からの解放

共有持分放棄は税務上の扱いにも注意が必要です。民法の規定と税務上の扱いにずれがあるのです。

共有持分放棄による固定資産税からの解放

あ 前提事情

共有者=A・B・C
Aが『共有持分放棄』の通知をB・Cに出した
B・Cが『持分移転登記』に協力してくれない
登記上は『共有者A・B・C』の状態のままである

い 民法上の効果

Aは共有持分を持たない状態となった

う 固定資産税

固定資産税は『台帳課税主義』となっている
※地方税法343条2項
→Aも固定資産税納付義務を負う
民法上の効果とは別の扱いとなる
詳しくはこちら|固定資産税|課税|賦課期日・新築の基準時点・台帳課税主義

5 共有持分放棄による土地工作物責任からの解放(概要)

ところで、土地の所有者は、土地工作物責任を負います。そこで、土地の共有者も土地工作物責任を負います。ただし、生じた損害のうち共有持分割合だけの責任で済まず、損害全体についての責任を負うという解釈もあり得ます。
もちろん、共有持分放棄によって共有持分権を失ったのであれば土地工作物責任からも解放されるはずです。しかし、登記が残っている以上は土地工作物責任も負うという見解もあります。
詳しくはこちら|土地工作物責任の全体像(条文規定・登記との関係・共同責任)
共有持分放棄の後に、共有持分の登記を他の共有者に移転させるまでは法的責任を負担する可能性があるのです。

6 共有持分放棄の後の登記引取請求

共有持分放棄をしても登記が残っていると納税義務があります。
他の共有者が協力してくれない場合は移転登記ができません。
このようなケースでは登記引取請求が活用できます。

共有持分放棄の後の登記引取請求

あ 前提事情

共有持分放棄を行った
AがB・Cへの持分移転登記を望んでいる
B・Cがこれに協力しない

い 登記引取請求の理論(概要)

AはB・Cに対して『登記引取請求』ができる
※最高裁昭和36年11月24日

う 登記引取請求の方法(概要)

登記引取請求の訴訟を提起する
訴訟では立証事項が少ない
→比較的短期間で完了する小規模な訴訟で済む
詳しくはこちら|登記引取請求権の理論と典型的背景(固定資産税・土地工作物責任の負担)

7 共有者の相続の際の登記引取請求の相手方の特定(概要)

ところで、共有者のうち一部(1名)が亡くなって、戸籍上相続人がみあたらない、という状況であることもあります。この場合まず、共有持分放棄の意思表示は相手方のない単独行為なので、理論的には、誰に対して通知するかという問題はありません。しかし、その後の登記引取請求の段階では誰を相手にするのか、という問題が生じます。
すでに相続財産管理人が選任され、相続人不存在が確定した後であれば、相続財産管理人が相手方になります。
しかし、相続人不存在が確定していない段階であれば、相続財産法人が相手方となります。その場合でも、通知の宛先や訴訟を遂行する者として相続財産管理人が選任されていることが原則として必要になります。一方、訴訟の中で特別代理人の選任をする方法もあります。このような理論や手法については共有物分割(請求)でも同じです。
詳しくはこちら|被告とする共有者が亡くなっていて戸籍上相続人がいない場合の対応

8 共有持分放棄に関する課税(みなし贈与)

共有持分放棄は、みなし贈与の課税に注意が必要です。

共有持分放棄に関する課税(みなし贈与)

あ 民法的解釈

共有持分放棄を行った
民法的解釈では『移転』ではない

い 税務的扱い(概要)

(放棄者と放棄の相手方(持分が帰属する者)の両方が個人である場合)
共有持分放棄による権利変動は譲渡(贈与)と同じ扱いとなる
『みなし贈与』と呼ばれる
※相続税法9条
※相続税基本通達9−12
詳しくはこちら|低額譲渡・共有持分放棄×課税|みなし譲渡所得課税・贈与税

う 贈与税|納付義務者

『財産を取得した者』に贈与税が課税される
『財産を譲渡した者=共有持分放棄を行った者』について
→連帯納付義務を負う
※相続税法34条4項

本記事では、共有持分放棄の登記について説明しました。
実際には、細かい事情によって違う判断もあります。また最適な解決手段も違ってきます。
実際に共有持分に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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