【競売×『人の死』発覚→売却不許可or売却許可取消|判断基準・事例】

1 競売×『人の死』の発覚→『売却不許可・許可取消』|判断基準
2 人の死が生じた『場所が違う』→買受解消を認めない|基本方針
3 7年前・自殺→買受解消を認めた|売却不許可
4 5年前・自殺→買受解消を認めた|売却不許可
5 1年前・自殺→買受解消を認めた|売却許可取消
6 1年5か月・殺人事件→買受解消を認めた|売却許可取消
7 30年前殺人+10か月前遺体発見→買受解消を認めた|売却不許可
8 3か月前・原因不明の死→買受解消を認めた|売却許可取消
9 『場所が違う』|『軒先』での自殺→買受解消を認めない
10 『場所が違う』|近隣の山林での自殺→買受解消を認めない

本記事では競売において『人の死』が発覚した場合の売却の解消について説明します。
詳しくはこちら|不動産売買・賃貸×過去の人の死|基本|法的構成・責任・発覚ルート
関連コンテンツ|競売における瑕疵,損傷,滅失→売却不許可,売却許可取消

1 競売×『人の死』の発覚→『売却不許可・許可取消』|判断基準

競売では『不動産の損傷』以外では売却・買受がキャンセルとならないのが原則です(別記事;リンクは冒頭記載)。
しかし,事情によっては『損傷と同視』して売却不許可や許可の取消が『類推適用』されます。

<『損傷』と同視→売却不許可or許可取消の類推適用>

あ 要件

『交換価値が著しく減少している』場合
→売却不許可or許可取消(事由)となる

い 『価値減少』の範囲

競売物件に生じた事由に限る
※民事執行法75条1項

※仙台高裁平成8年3月5日

2 人の死が生じた『場所が違う』→買受解消を認めない|基本方針

競売の買受を解消できるのは『不動産の損傷』と同視できるという特殊な場合だけです。
そして『特殊事情』も『対象の不動産(競売物件)』に生じたものに限定されます(前述)。

<競売における『人の死』×『場所が違う』>

『人の死』が生じた場所が『売却対象の不動産』ではない場合
→『売却不許可・許可取消』にはならない傾向が強い

裁判所が『売却不許可・許可取消」を判断した事例を以下,説明します。

3 7年前・自殺→買受解消を認めた|売却不許可

7年前とやや古い時期の『自殺』を理由に『売却を不許可』とした事例です。
『田園地帯』という環境が重視されています。
つまり『噂が風化しにくい』→影響が長期間残る,という判断です。

<7年前・自殺→売却不許可>

あ 事案

山間の田園地帯の建物の競売
買受けの約7年前
元の所有者が建物内で自殺していた

い 裁判所の判断

売却不許可決定
※福岡地裁平成2年10月2日

4 5年前・自殺→買受解消を認めた|売却不許可

自殺があった時期が5年前でした。
『近い』→『嫌悪感がまだ強く残る』という判断です。

<5年前・自殺→売却不許可>

あ 事案

土地の競売
約5年前
土地内の建物の裏
元所有者がフェンスにロープをかけて首吊り自殺をしていた

い 裁判所の判断

売却不許可決定
※札幌高裁平成4年6月15日

5 1年前・自殺→買受解消を認めた|売却許可取消

自殺が1年前に発生していた,という事例です。

<1年前・自殺→売却許可取消>

あ 事案

建物の競売
約1年前
建物内で所有者の夫が自殺していた

い 裁判所の判断

売却許可の取消決定
※札幌地裁平成10年8月27日

6 1年5か月・殺人事件→買受解消を認めた|売却許可取消

『殺人事件』が発覚した事例です。

<1年5か月前・殺人事件+血痕→売却許可取消>

あ 事案

ア 入札当時 暴力団組員が占拠していた
イ 1年5か月前 建物内においてリンチ殺人事件が発生した
ウ 発覚した経緯・状況 飛び散った血が周囲の壁・襖・畳などに付着していた
血痕が残ったままであった

い 裁判所の判断

売却許可の取消決定
※民事執行法75条1項類推適用
※仙台地裁昭和61年8月1日

入札の時点で『暴力団組員が占有している』ことは既に分かっていました。
ある程度の事情は『想定内』と言えるはずです。
しかし『殺人事件』は『想定内』とは言いがたいです。
さらに痕跡がまだ残っていた,ということも重視されています。
なお,競売では占有者が反社会的勢力であることはよくあるのです。
関連コンテンツ|弁護士が『係争物を譲り受ける』のは原則禁止・特殊事情で適法

7 30年前殺人+10か月前遺体発見→買受解消を認めた|売却不許可

殺人事件が発覚したのですが,事件自体は『約30年前』と,とても古いものでした。
しかし最近=10か月前まで遺体が存在していたことが重視されています。

<30年前嬰児殺人+10か月前遺体発見→売却不許可>

あ 事案;発覚した事実

ア 約30年前 建物内で4件の嬰児殺人事件が発生
イ 約10か月前 遺体4体が発見された

い 裁判所の判断

売却不許可の取消決定
※新潟地裁平成4年3月10日

8 3か月前・原因不明の死→買受解消を認めた|売却許可取消

死体が発見されたけれど,死因が不明,という事例です。

<3か月前・原因不明の死亡事故→売却許可取消>

あ 事案

ア 4月頃 元所有者が死亡
自殺,病死,自然死のいずれか判定困難であった
イ 7月末〜8月上旬 入札→売却許可決定
ウ 8月下旬 死体発見

い 裁判所の判断

売却許可を取り消した
※名古屋高裁平成22年1月29日

9 『場所が違う』|『軒先』での自殺→買受解消を認めない

人の死が生じた場所が『競売の対象不動産』そのものではないケースを紹介します。
人の死の『場所が違う』 場合,買受の解消は認められない傾向にあります(前述)。
まずは,競売の対象物件の『軒先』での自殺が発覚した事例です。

<『軒先』での自殺→買受を維持>

あ 事案

建物の競売
1年3か月前
建物の軒先で居住者が自殺(縊死)していた
買受人が売却許可の取消を申し立てた

い 裁判所の評価

『痕跡』が残っていない
敷地も含めると『価値下落の程度・割合』は大きくない

う 裁判所の判断(結論)

売却許可は取り消さない
※東京高裁平成8年8月7日

10 『場所が違う』|近隣の山林での自殺→買受解消を認めない

競売の対象物件から2〜300メートル離れた山林での自殺が発覚した事例です。

<『近隣』での自殺→買受を維持>

あ 競売

土地・建物の競売

い 発覚した事実

ア 付近での自殺事件 1年6か月前
物件から2〜300メートル離れた山林内
元共有者の1人が自殺していた
イ 自殺の理由 物件の取得代金を街の金融業者から借り入れた
→返済を苦にした

う 売却許可の取消申立

買受人が売却許可決定の取消を申し立てた

え 裁判所の判断

売却許可は取り消さない
※仙台高裁平成8年3月5日

死者は対象物件の所有者・居住者であったので気持ち的には『物件との結びつき』はあります。
また,死亡動機も『当該不動産を購入するときの借金』と直結しています。
このような『結びつき』が主張されました。
しかし裁判所としては『不動産の損傷』と同視するレベルではない,と判断しました。

共有不動産の紛争解決の実務第2版

使用方法・共有物分割の協議・訴訟から登記・税務まで

共有不動産の紛争解決の実務 第2版 弁護士・司法書士 三平聡史 著 使用方法・共有物分割の協議・訴訟から登記、税務まで 第2班では、背景にある判例、学説の考え方を追加して事例検討をより深化させるとともに、改正債権法・相続法が紛争解決に与える影響など最新の実務動向を丁寧に追録して大幅改訂増補! 共有物分割、共有物持分買取権行使、共有持分放棄、共有持分譲渡などの手続きを上手に使い分けるためこ指針を示した定番書!

実務で使用する書式、知っておくべき判例を多数収録した待望の改訂版!

  • 第2版では、背景にある判例・学説の考え方を追加して事例検討をより深化させるとともに、改正債権法・相続法が紛争解決に与える影響など最新の実務動向を丁寧に追録して大幅改訂増補!
  • 共有物分割、共有持分買取権行使、共有持分放棄、共有持分譲渡などの手続を上手に使い分けるための指針を示した定番書!
  • 他の共有者等に対する通知書・合意書、共有物分割の類型ごとの訴状、紛争当事者の関係図を多数収録しており、実務に至便!
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINE
【不動産売買・賃貸×過去の人の死|告知義務・損害賠償|包括的判断基準】
【企業×SNS|基本|公式アカウント=中の人|従業員のSNS利用の監督】

関連記事

無料相談予約 受付中

0120-96-1040

受付時間 平日9:00 - 20:00