【森林法の届出|森林の譲渡・相続の際は,市町村への届出が必要】

1 森林経営|運営効率・コスト|集約→大規模化→効率アップ
2 森林法の制度趣旨・施策概要|森林運営の効率化を促進する
3 森林法|森林整備計画|管理・運営の具体化
4 森林法×届出義務|行政が所有者情報を把握する
5 森林法の届出義務の対象|森林を取得した時に届出義務がある
6 森林法の届出・手続|90日以内に市区町村役場に必要書類を提出する
7 『遺産分割未了』でも,森林法の届出義務はある
8 国土利用計画法による事後届出×森林法の届出|いずれか一方で足りる
9 森林法の届出義務違反→10万円以下の過料の対象となる

1 森林経営|運営効率・コスト|集約→大規模化→効率アップ

日本の森林は経営を断念するケースが多いです。
根本的・構造的な森林経営のポイントをまとめます。

<森林経営|運営効率・コスト>

あ 問題点=コストアップ

森林が『小規模である』場合
→管理に非常に高いコストがかかる
例;間伐→現地までの移動にコストを要する

い 問題点の解消=効率化

『森林施業の集約化』によりコストを下げられる

う 森林の集約化|具体的内容

次のようなプロセスで低コスト化を実現する
ア 森林組合を作るイ 小規模な森林を集約化するウ 森林組合が所有者に代わって効率的な作業道を敷設するエ 高性能林業機械を用いる

え 付随的な問題点

隣地との土地境界が不明確であるケースも多い
→トラブルが具体化すると解決に時間・コストがかかる
詳しくはこちら|土地境界のトラブルの原因と解決(境界特定)の全体像
※『月報司法書士2011年11月』日本司法書士会連合会p38

2 森林法の制度趣旨・施策概要|森林運営の効率化を促進する

森林経営が終わると,維持・管理されない『放置』状態となります。
この点,森林法では森林の維持・管理に向けた施策が規定されています。

<森林法の制度趣旨・施策概要>

あ 趣旨の基本事項

森林の維持・管理・運用を行う
→行政が森林運営の効率化を促進する
=森林の保続培養・森林生産力の増進
※森林法1条

い 運営の具体的内容

ア 森林の集約イ 通路(林道)の整備ウ 効果的・計画的な間伐

3 森林法|森林整備計画|管理・運営の具体化

森林法では行政が『森林整備計画』を作成することが規定されています。

<森林法|森林整備計画>

あ 管理・運用計画の具体化

市町村が森林整備計画を立案する
※森林法10条の5

い 計画実施の手段

森林所有者に対する『勧告』の制度もある
※森林法10条の10

4 森林法×届出義務|行政が所有者情報を把握する

行政による森林整備の前提として,所有者情報を取得・把握する必要があります。
そこで法改正により,所有者による『届出義務』が課せられるようになりました。

<森林法×届出義務>

あ 森林管理の前提業務

行政が森林の所有者を把握する
→行政サイド(市町村など)でも所有者リストを持つ
法務局の登記とは別である

い 届出義務

市町村が森林の所有者情報を取得する手段
=所有者からの届出
制度内容は後述する

5 森林法の届出義務の対象|森林を取得した時に届出義務がある

森林法の『届出』の対象・内容をまとめます。

<森林法の届出義務の対象>

あ 対象となる森林

地域森林計画の対象となっている森林(民有林)
『地域森林計画』は都道府県が作成している

い 取得形態

形態を問わず,新たに所有者となった場合
例;相続・売買・贈与・法人の合併など

う 届出義務の注意点

ア 登記上の地目とは関係ないイ 個人・法人のいずれもが対象であるウ 面積の基準はない 小さな面積の土地も対象となる
エ 国土利用計画法による事後届出を行った場合 森林法の届出は不要となる(後記)

現況が森林である土地を取得した場合は,都道府県の担当部署に地域森林計画の対象を確認すべきです。

6 森林法の届出・手続|90日以内に市区町村役場に必要書類を提出する

(1)森林法の届出|期限・提出先

森林法の届出の期限,提出先は次のとおりです。

<森林法の届出|期限・提出先>

あ 期限

森林(土地)の所有者となった日から90日以内

い 届出・提出先

市町村(の長)

(2)森林法の届出|必要な書類

森林法の届出の際は,一定の資料が必要となります。
届出のフォーマットは,林野庁のHPなどで公開されています。

<森林法の届出|必要な書類>

あ 森林(土地)の位置を示す図面

大まかな位置が分かるもので足りる

い 権利取得が分かる書面|例

ア 登記事項証明書イ 売買契約書ウ 遺産分割協議書エ 権利証(登記済証)

7 『遺産分割未了』でも,森林法の届出義務はある

遺産分割協議や調停・審判が未了の段階は『暫定的な状態』と言えます。
正確には遺産共有と呼び,一般的な共有形態(=物権共有)とは区別されています。
このように暫定的であったとしても,森林法の届出義務は免除されていません。
相続開始から90日以内に,共有の状態として届出を行う義務があります。
遺産分割未了なので,暫定的に法定相続による承継として届出を行えば良いのです。
相続による移転登記が未了であっても構いません。
森林法の届出義務と登記とは関係ないのです。

関連コンテンツ|法定相続分|遺産共有・遺産分割の必要・遺言による回避

8 国土利用計画法による事後届出×森林法の届出|いずれか一方で足りる

森林法とは別の届出制度があります。
『国土利用計画法による届出』です。
この場合,仮に森林法の届出の対象でも,重ねて届出を行う必要はありません。
行政庁への届出が重複しても無駄なので,この場合,森林法の届出は免除されているのです。

<国土利用計画法の事後届出×森林法の届出>

あ 国土利用計画法の事後届出の対象
区域 面積
市街化区域 2000平方メートル以上
その他の都市計画区域 5000平方メートル以上
都市計画区域外 1万平方メートル以上

※国土利用計画法23条

い 森林法の届出免除

国土利用計画法の事後届出を行った場合
→森林法の届出は必要なくなる(前記)
※森林法10条の7の2第1項ただし書

9 森林法の届出義務違反→10万円以下の過料の対象となる

森林法の届出義務の違反については,罰則が規定されています。

<森林法の届出|罰則>

あ 届出義務違反に対する罰則

過料10万円以下
※森林法10条の7の2,214条

い 違反行為の具体例

ア 森林法の届出義務があるのに,届出を行わないイ 届出をしたが内容が虚偽であった

う 運用・実務

ア 軽度・軽微と言える場合は罰則を課していない 例;うっかりこの制度を失念しており,多少届出が遅れた
イ 悪質である場合は罰則を課する 例;意図的であったり,偽装するなど

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