【簡易的な借地権評価の方法(路線価図の借地権割合の不合理性)】

1 借地権の評価(総論)
2 路線価図の借地権割合の不合理性
3 借地権割合の実務的な修正の目安
4 取引の成熟性が低い地域の簡略的な借地権評価
5 路線価図の借地権割合と現実の取引の違い(総論)
6 第三者取引の地域別借地権割合調査結果
7 当事者間取引の借地権割合調査結果

1 借地権の評価(総論)

借地権の評価は不動産鑑定評価基準で細かいルールが定められています。
詳しくはこちら|借地権評価額|基本・不動産鑑定評価基準|4種類の算定方法・組み合わせ
実務では,目安を算定するための簡略的な方法が多用されています。
本記事では,簡易的・簡略的な借地権評価の方法を説明します。

2 路線価図の借地権割合の不合理性

簡易的な借地権価格算定の枠組みは,更地価格に借地権割合をかけるというシンプルなものです。この借地権割合が掲載されている公的資料として路線価図があります。そこで,路線価図に記載された借地権割合によって適正な評価額が計算できる,という誤解をする人が散見されます。
しかし,路線価図の数値は,あくまでも相続税・贈与税の計算で用いるためのものです。取引における評価,マーケット価格,時価の計算でそのまま路線価図の借地権割合を使えるわけではありません。
たとえば,路線価図の借地権割合は,借地条件は反映されていません。堅固建物所有目的か,非堅固建物所有目的か,という違いなどのことです。

<路線価図の借地権割合の不合理性>

あ 路線価図の借地権割合の特徴

路線によって一律に付されている
借地契約条件は反映されていない
→借地契約条件による修正が必要である

い 借地契約条件の具体例

ア 木造2階建イ 鉄筋コンクリート造5階建

う 借地契約条件による価値の違い

『い』の具体例について
『イ』の方が敷地の利用効率は高い
『イ』の方が借地期間も長い
『ア』を『イ』の条件に変更するには
→一定の手続と承諾料が必要である
詳しくはこちら|借地条件変更の承諾料の相場(財産上の給付の金額)
※鵜野和夫『不動産の評価・権利調整と税務 第38版』清文社2016年p596

3 借地権割合の実務的な修正の目安

前記のように,路線価図の借地権割合はそのままでは評価額を計算するために用いる妥当な数値とは限りません。借地の内容によって修正する必要があります。
ここで,(路線価図上の)借地権割合の区分ごとの修正の目安を紹介します。

<借地権割合の実務的な修正の目安>

路線価図での区分 相続税評価 木造の場合 RCの場合
A 90% 80〜85% 90〜95%
B 80% 75〜80% 80〜85%
C 70% 70% 70〜75%
D 60% 60% 60%
E 50% 50% 50%
F 40% 40% 40%
G 30% 30% 30%

※鵜野和夫『不動産の評価・権利調整と税務 第38版』清文社2016年p596

なおこれは『通常』のケースで用いるものです。
つまり,借地権の取引の成熟度が高いエリア,ということです。
それ以外のエリアについては次に説明します。

4 取引の成熟性が低い地域の簡略的な借地権評価

借地権取引があまりないエリアの借地権評価の不動産鑑定評価基準はちょっと非現実的です。
詳しくはこちら|借地権評価額|基本・不動産鑑定評価基準|4種類の算定方法・組み合わせ
ここでは借地権取引の成熟性が低い地域の借地権評価の簡略的な方法を紹介します。

<取引の成熟性が低い地域の簡略的な借地権評価>

実務的な経験則・目安としての借地権評価
=更地価格の2割程度
個別的な事情による加減は適宜行う
※鵜野和夫『不動産の評価・権利調整と税務 第38版』清文社2016年p595

『2割』という割合は,ちょうど『使用貸借などで用いる場所的利益』と同レベルです。
詳しくはこちら|建物買取請求における代金算定方法・場所的利益の意味と相場

5 路線価図の借地権割合と現実の取引の違い(総論)

以上のように,路線価図上の借地権割合を使って計算した借地権価格は,実際の取引における適正な借地権の評価と一致するわけではありません。ではどの程度乖離しているのでしょうか。以下,取引内容をいろいろな視点で分類して,路線価図上の借地権割合と実際の取引における借地権割合の乖離を説明します。

6 第三者取引の地域別借地権割合調査結果

借地権(付きの建物)を第三者が購入した取引だけを対象として,地域別に分類したデータです。
関東甲信の比率は30.9%となっています。この意味は,たとえば路線価図上の借地権割合が60%の土地の借地権が,更地の18.5%(60%×30.9%)の価格で取引されたということになります。

<第三者取引の地域別借地権割合調査結果>

あ 調査結果の表
項目 関東甲信 東京 神奈川 近畿 九州・沖縄 その他
平均借地権の割合(ア)(後記※1 16.2 63.4 54.7 31.9 24.5 28.9
事例地の国税借地権割合の平均(イ) 52.5 66.5 60.0 57.1 43.3 45.0
比率(ア/イ) 30.9 95.3 91.2 55.9 56.6 64.2
い 平均借地権の割合の内容(※1)

(借地権の)取引価格/更地価格×100(%)(の平均値)
※調査時点=平成15年3月
※社団法人日本不動産鑑定協会・公的土地評価委員会・国税評価対応小委員会『借地権取引の実態調査・平成15年10月』

7 当事者間取引の借地権割合調査結果

次に,地主と借地人の間の取引だけを対象として,取引(手続)の態様で分類したデータです。一般的な取引,裁判所が関与する手続,その他の分類です。
いずれも実際の取引で使われた借地権割合は路線価図のものよりも低いことが分かります。

<当事者間取引の借地権割合調査結果>

あ 一般取引
当事者間取引の平均的借地権割合(ア) 44.7
事例地の国税借地権割合の平均(イ) 56.5
比率(ア/イ) 79.1
い 競売・訴訟・調停
当事者間取引の平均的借地権割合(ア) 34.0
事例地の国税借地権割合の平均(イ) 60.0
比率(ア/イ) 56.7
う その他
当事者間取引の平均的借地権割合(ア) 31.3
事例地の国税借地権割合の平均(イ) 45.0
比率(ア/イ) 69.6

※調査時点=平成15年3月
※平均的借地権割合=(借地権取引価格/更地価格)の平均値
※社団法人日本不動産鑑定協会・公的土地評価委員会・国税評価対応小委員会『借地権取引の実態調査・平成15年10月』

本記事では,簡易的な借地権の評価の方法やそこで使われる路線価図上の借地権割合が取引でそのままで使えないということを説明しました。
実際には,個別的な事情によって評価方法は違ってきます。
実際に借地権の評価の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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