【私道の通行権|設定方法|共有・通行地役権・賃貸借・使用貸借|登記・対抗力】

1 通路・私道の通行権|設定方法のバラエティ
2 共有の私道|『合意内容を書面化』しておくとベター
3 共有の『既存私道』|『暗黙の使用方法の合意』が認められる
4 通行地役権|『登記』を請求できる→新所有者に対抗できる
5 通行地役権|『登記』がなくても新所有者に対抗できることもある
6 通路の『賃貸借契約』は『登記』制度はあるが『請求』できない
7 通路の『使用貸借』は保護が弱い|終了が認められやすい・登記できない

1 通路・私道の通行権|設定方法のバラエティ

公道以外の通路・私道は,権利関係でいくつかに分類できます。

<通行する権利の設定・契約の方式>

種類 性質・特徴 登記の可否 登記請求権
共有者としての使用 『物権』
通行地役権の設定 『物権』
賃貸借契約 有償の『債権』
使用貸借契約 無償の『債権』
囲繞地通行権 有償/無償の『物権』

私道は権利者・通行する者による『権利の設定・契約』があるはずです。
ただし『囲繞地通行権』だけは『当事者間の合意・意思決定』とは関係ありません。
一定の土地の位置関係だけから認められる法定の通行権です。
詳しくはこちら|囲繞地通行権|袋地の所有者は囲繞地を通行できる・通行料

それ以外の通路は『合意・契約や意思決定』によりできあがっています。

2 共有の私道|『合意内容を書面化』しておくとベター

私道の典型的・代表的なものは『利用する複数の人』で共有にする,という方法です。

<共有の私道|設定方法>

共有者間で『使用方法の意思決定』として協議や合意をしておく

民法上,書面にすることが義務付けられているわけではありません。
しかし,長期間にわたる約束ごとです。
書面に調印して記録化しておくとベターでしょう。
『共有者間の合意』は登記できません。
しっかりと保管しておくことが重要です。
詳しくはこちら|使用方法の意思決定プロセス|具体例|通知書サンプル・トラブル予防

3 共有の『既存私道』|『暗黙の使用方法の合意』が認められる

実際の『共有の私道』で,明確な『使用方法の協議・合意』がない,というケースも多いです。
この点,長期間共有者全員が通行のために使用している場合『合意』が認められるでしょう

<共有の既存私道についての『合意』内容>

『通路として相互に無償で使用する』という黙示の合意

4 通行地役権|『登記』を請求できる→新所有者に対抗できる

私道の設定として『通行地役権』があります。

<地役権の設定・名称>

あ 地役権の設定

要役地所有者と承役地所有者が『地役権設定契約』をする

い 名称
地役権の利益を受ける土地 要益地
地役権の対象土地 承役地

通行地役権の法律的分類は『物権』です。
この性質により『登記』することができます。

<通行地役権|登記>

あ 登記制度

地役権登記があれば対抗力を持つ
=承役地の譲受人(購入した新所有者)が地役権の負担を承継する

い 登記請求権

地役権者は承役地所有者に対して『登記すること』を請求できる

5 通行地役権|『登記』がなくても新所有者に対抗できることもある

通行地役権は『登記』をするとしっかりと保全されます。
逆に登記をしていないと保護が不十分になります。
この点,例外的な判例もあります。

<登記がなくても地役権を承役地譲受人に対抗できる場合>

あ 前提条件

次のいずれをも満たす場合
ア 客観的な『使用状況』 譲渡時に次の事情が客観的に明らかであった
『承役地が要益地所有者によって継続的に通路として使用されていること』
判断要素=位置・形状・構造等の物理的状況
イ 譲受人の認識 譲受人がそのことを認識していたor認識することが可能であった

い 効果

承役地の譲受人は『地役権の負担』を承継する
※最高裁平成10年2月13日
※東京地裁平成18年9月11日;下水について同趣旨の判例

このように特殊事情があると例外的に『登記なしでも保護される』ことになります。
『例外』とは言っても現実には該当することが結構多いです。

6 通路の『賃貸借契約』は『登記』制度はあるが『請求』できない

通路の通行を『賃貸借契約』で設定することも多いです。
『賃借権』についても『登記』制度が使えます。

<賃借権|登記>

あ 登記制度

賃借権登記があれば対抗力を持つ
=土地(通路)の譲受人(購入した新所有者)が賃借権の負担を承継する
※民法605条

い 登記請求権

賃借権者は通路の土地所有者に対して『登記すること』を請求できない

『賃借権』は『物権』ではなく『債権』です。
そこで性質的に『登記請求権』は認められていないのです。
そのため,現実的に『賃借権登記』はほとんど使われていません。
なお『借地権』『借家権』については『他の手段による登記の代用』制度があります。
しかし『通路としての賃貸借契約』については,このような『登記の代用』制度はありません。
詳しくはこちら|対抗要件の種類のまとめ(いろいろな権利の対抗要件)
詳しくはこちら|不動産(物権)以外の対抗要件(不動産賃借権・動産・債権譲渡・株式譲渡)

7 通路の『使用貸借』は保護が弱い|終了が認められやすい・登記できない

(1)対価がゼロor税金程度→使用貸借

通路の『使用料なし』の場合は『使用貸借』となります。
完全に『使用料ゼロ』ではない場合も一定範囲で『使用貸借』に含まれます。
例えば,通行する者が固定資産税などの一定範囲の負担をしている場合です。
このような最低限の維持費程度の負担は『使用貸借の必要費』として扱われるのです。

(2)使用貸借は保護が弱い

『使用貸借』の場合は無償という『負担の軽さ』に対応して『保護も弱い』です。

<使用貸借の保護の弱さ>

あ 契約終了

比較的容易に終了する
例;『相当期間』経過+解約申入→契約終了

い 対抗力なし

『登記』できない
対象土地の譲受人には対抗できない
→新所有者に『使用中止』を求められる

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