【現物分割の要件(消極的要件の基本的解釈・著しい価格減少の減少率基準)】

1 現物分割の要件

共有物分割の分割類型には3つあり、その1つが現物分割です。共有物分割訴訟では、現物分割ができるかどうかについて意見が対立することがよくあります。
詳しくはこちら|現物分割の全体像(典型例・価格賠償との組み合わせ・分割線の決定)
本記事では、現物分割の要件について説明します。

2 現物分割の条文

最初に、現物分割を定める民法条文を押さえておきます。令和3年改正によって体裁は変わりましたが言い回しや実質は変わっていません。

現物分割の条文

あ 令和3年改正後

2 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。
一 共有物の現物を分割する方法
二 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法
前項に規定する方法により共有物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
※民法258条2項、3項

い 令和3年改正前

前項の場合において、共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
※民法258条2項

3 条文の基本的な解釈(概要)

条文には、現物分割と全面的価格賠償が不能である場合と現物分割によって著しく価格が減少するおそれがある場合の2つのいずれかにあてはまると換価分割(競売による分割)ができると記述されています(全面的価格賠償で価格が減少する、という組み合わせはないはずです)。
ということは、現物分割を選択できるのは、2つの事情の両方にあてはまらない場合、ということになります。

4 現物分割不可能の基本的解釈

前述のように、2つの事情にあてはまらない場合に現物分割を選択できることになるので、2つの事情のことを、現物分割の消極的要件といいます。
まず、1つ目の、現物分割が不可能とは、文字どおりに絶対に実現しない、という状況に限られるわけではありません。現実的に大きな支障が生じるというような状況も含みます。

現物分割不可能の基本的解釈

あ 基本(昭和46年最判)

民法258条2項にいう「現物ヲ以テ分割ヲ為スコト能ハサルトキ」(注・改正前の文言)とは、現物分割が物理的に不可能な場合のみを指称するのではなく、社会通念上適正な現物分割が著しく困難な場合をも包含するものと解すべきである
※最判昭和46年6月18日

い 経済的、社会的価値の喪失

現物分割不能ということは、抽象的には、共有物件を各共有者の持分比を基準にして分割すると、各共有者に分かち與えられる持分部分が経済的、社会的に利用乃至所有する価値を全くないか又は殆ど有しないことになり、各共有者の持分の価格に相当する分を維持・確保することができないようになることを示すものともいえる。
※奈良次郎稿『全面的価格賠償方式・金銭代価分割方式の位置付けと審理手続への影響』/『判例タイムズ973号』1998年8月p20

う 経済面以外の利益の配慮

また、占有上の利益(占有者、非占有者の各経済上の利益・その他の追憶・交際等上の社会通念上保護に価する各種の利益得失等)等についても、配慮することも必要な場合もある。
※奈良次郎稿『全面的価格賠償方式・金銭代価分割方式の位置付けと審理手続への影響』/『判例タイムズ973号』1998年8月p21

5 著しい価格減少の基本的解釈

現物分割の消極的要件のふたつ目は、現物分割をすると著しい価格減少が生じるおそれがある、というものです。この消極的要件の基本的な解釈を整理します。

著しい価格減少の基本的解釈

あ 非常に大きな損害の発生

共有物件を各共有者の持分比を基準にして、無理に、形式的に現物分割にすると、各共有者の取得する分割後の各物件の客観的価値が、自己の持分比と比べて、アンバランスに低くないし高くなる等、一部又は全部の者の取得する価値が従来の各持分比に即した価値を維持し得なくなり、非常に大きな損害を生じることを指す。
中には、一部の者が非常に得をすることもあるが、結局、持分比に応じた平等価値の実現への目的を害する結果になることをいう。
※奈良次郎稿『全面的価格賠償方式・金銭代価分割方式の位置付けと審理手続への影響』/『判例タイムズ973号』1998年8月p21、22

い 無駄の発生

著しい価格減少とは、現物分割により、土地利用において無駄を生ぜしめるような場合である
※名古屋地裁昭和46年12月22日

う 「著しい」「おそれ」の文言

また、現物分割は通常、物の価格を減少させるものであるから単なる価格の減少ではなく、「著しい」価格の減少が求められる。
価格の著しい減少は、現物分割が行われたと仮定して、その「おそれ」が認められれば足りる。
※小粥太郎編『新注釈民法(5)物権(2)』有斐閣2020年p603

6 価格減少率と現物分割の可否の判断

著しい価格の減少が生じるという意味について前述のような解釈がありますが、この解釈だけで、具体的な事案をはっきり判断できるわけではありません。
裁判例としては、価格減少率11%ではこれにあたらない(現物分割可能)というものがあります。また、価格減少率19〜35%程度というケースで、原審は現物分割を否定し、控訴審では現物分割を認めました。
単に価格減少率だけで現物分割の可否を判断したわけではないですが、判断基準の目安(参考)になります。

価格減少率と現物分割の可否の判断

あ 価格減少率11%→可能

現物分割にすることにより約11%の価格減少が生じる(他の事情もある)
→現物分割を採用した
※東京地裁平成9年1月30日
詳しくはこちら|複合的な事情により現物分割の可否を判断した裁判例の集約

い 価格減少率19〜35%→可能

当事者が提出した査定結果によると、更地価格総額1億7000万円が約3000万円ないし5000万円低下し、分割土地の利用、処分がより制限されることが予想される(他の事情もある)
(=価格減少率19〜35%)
→原審では現物分割を否定したが控訴審では認めた
※横浜地裁昭和57年4月21日
※東京高裁昭和59年8月30日
詳しくはこちら|複合的な事情により現物分割の可否を判断した裁判例の集約

う 価格減少率の基準の目安

価格減少率19〜35%程度のケース(い)において、原審と控訴審の判断が分かれた
→20〜30%程度が判断基準の目安となると思われる
もちろん、他の事情も反映されるので、価格減少率だけで判断が決まるわけではない

7 現物分割による価格のアップ(参考)

ところで、現物分割によってどの程度価格が下がるか、ということで現物分割を採用できるかどうかが決まる、という説明をしていますが、実際のケースでは逆に、現物分割をすると評価額が上がる、ということもあります。一般論として広すぎる土地は単価が下がります。そこで、適正な広さに分けると評価額の合計はアップするのです。

現物分割による価格のアップ(参考)

そして、鑑定の結果によれば、本件土地建物の価格は1億1670万円、本件敷地及び本件建物の価格は4880万円(ただし、本件建物の価格は0円)、本件残余地の価格は6910万円とそれぞれ認められる。
これによれば、本件敷地及び本件建物の評価額と本件残余地(注・現物分割)の評価額は、合計1億1790万円であるから、被告案に基づいて本件土地建物を現物分割することにより、本件土地建物の著しい価値減少はないということになる。
※東京地判平成25年7月19日

8 類型別の現物分割の可否の判断(概要)

現物分割の可否の判断で重視される事情には、いろいろなものがあります。よくある事情は、広くない土地、大規模ではない建物、建物が建っている土地(建付地)、現物分割をすると接道に支障が生じる、土地の境界が不明確である、というように、パターン化できます。判断する事情のパターン自体が多いので、共有物分割の対象で分類して、それぞれ別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|「土地だけ」の現物分割の可否の判断(類型別)
詳しくはこちら|「建物だけ」や「建物と土地」の現物分割の可否(類型別)
さらに、判断する事情が多くてパターン化した分類にあてはまらない(複数にあてはまる)というものもあります。現物分割の可否の判断で、多くの事情が考慮された裁判例については、それだけを1つの記事に集めて説明しています。
詳しくはこちら|複合的な事情により現物分割の可否を判断した裁判例の集約

9 全面的価格賠償の相当性との関係(参考)

ところで、全面的価格賠償を選択するための要件の1つに、「相当性」があります。「相当性」の中身の1つとして、現物分割が不合理であることが含まれるという見解が有力です。ここで、現物分割が不合理であることは、実は、現物分割の消極的要件とほとんど同じです。
詳しくはこちら|全面的価格賠償の相当性が認められる典型的な事情

本記事では、現物分割の要件について説明しました。
実際には、個別的な事情により判断が違ってきます。
実際に共有物(共有不動産)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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