1 形式的競売×『共有者かつ債務者』の入札|具体的典型例
2 形式的競売×『共有者かつ債務者』の入札|解釈論
3 形式的競売|債務者入札禁止×担保権の処理方針|方向性
4 形式的競売×債務者入札禁止|まとめ|入札可能は50〜80%程度
5 形式的競売×無剰余差押の禁止|担保権処理方針により解釈が変わる
6 消除主義×『共有者かつ債務者の入札』|具体的状況
7 消除主義×『無剰余差押の禁止+債務者の入札禁止』

1 形式的競売×『共有者かつ債務者』の入札|具体的典型例

形式的競売の対象不動産に担保権が設定されているケースもよくあります。
被担保債権の債務者が,共有者の1人,という状態のこともあります。
この場合の競売手続での扱いについて説明します。
まずは,典型的な具体的状況をまとめます。

<形式的競売の入札×共有者かつ債務者|具体的典型例>

共有物分割の換価分割における形式的競売が行われた
共有物には住宅ローンの担保が付いている
共有者Aは自身が入札し,単独所有を実現したい
共有者Aは,住宅ローンの債務者でもある

2 形式的競売×『共有者かつ債務者』の入札|解釈論

形式的競売の際『共有者かつ債務者』が入札することについての解釈論をまとめます。

<形式的競売×『共有者かつ債務者』の入札|概要>

あ 形式的競売という側面

債権回収目的ではない
→『債務者の入札禁止』は適用されない(前記)
※民事執行法68条

い 統一的見解はない

明確・統一的な見解はない

う 実質的な検討

『担保権の処理』と直結する(後記)

現実的には『担保権の処理』の方針によって結論が違ってきます。

3 形式的競売|債務者入札禁止×担保権の処理方針|方向性

形式的競売における担保権の処理方針は『消除主義・引受主義』があります。
この方針選択については統一的な見解はありません。
詳しくはこちら|形式的競売×担保権の処理|消除/引受主義・執行裁判所の判断
採用される方針・方法によって『債務者の入札禁止』ルールの適用の有無が違ってきます。

<形式的競売|債務者入札禁止×『消除主義』>

あ 担保権の処理

担保権は抹消される
担保権者に配当がなされる

い 形式的競売×債務者の入札

結果的に『配当=債権回収』がなされる
→担保権実行による競売と同じ状態となる
→『債務者として弁済を優先すべき』
→債務者の入札禁止ルールが妥当する方向性

<形式的競売|債務者入札禁止×『引受主義』>

あ 担保権の処理 

担保権は抹消されない
担保権は存続する
担保権者への配当はなされない

い 形式的競売×債務者の入札

競売と『担保権・債権回収』は完全分離という状態である
→債務者の入札禁止ルールは妥当しない方向性

4 形式的競売×債務者入札禁止|まとめ|入札可能は50〜80%程度

前述のように『担保権の処理方針』が『債務者入札禁止』の解釈に影響します。
この2つの関係性についてまとめます。

<形式的競売×『共有者かつ債務者』の入札禁止|まとめ>

担保権の処理方針 入札可能となる可能性(目安)
消除主義 50%程度
引受主義 80%程度

5 形式的競売×無剰余差押の禁止|担保権処理方針により解釈が変わる

形式的競売の対象財産が『オーバーローン』の状態であることがあります。
民事執行法の『無剰余差押』に該当するかどうかの解釈の問題が生じます。

<形式的競売×無剰余差押の禁止>

あ 無剰余差押の禁止

オーバーローンの不動産の競売
→一般的に禁止される
※民事執行法63条

い 形式的競売×無剰余差押の禁止|適用の有無

ア 引受主義の場合
『担保権実行=債権回収』という機能がない(前述)
→無剰余差押の禁止は妥当しない
イ 消除主義の場合
『担保権実行=債権回収』という機能がある
→実質的に『無剰余差押の禁止』は妥当する

消除主義を前提とすると,解釈論はもっと複雑になります。

6 消除主義×『共有者かつ債務者の入札』|具体的状況

形式的競売において『無剰余差押』ルールの解釈が問題になります(前述)。
ここでは担保権処理方針として『消除主義』を取ることを前提にして説明します。

<消除主義×『共有者かつ債務者の入札』|具体的状況>

あ 具体的状況

オーバーローンの不動産について形式的競売が行われた
『共有者かつ債務者』が入札し,落札した
『消除主義』により,担保権は消滅した(抹消された)

い 疑問点

『債務額全額に満たない金額で担保権を逃れた』ことになる
不合理であるという印象がある

解釈論は次に説明します。

7 消除主義×『無剰余差押の禁止+債務者の入札禁止』

消除主義を前提にして『共有者かつ債務者の入札』の解釈論をまとめます。

<消除主義×『無剰余差押の禁止+債務者の入札禁止』>

あ 原則

『無剰余差押』に該当する
→競売手続は取消となる

い 例外=担保権者の同意

担保権者が同意した場合
→競売手続は取消とならずに進められる
※民事執行法63条2項

う 担保権者の同意|判断事項

担保権者は次のような影響(不利益)を考慮する
不利益(担保割れ)を好まない場合
→同意しない=競売手続がストップとなる

え 無剰余差押による担保権者の不利益

債務額未満での入札+担保権消滅
→残額は一般債権となる
=いわゆる『担保割れ』が確定する

お 債権者の同意×債務者の入札禁止

債権者の同意
=債権者が『担保割れ』の不利益を受け入れている
→『共有者かつ債務者』の入札を許容する方向性(の1つ)

最終的には,明確・統一的な見解はありません。
ただし『入札禁止にはならない』方向性が強いと言えます。