【化学物質過敏症|因果関係・過失|判断基準・立証方法|物質特定・誘発試験】

1 化学物質過敏症|因果関係|物質特定・要否|薬害の判例
2 化学物質過敏症|因果関係|一般的判断要素
3 化学物質過敏症|因果関係の範囲=損害の範囲|傾向
4 化学物質過敏症|因果関係|症例蓄積・重要性
5 化学物質過敏症|因果関係|誘発試験
6 化学物質過敏症|客観的諸検査|多くの種類→適切に組み合わせる
7 過失の判断|現在|シックハウス|肯定される傾向あり
8 過失の判断|現在|多種化学物質過敏症|否定される傾向あり

1 化学物質過敏症|因果関係|物質特定・要否|薬害の判例

本記事では化学物質過敏症の法的責任判断における『因果関係・過失』を説明します。
まず最初に『薬物投与と被害の因果関係』に関する判例の基準を紹介します。
『化学物質過敏症』そのものではないですが,基準は共通して使えるものです。

<化学物質過敏症|因果関係|物質特定・要否|薬害の判例>

あ 前提の認定

多数の薬剤のうち1つor複数の相互作用が健康被害発症の原因となった

い 認定メカニズム

ア 医師の注意義務違反の有無を判断することが可能であるイ 常に起因剤を厳密に特定する必要があるものではない ※最高裁平成9年2月25日

2 化学物質過敏症|因果関係|一般的判断要素

化学物質過敏症と被害=症状との因果関係の判断要素についてまとめます。

<化学物質過敏症|因果関係|一般的判断要素>

あ 化学物質への暴露
い 暴露と症状発現の時期的接着性
う 化学物質の有害性
え 他原因の不存在
お 専門家の見解
か 症状の発生と化学物質排出源の場所的近接性

参考;公害事件であれば『複数(多数)の者が健康被害を生じた』こと

3 化学物質過敏症|因果関係の範囲=損害の範囲|傾向

化学物質過敏症の責任判断では『因果関係の範囲』も問題となります。
『因果関係が認められる対象』は,大きく2つに分けられます。
分類と傾向をまとめます。

<化学物質過敏症|因果関係の範囲=損害の範囲|傾向>

あ 現存している症状

因果関係は認められやすくなっている

い 化学物質過敏症

『長期間の慢性的病態である疾患』として因果関係を認定すること
→ハードルが高い

4 化学物質過敏症|因果関係|症例蓄積・重要性

化学物質過敏症の因果関係の判断ではちょっと特殊な事情があります。
個別的な事案の内容ではない事情も大きく影響するのです。

<化学物質過敏症|因果関係|症例蓄積・重要性>

あ 前提

分散した症例報告
高濃度or慢性的な化学物質への暴露

い 症状

類似の症状を呈している患者の報告が集積される

う 因果関係

化学物質への暴露と健康被害との因果関係を推認させる

5 化学物質過敏症|因果関係|誘発試験

化学物質過敏症の因果関係を判断する場面では『誘発試験』が有用です。

<化学物質過敏症|因果関係|誘発試験>

あ 化学物質過敏症の特徴

原因物質との再接触
→症状が短時間内に誘発される

い 原因物質が特定できている→立証容易

例;シックハウス症候群
原因物質が特定されている
→これを被験物質とすればよい
→症状が誘発された場合
→因果関係が推認される

う 原因物質が特定できない場合→立証困難

誘発試験は使えない

一般的なサイエンスの研究・開発における『再現実験・再試』と同じ方法です。
通常の医師の判断では『誘発試験』を初期段階で行わないというケースも多いです。
早期に行えば,より有用な症状・データが記録化・客観化できます。
結局,有利な法的責任の判断につながります。

6 化学物質過敏症|客観的諸検査|多くの種類→適切に組み合わせる

化学物質過敏症の具体的な『検査』方法はいくつもあります。
実際にはより症状が『有用なデータになる』方法・組み合わせを選択します。
この検査の方法で,法的責任の立証の程度が大きく違ってきます。

<化学物質過敏症|客観的諸検査|眼系>

あ 電子瞳孔径検査

瞳孔の対抗反射を解析する
→次のメカニズム稼働バランスを判定する
ア 縮瞳=瞳孔の収縮,を掌る副交感神経系イ 散瞳=瞳孔の散大,を掌る交感神経系

い 眼球運動検査

目標物=視標,を水平方向および垂直方向へ振子のように動かす
→眼球が目標物を追従する運動を記録する

う 視覚空間周波特性検査;コントラスト検査

正弦波形になっている白黒の濃淡の差を識別する感度を測定する

<化学物質過敏症|客観的諸検査|眼以外系>

あ 誘発試験

ア 試験方法 被験者をクリーンルームに滞在させる
→対象化学物質を微量暴露させる
→被験者の負荷前・中・後の変動を測定・評価する
近赤外線酸素モニタリング装置を用いる
イ 測定項目 ・脳血流量
・その他の理学的所見の変化

い その他の試験方法

ア 甲状腺ホルモン(T3)検査イ SPECT(single photon emission CT) 放射線放出核を体内注入する
→脳の血液から放射されたγ線を検出器で検出する
→脳血流の状態を測定・評価する
ウ MR血管造影 核磁気共鳴検査下に血管造影を行う
→核磁気共鳴画像を得る
→血流を測定・評価する

7 過失の判断|現在|シックハウス|肯定される傾向あり

シックハウス症候群発症についての『施工業者の過失』の判断傾向をまとめます。

<過失の判断|現在|シックハウス>

あ 現在の危険性の認識・状況

施工業者が『建材に含有される有害化学物質』を認識可能である
比較的容易に,健康被害を生じさせない代替建材を選定可能である

い 現在の『過失』判断・傾向

過失が肯定されやすい

8 過失の判断|現在|多種化学物質過敏症|否定される傾向あり

多種化学物質過敏症についての『過失』判断の傾向をまとめます。

<過失の判断|現在|MCS=多種化学物質過敏症>

あ 現在の危険性の認識・状況

扱う化学物質から発生する具体的な化学物質過敏症の予見が可能である
ただし,これを回避するための施策が可能・容易とは言えない

い 現在の『過失』判断・傾向

過失が否定される方向性が維持されている

シックハウス症候群よりは『否定方向』が維持されているという傾向があります。

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【化学物質過敏症を生じさせた法的責任の基本(争点・立証・法規制・厚労省の報告書)】
【シックハウス症候群|判例|因果関係・過失の判断の具体例】

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