【土地売買における境界未確定・面積不足と数量指示売買の担保責任】

1 土地売買契約における面積の食い違い・面積不足(総論)
2 境界未確定・面積不確定の土地売買における工夫
3 数量指示売買の該当性判断
4 数量指示売買の効果=担保責任
5 土地の地積表示と数量指示売買の該当性
6 地積表示と数量指示売買該当性(裁判例)
7 土地売買と境界未確定による責任(概要)

1 土地売買契約における面積の食い違い・面積不足(総論)

土地の売買契約において,後から面積が狭いと発覚するケースがあります。
具体的には,契約書に記載された面積よりも実際に測量した面積が小さいというものです。
通常は売買契約の前に,土地の測量をして境界の確定を済ませているはずです。
詳しくはこちら|土地の境界(筆界)の確定が必要な状況や確定させる工夫
『面積の食い違い』が生じるのは『境界が確定していない』という特殊なケースです。

2 境界未確定・面積不確定の土地売買における工夫

例外的に,境界未確定でも売買が行うことも実際にあります。
このようなケースでは契約では工夫することが必要です。

<境界未確定・面積不確定の土地売買における工夫>

あ 『未確定部分』の事後的清算内容を特約として設定

『想定面積と将来の確定面積の差に応じた清算内容』を条項に明記する

い 『未確定部分』の事後的清算はなし=『公簿売買』

面積が未確定であることを前提としている
代金設定上『公簿=登記上の地積』を用いた
事後的な面積確定・特定による清算はしない
詳しくはこちら|土地の境界(筆界)の確定が必要な状況や確定させる工夫

当然,このように,具体的対応の内容を合意し,条項として明記するのです。
実際にトラブルが発生する原因は『確定していたはずの境界が否定された』というものが多いです。
一方,売買契約書や重要事項説明書の中で『売主の責任を否定する』条項が存在することもあります。
『地積と実測面積の齟齬について売主の担保責任を排除する』というものです。
このような条項の有効性の判断で見解が食い違う→トラブル発生,というケースもよくあります。

3 数量指示売買の該当性判断

実際の土地売買では『未確定の境界に関する特約』がないのが普通です。
そのようなケースで『面積の食い違いが発覚』すると問題になります。
契約書条項に清算内容が設定されていないので見解が対立しやすいのです。
具体的には,契約書上の『地積』と『実測面積』が違う,というケースについて説明します。
民法上『数量指示売買』という規定があります。

<数量指示売買の該当性判断>

あ 条文上の表現

『数量を指示して売買』
※民法565条

い 判例上の解釈

『当事者において,目的物の実際に有する数量を確保するため,その一定の面積,容量,重量,員数または尺度あることを売主が契約において表示し,かつ,この数量を基礎として代金額が定められた売買をいう』
※最高裁昭和43年8月20日

う 3要素

ア 当事者の数量確保の意思イ 数量の表示ウ 数量を元にした代金額の決定

実際には『数量指示売買』に該当するかどうかは,ちょっと難しいです(後述)。
これに該当すると,売主に『担保責任』が発生します。

4 数量指示売買の効果=担保責任

『数量指示売買』における売主の担保責任をまとめます。

<数量指示売買の効果=担保責任>

あ 基本的事項

買主が『善意』であれば『い』の責任追及ができる

い 責任の内容

ア 代金減額請求イ 契約解除 残存数量であれば購入しなかったという場合
→解除できる
ウ 損害賠償請求 ※民法563条,564条,565条

買主が『数量の違い』を『知っていた=善意』という場合だけ『売主の担保責任』が発生します。

5 土地の地積表示と数量指示売買の該当性

土地売買契約書の『地積』の表記は『数量』の表示と言えそうです。
そうするとまさに『数量指示売買』と思えます。
この点,土地売買契約の実情を踏まえて判断されます。

<土地の地積表示と数量指示売買の該当性>

あ 目的物の『特定』としての表示

=登記簿上の『字・地番・地目・地積(面積)』

い 『地積』と実測面積の食い違い

『登記簿上の地積』と『実測面積』は一致しないことが多い

う 『地積』×数量指示売買|法的評価

『数量指示売買』には該当しない
※『月報司法書士2015年1月』日本司法書士会連合会p51〜

もともと土地売買では『不動産の特定』『不動産の表記』の一部として『地積』が使われるのです。
人物で言えば『名前の一部』とでも言えるものです。
『数値』ではなく『文字(列)』という性格が強い,ということです。

6 地積表示と数量指示売買該当性(裁判例)

土地売買の『地積』表記について『数量指示売買』該当性を判断した判例を紹介します。

<地積表示と数量指示売買該当性(裁判例)>

あ 『地積』と『実測面積』の食い違い

売買契約書上の『地積』の記載よりも『実測面積』が小さかった

い 裁判所の評価

売買契約における『地積』表示の趣旨
→『代金額決定の基礎』とされたにとどまる
『契約の目的を達成する上で特段の意味を有する』ものではない

う 裁判所の判断(結論)

数量指示売買には該当しない
→売主は損害賠償責任を負わない
※最高裁昭和57年1月21日

以上のように『地積と実測面積の食い違い』は『当然の前提』とされていることもあります。
『地積』『実測面積』が併記されている契約書も多いです。
『地積と実測面積の食い違い』は特殊事情がないと責任追及ができない,という傾向です。

7 土地売買と境界未確定による責任(概要)

以上の説明は『数量指示売買』としての担保責任でした。
売買の後に土地の面積不足が発覚した場合には別の責任が生じることもあります。
売主や仲介業者の調査や説明義務違反などの責任が認められることがあります。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|土地売買における境界未確定・面積不足と数量指示売買の担保責任

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