【旧借地法における建物の朽廃による借地の終了(借地権消滅)】

1 建物朽廃に関する新旧法の適用の振り分け(概要)
2 借地法の建物の朽廃による借地権消滅
3 期間の合意ある借地への朽廃規定の適用否定
4 建物の朽廃後の残存期間内の再築(概要)
5 最低期間違反の合意と朽廃規定の適用
6 『朽廃』の意味
7 大修繕と朽廃時期の推定による借地権消滅(概要)
8 借地法における建物の滅失(存否)の扱い(概要)

1 建物朽廃に関する新旧法の適用の振り分け(概要)

平成4年8月より前に開始した借地では,建物の朽廃に関する旧借地法のルールが現在でも適用されます。

<建物朽廃に関する新旧法の適用の振り分け(概要)>

あ 朽廃による消滅の規定の適用

借地借家法の施行前に設定された借地権について
借地法の建物の朽廃による借地権の消滅が適用される
※改正附則5条

い 借地借家法の施行日

平成4年8月1日
※改正附則1条
※平成4年政令25号
<→★改正附則

以下,旧借地法の建物の朽廃による借地権消滅について説明します。
借地権消滅には,地上権の消滅と賃貸借契約の終了を含みます。
本記事では原則的に簡略化して『借地(契約)の終了』と呼びます。

2 借地法の建物の朽廃による借地権消滅

借地の期間を合意していない場合でも,借地法で決められた期間が適用されます。
これを法定期間と呼びます。
詳しくはこちら|借地期間|30年→20年→10年|旧借地法は異なる|借地期間不明への対応
法定期間は満了前に終了することもあります。
建物が朽廃した場合です。
解除や解約申入などの通知は,法律上不要です。
もちろん,実務では,地主・借地人の間で連絡・交渉をするのが通常です。

<借地法の建物の朽廃による借地権消滅>

あ 借地法の規定

『ア・イ』の両方に該当する場合
→借地権が消滅(終了)する
ア 借地権の存続期間が合意されていない 法定期間が適用されている状態である
当初の契約期間・更新後でも同様である
イ 期間満了前に建物が朽廃した(後記※2 ※借地法2条1項但書,5条1項

い 存続期間の合意あるケースへの適用(概要)

存続期間が合意されている場合
→建物の朽廃による借地権消滅(あ)は適用されない(後記※1

3 期間の合意ある借地への朽廃規定の適用否定

建物の朽廃で借地が終了するのは,法定期間が適用される借地だけです(前記)。
地主・借地人で期間を合意しているケースでは建物が朽廃しても借地契約は終了しません。
特約で建物朽廃による契約終了を規定しても無効です。

<期間の合意ある借地への朽廃規定の適用否定(※1)

あ 前提事情

借地権の存続期間が合意されている
更新後の存続期間の合意(合意更新)も含む

い 朽廃による借地権消滅の適用否定

期間中に建物が朽廃しても借地権は消滅しない
残存期間は存続する
※借地法2条1項但書,5条1項
※最高裁昭和37年7月19日

う 朽廃により終了する特約の排除

朽廃と同時に借地権が消滅するという特約について
→無効である
※借地法11条
※水本浩ほか『基本法コンメンタール 借地借家法 第2版補訂版』2009年p169

4 建物の朽廃後の残存期間内の再築(概要)

期間の合意があると,建物が朽廃しても借地は終了しません。
この場合,借地人としては建物を新たに建てようとするのが素朴な考えです。
そして建物再築に対して地主が異議を述べないと借地期間は延長されます。

<建物の朽廃後の残存期間内の再築(概要)>

あ 朽廃による残存期間(前提)

借地期間の合意がある場合
→建物が朽廃しても借地権が消滅しない(前記※1

い 朽廃後の再築の扱い(概要)

『あ』の残存期間において借地人が建物を再築した場合
→『滅失と築造』として扱う
=借地法7条1項が適用される
詳しくはこちら|建物の『滅失』と再築(築造)の解釈とバリエーション(新旧法共通)
→地主の異議がないと期間が延長される
詳しくはこちら|旧借地法における異議のない建物再築による期間延長(基本)

5 最低期間違反の合意と朽廃規定の適用

前記のように,建物の朽廃のルールは,期間の合意があるケースには適用されません。
ところで,一応期間の合意があっても,借地法の最低限よりも短い場合は有効ではありません。
このような有効ではない期間の合意があるケースは,合意がないことと同じといえます。
そこで,建物の朽廃の規定が適用されます。

<最低期間違反の合意と朽廃規定の適用>

あ 最低期間未満の合意と法定期間の適用

期間の合意が最低期間未満であった
→法定期間(60年or30年)が適用される

い 朽廃による借地権消滅の適用

『あ』の場合も『朽廃による借地権消滅』が適用される
※星野英一『法律学全集26 借地・借家法』有斐閣1969年p48
※水本浩ほか『基本法コンメンタール 借地借家法 第2版補訂版』2009年p169

6 『朽廃』の意味

建物の『朽廃』という言葉は日常的に使うものではありません。
当然,どのような意味かによって,実際の状況に適用されるかどうかが変わります。
見解の対立が生じやすい解釈です。
大審院の示す解釈をまとめます。

<『朽廃』の意味(※2)

あ 『朽廃』の意味

自然の推移による腐朽,頽廃した状態
全体的に観察してもはや建物としての社会的経済的効用を失ったとみられる状態
※大判昭和9年10月15日

い 『滅失』の意味(概要)

建物が消滅すること
詳しくはこちら|建物の『滅失』の意味と判断基準(新旧法共通)
『滅失』は『朽廃』を含む
詳しくはこちら|建物の『滅失』と再築(築造)の解釈とバリエーション(新旧法共通)

老朽化の程度が極端に進んでいる,ということです。
しかし倒壊している必要はありません。
つまり,外見的・物理的には(一応)建物の姿を保っている場合も含むのです。

7 大修繕と朽廃時期の推定による借地権消滅(概要)

建物の朽廃の判断を推定によって行うという珍しい状況もあります。
借地人の大規模な建物の修繕によって,耐用年数が大幅に延びたという事例です。
修繕が法や特約に反するというものではなかったので,反対する見解も多いです。
この判例については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|建物の大規模な修繕と朽廃時期の推定による借地権の消滅(判例)

8 借地法における建物の滅失(存否)の扱い(概要)

建物の朽廃のルールは,旧借地法に規定されているものです。
一方,借地借家法には『朽廃』のルールはありません。
これに近いものとして,借地借家法には建物の『滅失』によって解約できるルールがあります。
借地法では『滅失』による解約のルールはありません。
ただし,建物が滅失している,つまり建物が存在していない状態だと法定更新が適用されないという結果につながることはあります。

<借地法における建物の滅失(存否)の扱い(概要)>

あ 借地借家法の建物滅失の解約(比較)

借地借家法において
建物の滅失による解約の規定がある
平成4年8月より前に開始した借地には適用されない
詳しくはこちら|借地借家法の借地上の建物の滅失や再築による解約(全体・趣旨)
建物の存在は法定更新の要件の1つである
詳しくはこちら|借地契約の更新の基本(法定更新・更新拒絶(異議)・更新請求)

い 借地法における建物滅失

借地法において
建物の滅失による解約の規定はない
建物の存在は法定更新の要件ではない
ただし,更新拒絶が認められやすい
詳しくはこちら|旧借地法における更新と建物買取請求権

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【借地期間|30年→20年→10年|旧借地法は異なる|借地期間不明への対応】
【国際的な離婚の準拠法は夫婦の居住地国,国際的裁判管轄は被告の居住地国】

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