【囲繞地の通行料が無償となるケース(分筆+譲渡・共有物分割・一団地の一部譲渡)】

1 囲繞地通行権の通行料|原則は有償だが例外もある
2 従前より無償で通行していた→『無償の通行地役権』が認められる
3 分筆+譲渡による『袋地』発生×囲繞地通行権
4 共有物分割による『袋地』発生×囲繞地通行権
5 一団の土地の一部譲渡・袋地発生×囲繞地通行権
6 競売による無償の囲繞地通行権

1 囲繞地通行権の通行料|原則は有償だが例外もある

土地の状況によって囲繞地通行権(いにょうちつうこうけん)が認められることもあります。
囲繞地通行権の『通行の対価』は原則的に有償です。
しかし,特殊事情があると,例外的に無償となります。
また『通路の位置・形状』は『隣地の被る損害が最小』となることが要請されます。
詳しくはこちら|公道に接しない土地の所有者は周囲の土地を通行できる(囲繞地通行権)
以上の原則論については例外もあります。
本記事では,例外的な扱いについて説明します。

2 従前より無償で通行していた→『無償の通行地役権』が認められる

通行権の対価が『無償』となる例外の1つが『既存の通路』です。

<従来より無償で通行→無償の通行地役権>

あ 前提事情

従前より無償で通行が許されていた通路

い 解釈論

ア 無償の通行権 無償での通行地役権が認められることがある
イ 法的性質|原則 『囲繞地通行権』ではない
当事者間で黙示的に合意した『通行地役権』とされる

う 解釈の理由

永続する事実状態の尊重・既成事実重視

3 分筆+譲渡による『袋地』発生×囲繞地通行権

(1)分筆により『袋地』が発生する具体例

<分筆+譲渡による『袋地』発生|事例>

土地を分筆して1筆(A土地)を売却した
A土地は公道に通じていない
どの土地に通行権があるのか
共有の土地を分筆してそれぞれの者の単有とした場合はどうなるか

(2)分筆により袋地が生じた場合の例外

分筆によって袋地が生じた場合の例外的な規定をまとめます。

<分筆+譲渡による『袋地』発生×囲繞地通行権>

分筆した『他の一方の土地』に囲繞地通行権が生じる
通行料は『無償』となる
ただし協議があれば優先となる
※民法213条1項

法律上は『分割』ですが,これは一般的な『分筆』のことです。
本記事では一般的な『分筆』に表記を統一しています。
上記の『袋地』は,土地の分筆をしたという行為により生じた状態です。
その結果としての負担を共有者外の者に与えることは不合理です。
逆に,分筆・譲渡をした者の間では負担が生じることは想定内です。
また,明確に想定内なので,通行料(償金)も発生しません。

4 共有物分割による『袋地』発生×囲繞地通行権

共有物分割により『囲繞地』が発生した場合の扱いをまとめます。

<共有物分割による『袋地』発生×囲繞地通行権>

あ 前提事情

共有物分割を行った
→単独の所有地が複数生じた=現物分割
→囲繞地が生じた

い 囲繞地通行権

対象の土地の範囲内で囲繞地通行権が生じる
通行料は『無償』となる
ただし協議により『有償』にできる
※民法213条2項

5 一団の土地の一部譲渡・袋地発生×囲繞地通行権

(1)『一団の土地』の一部の譲渡|具体例
一団の土地の譲渡により袋地が発生することがあります。
まずは具体的な事例を挙げます。

<一団の土地の一部譲渡|事例>

複数の土地(筆)が隣接しあっていた
そのうち一部のA土地(筆)を譲渡した
その結果,A土地が袋地になった
通行権はどこに生じるのか

(2)一団の土地の一部譲渡・袋地発生×囲繞地通行権

<一団の土地の一部譲渡・袋地発生×囲繞地通行権>

一団の土地の一部を譲渡して袋地が生じた
→『一団の土地』の残余の土地に囲繞地通行権が生じる
※民法213条2項類推適用
※最高裁判所昭和44年11月13日

『一団の土地』以外の土地には囲繞地通行権は生じません。

6 競売による無償の囲繞地通行権

以上の『無償の囲繞地通行権』については『競売』の場合でも同様となります。

<競売による無償の囲繞地通行権>

競売により袋地が生じた
→民法213条が適用される
=該当する場合
→無償の囲繞地通行権が発生する
※最高裁平成5年12月17日

本記事では,囲繞地通行権が無償となる例外的なケースについて説明しました。
実際には,多くの個別的事情によって判断されるので,違う結論となることもあります。
実際の問題に直面されている方は,本記事の内容だけで判断せず,弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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