【共有物分割訴訟の協議前置の要件(協議がととのわない)】

1 共有物分割訴訟の協議前置の要件(協議がととのわない)

共有物分割請求権は、重要な権利として保障されています。最終的には裁判所が分割を実現します。
ただし、裁判所に提訴するには、事前に協議することが必要です。
本記事では、共有物分割訴訟の形式的要件である「協議がととのわない」の解釈について説明します。

2 共有物分割訴訟の協議前置の条文規定

最初に条文を押さえておきます。条文上は(協議が)調わないという文言ですが、普段使わない表記なので、本記事では「ととのわない」と表記します。
協議をしてだめだったら裁判所が介入する、という2ステップが要求されているのです。
協議自体ができない場合も含めて解釈されていました(後述)、令和3年改正によって条文に明記されました。

共有物分割訴訟の協議前置の条文規定

あ 令和3年改正前

共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
※民法258条1項

い 令和3年改正後

ア 条文 共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
※民法258条1項
イ 改正(協議不能の明記)の趣旨 民法第258条第1項の「協議が調わないとき」とは、一部の者が協議に応じないために協議をすることができないときも含むと解されており、このような解釈を明確化するために、試案第1の2(1)①では、遺産分割の規律(民法第907条第2項)を参考に、「協議をすることができないとき」にも裁判所に分割を求めることができることとしている。
※法務省民事局参事官室・民事第二課『民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案の補足説明』2020年1月p28

3 「協議がととのわない」のバリエーション

協議がととのわない(改正前)、の意味はもちろん、話し合いをしたけれど決裂した、つまり合意に達しなかった、というものです。
ただ、解釈によってもっと意味は拡がっています。話し合い自体ができない、さらに、話し合いをして合意に達したけれどその後(決めた内容)が履行されない、ということも含みます。

「協議がととのわない」のバリエーション(※1)

あ 協議不調(基本)

協議したが合意に達しなかった

い 協議不能

初めから分割協議を拒んでいる共有者がいる(後記※2

う 成立後履行困難

分割協議が成立したが履行される見込みがない(後記※3

4 協議不能

共有者のうち1人でも、共有物分割の協議ができない場合は、実際に協議をしていないとしても提訴できます。この場合、協議のステップはスキップできるということになります。逆にスキップできないとすれば、提訴が実現しなくなってしまいます。
令和3年改正後の条文には協議不能が反映(追加)されています(前述)。

協議不能(※2)

あ 共有者の一部の協議の拒否

民法二五八条一項にいう「共有者ノ協議調ハサルトキ」とは、共有者の一部に共有物分割の協議に応ずる意思がないため共有者全員において協議をなしえない場合を含むものであつて、必ずしも所論のように現実に協議をした上で不調に終つた場合に限られるものではない(大審院昭和一二年(オ)第一九二三号同一三年四月三〇日判決法律新聞四二七六号八頁)。
※最判昭和46年6月18日

い 共有者の一部に明白な協議意思なし

然れども民法第二百五十八条第一項に所謂共有者の協議調わざるときとは共有者の一部に付共有物分割の協議に応ずるの意思なきこと明白なる如き場合をも包含し必ずしも所論の如く現実に共有者が協議したるも不調に終わりたる場合のみに局限すべからざるものと解するを相当とす
・・・
然れども既に共有者の一部の者が分割の協議に応ぜざる場合に於いては他の共有者に対し何等協議の交渉を為さざる以前に於いても民法第二百五十八条の所謂協議調わざるものとして直ちに共有者全員を相手方とし共有物分割の訴を提起し得べきものと解するを相当とし
(注・現代仮名遣いに直した)
※大判昭和13年4月30日
※小粥太郎編『新注釈民法(5)』有斐閣2020年p602参照

5 分割合意成立後の履行困難

いったん、共有者で話し合いをして、結論が出たのに、履行されないままになっている、という状況は、実際にはよくあります。たとえば、共有者Aが他の共有者の共有持分を買い取るとか、共有不動産を第三者に売却して代金を分けるなどの合意に達したのに、その後の買取や売却が進まないというようなケースです。
このような場合も、(言葉としては不自然ですが)協議がととのわないにあたると判断できることもあります。実際にそのような判断をする裁判例もあります。

分割合意成立後の履行困難(※3)

あ 裁判例の要点

裁判上の和解として、任意に売却し代金を分割する合意が成立した
任意売却(共同売却)ができないまま約3年半が経過した
協議がととのわないに該当する(新たに共有物分割訴訟を提起できる)

い 裁判例の引用

・・・本件不動産の共有者である控訴人と被控訴人とは、本件不動産について、これを任意に売却し、売却に係る費用を差し引いた残金を持分割合に従って配分するとの分割方法の合意をしたが、任意売却の期間及び任意売却ができない場合の措置については何らの合意もしなかったところ、右の合意成立後三年半近く経った現在も、なお任意に売却できる見込みがない状態にあるということができるのであって、このような場合には、共有者は、右の合意にもかかわらず、分割について別途の協議がされるなど特段の事情のない限り、分割の協議調わざるものとして、共有物の分割を裁判所に請求し、競売を求めることができるものと解するのが相当である。
けだし、・・・合理的期間内に本件不動産を任意売却することができることを前提としてされたものであって、右の期間内に任意売却をすることのできる見込みがなくなった場合には、右の合意はその前提を欠くことになってその効力を失い、・・・と解するのが、当事者の合理的な意思に合致する・・・
※東京高判平成6年2月2日

う 別の見解

ア 原審 分割合意は相当期間は有効である
相当期間は5年間である
新たな共有物分割請求はできない
※東京地判平成5年9月30日
イ 学説(概要) 共有物分割の合意には分割禁止の合意も含まれる
本ケースでは5年とすることもあり得た
詳しくはこちら|共有物分割禁止特約の基本(最長5年・登記の必要性)

6 共有物分割の合意を否定した裁判例(参考)

前述の裁判例のように、いったん共有物分割の合意ができたのに後から行き詰まることはよくあります。これとは別に、いったん共有物分割の合意ができたと思ったけど不完全なので、後から合意が否定されるということもあります。
実例としては、共有の土地の南北で2つに分けるという現物分割の合意をしたケースで、価格の調整のための賠償金(判決文では賠償金)の金額や計算方法が決まっていなかったため、合意全体が無効とした裁判例があります。
共有物分割の話し合いがまとまった際には、書面化しておくことはもちろん、内容として不完全なところがないように注意する必要があります。

共有物分割の合意を否定した裁判例(参考)

これらの事実を総合すると、被告は、aマンション102と103の壁心を基準として本件土地を分割し、被告が北側を、原告が南側を単独所有すること自体については、了解していたものと推認することができる。
しかし、本件土地をこのように分割した場合に支払われるべき代償金については、その金額又は計算方法が具体的に定まっていたことを認めるに足りる証拠はない(本件土地の地積の確定をもって代償金算定の合意に代え得るものではなく、この点に関する原告本人の供述は、採用することができない。)。
したがって、原被告間における本件土地の共有物分割の合意は、いまだ成立には至っていないというべきであり、原告の主張は理由がない。
※東京地判平成23年3月22日

本記事では、共有物分割訴訟の形式的要件である「協議がととのわない」の意味を説明しました。
実際には、個別的事情により、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有物(共有不動産)に関する共有者同士での問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【共有物分割の法的性質と契約不適合責任(瑕疵担保責任)】
【準共有の基本(具体例・民法と特別法の規定の適用関係)】

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