1 特定の試算手法のみによる算定の否定
2 各試算賃料への比重配分の個別性
3 各試算賃料への比重の配分の方向性
4 一般的な試算賃料の適正比重の目安
5 地価減少時の試算賃料の比重の傾向
6 賃料改定特約の影響(概要)
7 スライド法と利回り法の関係や比重(概要)
8 試算賃料の比重の設定の実例(概要)
9 4つの試算手法の合理性を否定した裁判例(概要)

1 特定の試算手法のみによる算定の否定

継続賃料の判断では複数の手法による試算結果を総合的に考慮します。
これを総合方式と呼びます。
本記事では,総合方式の算定について説明します。
まず,1つの算定手法のみによる改定賃料の算定を否定した最高裁判例があります。逆に言えば,複数の試算を用いる必要があるということです。

<特定の試算手法のみによる算定の否定>

あ 1つの手法のみによる算定の否定(概要)

利回り法のみによる継続賃料の算定を否定した
※最高裁昭和40年11月30日
※最高裁昭和43年7月5日
詳しくはこちら|スライド法と利回り法の関係(普及経緯)

い 特定の試算の排除

ア 発想
賃料試算の手法の中には合理性が低いものもある
特定の試算の手法は排除してもよいのではないか
イ 理想的な方法
次の方法が妥当である
すべての手法を採用する
その上でウエイトにおいて考慮する
※江間博『新版 不動産鑑定評価の実践理論』株式会社プログレスp100

2 各試算賃料への比重配分の個別性

複数の試算賃料を用いる具体的な方法は,比重を配分するというものです。
個々の試算賃料の比重は決まっていません。
個別的事案によって比重を判断・決定することになります。

<各試算賃料への比重配分の個別性>

あ 原則論

個別的事情によって
→各試算賃料に置かれるウエイトは異なる
※江間博『新版 不動産鑑定評価の実践理論』株式会社プログレスp101

い 判例の指摘

利回り法が本則という位置付けではない
※最高裁昭和43年7月5日
詳しくはこちら|スライド法と利回り法の関係(普及経緯)

3 各試算賃料への比重の配分の方向性

各試算賃料の比重については個別的に判断します(前記)。
個別的とはいっても,合理的な比重の設定についての大きな方向性はあります。

<各試算賃料への比重の配分の方向性>

あ 賃貸事例比較法

通常,継続賃料には特殊な事情が含まれる場合が多い
→あまり重視しない

い 利回り法

土地価格の変動をそのまま反映するという特徴がある

う スライド法

消費者物価指数を採用するスライド方式について
→地価変動が反映されないという特徴がある

え 比重の配分の代表的な例

利回り法とスライド法の試算賃料の中間とする
差額配分法の試算賃料は比較・参考とする
※江間博『新版 不動産鑑定評価の実践理論』株式会社プログレスp100,101

4 一般的な試算賃料の適正比重の目安

試算賃料の比重,つまり重要性には一定の傾向があります。
実際に比重を設定する際に参考・目安になります。

<一般的な試算賃料の適正比重の目安>

あ 算定方式の類型化
試算手法 考慮の程度・位置付け
利回り法 メイン
差額配分法 メイン
スライド法 斟酌する程度
賃貸事例比較法 あまり開差がない範囲にする
い 個別事情の考慮

(『あ』を基礎にしつつ)
事案の客観的・主観的な個別事情を総合的に検討する
※山本和敏『賃料増額訴訟における相当賃料の算定』実務民事訴訟講座4巻p152
※澤野順彦『判例にみる地代・家賃増減請求』新日本法規出版p82
※藤田耕三ほか『不動産訴訟の実務 7訂版』新日本法規出版2010年p742〜751

5 地価減少時の試算賃料の比重の傾向

前記の比重の傾向は緩やかな地価上昇という状況が前提となっています。
算定方法が考案された時から一転して,想定外の地価下落も生じています。
地価下落の状況での各試算手法の合理性の方向性をまとめます。

<地価減少時の試算賃料の比重の傾向>

区分 試算手法 適合性
主要 利回り法 不合理
主要 差額配分法 不合理(※1)
主要 スライド法 適合
主要 賃貸事例比較法 適合
簡略版 公租公課倍率法 適合
簡略版 平均的活用利子率法 適合

※鵜野和夫『不動産の評価・権利調整と税務 第38版』清文社2016年p584,585
※1 正常支払賃料が上限となる
詳しくはこちら|差額配分法におけるマイナス差額の配分の肯定/否定説と配分率

実務上,このような特殊事情の反映が見過ごされるケースが散見されます。
しっかりとした主張ができるかどうかで結果が大きく違ってくることもあるのです。

6 賃料改定特約の影響(概要)

賃貸借契約において,賃料改定特約が活用されることは多いです。
紛争予防として合理的なものです。
賃料改定特約は,相当賃料の算定に大きな影響を与えます。

<賃料改定特約の影響(概要)>

あ 基本的事項

賃料改定に関する特約がある場合
→『い・う』のいずれかの扱いとなる

い 賃料改定特約による算定

賃料改定特約(による賃料)が『相当』である限り
→特約どおりに改定賃料を算定する
鑑定(4手法による試算)自体は原則的に不要である
鑑定結果により『賃料改定特約が相当である』と判断することもある

う 比重への反映

賃料改定特約について
『不相当』であるor一義的算定が不可能である場合
→賃料改定特約による改定賃料の算定はできない
→総合方式によって相当賃料を決定する
総合方式では『特約内容に沿う算定手法の試算』の比重を大きくする
詳しくはこちら|賃料に関する特約と賃料増減額請求権の関係(排除の有無と影響)

7 スライド法と利回り法の関係や比重(概要)

賃料試算の手法のうち,スライド法と利回り法は活用されてきた経緯において密接に関連しています。
地価の動きによって重要性,つまり比重は変わってきます。
この2つの試算手法の関係や比重については別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|スライド法と利回り法の関係(普及経緯)

8 試算賃料の比重の設定の実例(概要)

総合方式では各試算賃料の比重を個別的に判断します(前記)。
実際に,多くの鑑定や裁判例で個別性を反映した比重の設定が工夫されています。
裁判例での判断の実例を別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|改定賃料算定の総合方式の比率配分の実例(裁判例の集約)

9 4つの試算手法の合理性を否定した裁判例(概要)

主要な4つの賃料の試算について,それぞれの手法の合理性を慎重に判断した裁判例があります。
結果的に4つの試算賃料のすべてを採用しませんでした。
詳しくはこちら|総合方式と賃料試算の4手法の合理性を否定した裁判例(引用)