【建物明渡|自力救済|判例|通常=特約なしのケース】

1 自力救済|動産廃棄→違法|事案
2 自力救済|鍵交換・送電停止→違法|事案
3 自力救済|送電停止・商品搬出→違法|事案
4 自力救済|解錠されないカバー設置→違法
5 自力救済|鍵交換→違法
6 自力救済|鍵交換→適法|経緯
7 自力救済|張り紙→適法|事案

1 自力救済|動産廃棄→違法|事案

建物の明渡に関して実力行使・自力救済がなされるケースは多いです。
本記事では,違法性の判断がなされた判例を紹介します。
先に『違法』と判断された事例を順にまとめます。

<自力救済|動産廃棄→違法|事案>

あ 公団住宅

物件は公団住宅であった
賃貸人は公団であった

い 事案

賃貸借契約は終了した
賃借人は生活の本拠を他に移転済みであった
=居住していなかった
従来使用していた家具・日常生活品などを多数存置していた
施錠はされていた

う 賃貸人が行った措置

賃貸人は次の措置を遂行した
ア 建物の施錠を破壊した+立ち入ったイ 残置物を移動し保管した その後廃棄処分した
※大阪高裁昭和62年10月22日

<自力救済|動産廃棄→違法|裁判所の判断>

あ 建物内部の状況

残置物は乱雑に放置されていた
賃借人による管理は不十分であった

い 占有権・プライバシー

動産は『放棄した』と言える状態ではない
客観的に無価値とも言えない
賃借人には建物・動産の占有権がある
プライバシーの保護もある状態であった

う 結論

違法である
→不法行為が成立する
※大阪高裁昭和62年10月22日

2 自力救済|鍵交換・送電停止→違法|事案

自力救済が違法と判断された事例です。

<自力救済|鍵交換・送電停止→違法|事案>

あ 契約終了

賃借人は建物を事業に用いていた
賃貸借契約が終了した
猶予期限までに賃借人は退去しなかった

い 直接的執行

賃貸人が次のような措置を遂行した
ア 建物の表側ドア閉鎖 次の措置により出入り不能にした
・ドアの内部からベニヤ板を打ち付けた
・施錠を損壊した
イ 裏側通路閉鎖 裏側廊下から非常口階段上端に通じる通路があった
この途中にベニヤ板のバリゲードを設置した
通行が妨害されることになった
ウ 送電ストップ 配電盤の操作を行い,送電を中止した
※東京地裁昭和47年5月30日

<自力救済|鍵交換・送電停止→違法|裁判所の判断>

あ 賃借人側の不利益=侵害された権利

ア 建物・什器備品に対する占有権イ 付帯設備の所有権ウ 営業権

い 結論

侵害された権利は大きい
→違法である
→不法行為が成立する
※東京地裁昭和47年5月30日

3 自力救済|送電停止・商品搬出→違法|事案

自力救済が違法と判断された事例です。

<自力救済|送電停止・商品搬出→違法|事案>

あ 解除・明渡遅滞

賃貸人・賃借人は合意解除を行った
その後賃借人は建物の明渡をしなかった

い 直接的執行

賃貸人の従業員Aが明渡に向けた措置を遂行した
Aは,建物に赴き,賃借人の関係者に次のような説明をした
『電気をつけてはいけない』
Aは建物内の柱に取り付けてあった電灯線のヒューズを切断した
Aは建物に誰もいない時に立ち入った
Aは建物内の棚を取り外し,備品・商品を搬出した
近くの建物に移動し,保管した
※東京地裁昭和47年3月29日

<自力救済|送電停止・商品搬出→違法|裁判所の判断>

あ 違法性の判断

社会通念上是認された範囲を逸脱している
→Aの行為は違法である
→不法行為が成立する

い 使用者責任

Aを雇用していた会社も使用者責任を負う
※民法715条
※東京地裁昭和47年3月29日

4 自力救済|解錠されないカバー設置→違法

鍵・錠自体は破壊せずに『入室不可能』にした事例があります。
結果的に『違法』と判断されました。

<自力救済|解錠されないカバー設置→違法>

あ 直接的執行

不動産管理会社が次の措置を遂行した
ア 『荷物は全て出しました』と記載した張り紙をドアに貼ったイ ドアの鍵の部分にカバーを掛けた 入室できない状態にした

い 賃借人のダメージ

賃借人は入室できなくなった
→自分の自動車の中で寝泊まりすることを余儀なくされた

う 裁判所の判断

賃貸人・不動産管理会社に不法行為責任を認めた
※姫路簡裁平成21年12月22日

5 自力救済|鍵交換→違法

鍵交換が違法と判断されたシンプルな判例です。

<自力救済|鍵交換→違法>

あ 契約終了

賃借人が賃料を滞納していた
賃貸人は解除・賃料の支払を主張・要求していた
賃借人は退去しなかった

い 直接的執行

賃貸人はドアの鍵を交換した
賃借人は締め出された
賃貸人は賃料の支払いを促す意図であった

う 裁判所の判断

賃借人の平穏に生活する権利を侵害する
通常許される権利行使の範囲を著しく超える
→不法行為が成立する
※大阪簡裁平成21年5月22日

6 自力救済|鍵交換→適法|経緯

自力救済でも,個別的事情によって『適法』と判断されることもあります。
以下,違法性が否定された自力救済に関する判例を紹介します。

<自力救済|鍵交換→適法|経緯>

あ 賃料滞納

賃借人は当該建物で飲食店を営業していた
契約成立後約半年の時点から約1年間にわたって賃料の相当額を遅滞していた
遅滞した支払の金額は約600万円に達していた
賃貸人の督促に対して,賃借人は誠意ある態度を取らなかった

い 賃借人の経済的苦境

賃借人は消費税の納税についても遅滞していた
都税事務所が保証金返還請求権の差押を行った
他の『債権者』と称する者が賃貸人を訪問した
『敷金返還』を要求した

う 事業譲渡×虚偽

賃借人は債権者Aに事業を譲渡する方針であった
Aと賃貸人が協議をした
『Aは賃借人から滞納額を過小に説明されていた』ことが発覚した

え 占有の不当性

その後賃借人は営業を休止していた
ただし従業員が入室する様子が散見されていた
※東京高裁昭和51年9月28日

<自力救済|鍵交換→適法|直接的執行>

あ 解除通知

賃貸人は『7日間の催告+停止条件付解除』の通知をした

い 告知板設置

賃貸人は,建物の戸口に次の内容を記載したベニヤ板の告知板を設置した
ア 所有者=賃貸人が保管中であるイ 立ち入った場合は建造物侵入罪として告訴するウ 代理人弁護士の連絡先

う 鍵交換

賃貸人はドアの鍵を交換した

え 賃借人の反撃

賃借人は告示板を取り外した
ドアの鍵を壊して建物に入った
当時,既に賃借人は営業を休止していた

お 動産差押・再度の告示板設置

賃貸人は『建物内にある賃借人の動産』について差押の申立を行った
賃貸人は再度告知板を設置した
掲示内容=従前と同様+動産の差押がなされている旨

か 賃借人の反撃

賃借人は改めて告知板を取り外した
賃借人は当該建物での営業を再開した
※東京高裁昭和51年9月28日

<自力救済|鍵交換→適法|裁判所の判断>

あ 前提部分

解除は有効である
告知板設置+鍵の交換は穏当さを欠く措置である

い 特殊事情

賃貸人は賃借人に対する信頼を失っていた
建物明渡の円滑な履行について危惧の念を抱いていた
保安上の問題も心配していた

う 結論

賃貸人の取った措置は社会通念上不相当とは言えない
→違法ではない
※東京高裁昭和51年9月28日

賃借人が営業を中断していたことが重視されたと言えます。
また賃借人の不合理な態度も『対抗策が適法』とする判断につながっています。

7 自力救済|張り紙→適法|事案

自力救済の違法性が否定された別の事例を紹介します。

<自力救済|張り紙→適法|事案>

あ 賃貸借の用法違反

賃貸借契約における使用目的は『法律事務所』であった
賃借人は対象の3室においてタイピスト教習所を開設・運営した

い 他の違反行為

賃借人は建物に動力線を引込み冷暖房工事を行った
2階のガラス窓に『設計事務所』という金文字を掲出した
共同出入口の玄関口のガラス扉に『◯◯法律事務所』と金文字で記載した
いずれも賃貸人が同意せず,反対していた

う 賃貸人の対抗措置

ア 2階ガラス窓の内側に貼付された金文字への対応 ガラス窓の外側から新聞紙を糊付けして遮蔽した
イ 玄関ガラス扉の貼紙 これを撤去した
※東京高裁昭和41年9月26日

<自力救済|張り紙→適法|裁判所の判断>

あ 現実的・具体的リスク

次のようなリスクが生じていた
ア 建物の破損イ 騒音による他の賃借人の被害ウ 火災・盗難などの危険増加エ トイレの使用に関連する衛生上の問題の発生

い リスクの評価

建物の保存・他の賃借人の部屋使用に重大な支障を生じるリスクである

う 対抗措置の程度

賃借人の違反行為を妨げる緊急措置の必要性が大きかった
実際に行われた措置は許される自救行為の範囲内にとどまる
→違法性はない
→損害賠償義務は生じない
※東京高裁昭和41年9月26日

賃借人側の継続的な異常な行動が『適法』の判断につながっています。

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