【建物の占有の判断の基準と具体例(建物賃貸借の退去の判定)】

1 建物の占有の判断の基準と具体例(建物賃貸借の退去の判定)

建物の『占有』の有無が問題となるケースはよくあります。
『占有』は事実上の支配を認定・判断するものです。
詳しくはこちら|『占有』概念の基本(判断基準や対象物のバラエティ)
本記事では、建物の占有の判断について説明します。

2 現実の利用→建物の占有あり

まずは、実際に建物を利用している者がいる場合、この者が建物を占有していることになります。建物を利用するといえる代表的・典型的状況は、居住していることです。

<現実の利用→建物の占有あり>

建物を現実に利用している者
→占有あり
※横浜区判大正10年10月11日

3 建物賃借人の家具残置+賃料支払→占有あり

居住はしていなくても占有が認められるケースもあります。建物の賃借人が別の場所に転居したけれど、荷物(動産)は置きっぱなしで、かつ、賃料も支払っているようなケースです。「予備的なスペースとして確保している状況」と言えるような状況です。

<建物賃借人の家具残置+賃料支払→占有あり>

あ 事案

建物の賃借人が他所に転居した
賃料の支払は継続している
賃借人が寝具・釜鍋などの動産を残置している

い 裁判所の判断

占有ありと認めた
※東京高判昭和29年4月27日

4 隣に居住+監視できる→占有あり

建物の所有者が、建物に施錠をせず、かつ、標札も出していない場合、一見して放置された空き家といえます。建物所有者が支配していない、つまり占有はないという発想もあります。
しかし、建物所有者が隣の家に住んでいて、監視は常にできる状態といえることから、建物の占有があると判断されたケースがあります。

<隣に居住+監視できる→占有あり>

あ 事案

所有者は施錠していなかった
所有者は、標札などにより占有中であることを示していなかった
所有者は隣接家屋に居住していた
日常的に監視することができる状態であった

い 裁判所の判断

占有ありと認めた
※最判昭和27年2月19日

5 建物の占有|宿泊サービスvs賃貸借

一般的に建物賃貸借では、賃借人に占有があります。
これ自体は当然なので、あまり問題になりません。
しかし最近、あるいは今後問題が増えてゆくと予想されます。
『宿泊サービス』が多様化しつつ拡がっているからです。
『宿泊サービス』では『旅館業』該当性という別問題があります。
『占有判断』は、この『旅館業該当性』と判断基準がほぼ同一です。
これについては別に説明しています。
詳しくはこちら|賃貸借/宿泊サービス|判断|基準類似・結果連動

6 建物賃貸借×占有・退去|判断基準

『建物賃貸借』の終了に関して『占有』が問題となることが多いです。
『退去』の判断と同じことです。
判断基準を整理します。

<建物賃貸借×占有・退去|判断基準>

あ 基本的事項

次の『い・う』に該当する場合
→賃借人の退去あり=占有なし、と認める

い 物理的退去

賃借人が実際に建物を支配していない状態である

う 返還の意思表示

賃借人が建物を返還する意思表示をした
※東京地裁昭和5年4月1日

7 建物賃貸借×占有・退去|判例

上記の判例の元となっている事例を紹介します。

<建物賃貸借×占有・退去|判例>

あ 事案

賃貸人が『占有移転禁止の仮処分』を行った
事実上賃借人が建物から立ち退いた

い 裁判所の判断

賃借人が建物を支配していないと言える
建物返還の意思表示があったと言える
→『返還義務の履行』ありと認めた
=賃借人が退去した・占有なし
※東京地裁昭和5年4月1日

8 建物賃貸借×明渡|強制執行

賃貸借契約が終了しても『賃借人が退去しない』ケースは多いです。
賃借人の『占有』があるので明渡の実現には大きなハードルがあります。
裁判所による強制執行を利用せざるを得ないこともあります。
詳しくはこちら|建物明渡の実力行使は違法となる(自力救済or自救行為の判断基準)

本記事では、建物の「占有」の有無の判断の基準や具体例を説明しました。
実際には、個別的事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に建物の占有(退去・明渡)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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