【地盤調査・地盤改良工事のトラブル|土壌汚染・地下埋設物|地盤保証】

1 建物建築前の『地盤調査→地盤改良工事』におけるトラブル
2 『地盤調査が不十分or不適切』というトラブル
3 地盤改良工事によって『土壌汚染』が生じるトラブル
4 将来『地下の杭(埋設物)』を撤去する必要性|土地の価格下落
5 地盤改良工事の施工・品質不良→地盤沈下・液状化発生
6 地盤保証|火災保険との重複・加入要件が厳しさに注意

1 建物建築前の『地盤調査→地盤改良工事』におけるトラブル

建物を建築する際は,地盤の強度・耐力として一定の程度が必要となります。
そのため,建築前に『地盤調査』を行ないます。
地盤調査の結果が,建築予定の建物が必要とする『地盤の強度』に達していない,ということもあります。
その場合は『地盤改良工事』を行ないます。
このような『地盤調査→地盤改良工事』のプロセスで実際には『不備』が生じることがあります。
主なものをまとめます。

<地盤調査→地盤改良工事|トラブルの典型>

あ 地盤調査が不十分or不適切

→その後の地盤改良工事が『不足or過剰』となってしまう

い 地盤改良工事によって『土壌汚染』が生じる

『6価クロム』の発生が典型

う 将来『地下の杭(埋設物)』を撤去する必要性

→撤去費用相当分だけ『土地の価値が下落する』

え 地盤改良工事の施工・品質不良

工法選択や施工自体・使用材料品質の不備→強度不足
→地盤沈下(不同沈下)・液状化

それぞれの内容について説明します。

2 『地盤調査が不十分or不適切』というトラブル

地盤改良工事の前提としての『地盤調査』に関する問題について説明します。
『地盤調査』自体が直接的に法的問題を生じることは少ないです。

<『地盤調査』の方法や実施方法の不備>

あ 地盤の強度を現実よりも『高く』判定するミス

→地盤改良工事が『不足』する

い 地盤の強度を現実よりも『低く』判定するミス

→地盤改良工事が『過剰』となる
→『不必要だった』コストを費やしてしまう

『過剰な地盤改良工事をしてしまう』ということは実はよくあります。
地盤調査は,具体的方法が複数あります。
この種類による特徴と関係してきます。

<地盤調査の『方法』|整理>

種類 地盤の硬軟判定プロセス 特徴 地盤調査の費用 『地盤改良工事』との関係
表面波探査法 地面の『ゆれ』の伝わる早さ 『面』での判定 高い 最小限に抑えられる
スウェーデン式サウンディング試験(SS法) ロッドを地面に貫入させる 『点』での判定 低い 過剰になりがち

なお,『調査』と言うほど本格的ではない,簡単に調べる方法もあります。

<地盤の強度|簡易調査方法>

古い地図・航空写真を見る

過去の土地利用状況(来歴)が分かる

対象の土地が過去に,工場・川・湖・沼・がけ,などであったことが判明することがあります。
当然,土壌汚染や地盤が軟弱であることが素朴に推測できます。
逆に,永年住宅地であった,という場合は,1つの安心材料になります。

3 地盤改良工事によって『土壌汚染』が生じるトラブル

(1)地盤改良工事による6価クロム発生リスク

地盤改良工事は『地盤の強度(耐力)』を必要な水準に引き上げるものです。
この点,『強度』は達成できても,『副作用』として弊害が生じることがあります。
重要なものは,セメント系固化材使用→『6価クロム』の発生=土壌汚染,という問題です。
『6価クロム』は,近年,発がん性などが明らかになってきました。
そこで,使用の程度について『環境基準』が設定されています。

<6価クロムに関する環境基準>

あ 生体への影響|毒性

ア 皮膚への付着→皮膚炎・腫瘍イ 呼吸器系→肺がんウ 消化器系→肝臓障害・貧血・大腸癌・胃癌

い 環境基準

ア 環境上の条件 検液1リットルにつき0.05mg以下
イ 法令 公害対策基本法9条
環境基本法16条1項
通達;土壌の汚染に係る環境基準について;平成3年8月23日環境庁告示第46号

(2)土壌汚染対策法による除去義務

現在では,土壌汚染対策法により,原則として所有者に除去が義務付けられています。

<汚染除去指示>

当道府県知事が『土壌の汚染』について『除去指示』を行う
除去指示は,原則として土地所有者に対して行う
※土壌汚染対策法7条1項

(3)6価クロムによる土壌汚染|判例

土壌汚染が発覚した場合の『責任問題』は『土地売買における瑕疵担保責任』として具体化することが多いです。
具体的な判例を紹介します。

<6価クロムの土壌汚染|東京地裁平成23年1月20日>

売主の瑕疵担保責任→肯定
賠償額=約1470万円
↑土壌汚染対策工事費用

<6価クロムの土壌汚染|東京地裁平成24年9月25日>

売主の瑕疵担保責任→否定
理由;当該土地上には『発生源』が過去にあったわけではない

詳しい判例の内容は別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|土地売買後の土壌汚染の発覚によるトラブル(基本と裁判例の集約)

4 将来『地下の杭(埋設物)』を撤去する必要性|土地の価格下落

(1)将来の『撤去費用』→評価額の下落

地盤改良工事は『建物建築を可能にする』という意味では非常に有用・必須と言えます。
一方で,将来,建物を建て替える時には『撤去が必要』となることが多いです。
『将来撤去に要する費用』ということを忘れがちです。
大雑把に言うと『撤去費用』は『設置費用』の3倍程度かかることが多いです。
別の視点からは『土地の価値が撤去費用相当分下がった』とも言えます。
国交省による『不動産鑑定評価基準』においても『土壌汚染』と並んで『地下埋設物』はマイナス評価事項として挙げられています。
地盤改良工事の工法によって,撤去のコスト=評価の下落幅,は違ってきます。
例えば『砕石杭』工法の場合,撤去が容易→『地下埋設物(評価減額)』としては扱わないのが一般です。

(2)地下埋設物に関する判例

地下埋設物による『評価の減額』が裁判所で判断されることもあります。
土地売買の後に地下埋設物が発覚した場合の『瑕疵担保責任』という形です。
判例は別にまとめてあります。
詳しくはこちら|土地売買後の地下埋設物発覚によるトラブル(基本と裁判例の集約)

5 地盤改良工事の施工・品質不良→地盤沈下・液状化発生

地盤改良工事をせっかく行っても『不十分であった』というケースもあります。
具体的には,地震によって地盤沈下・液状化が発生したために,調査をして施工不良等が発覚することが多いです。

<地盤改良工事の施工不良の例>

あ 使用する材料(固化材)の選択ミス

『地中の腐葉土』と『セメント系固化材』の作用→『固化不良』

い 支持地盤の起伏

地盤の起伏を考慮しない→地盤と並行するように『不同沈下』発生

<施工不良発生の原因>

『施工後の性能検査』が実施されないことが多い
参考;公共工事ではほぼ全件実施されている

実際に地盤沈下が生じた場合に『施工不良』か『不可抗力』なのか,という見解は大きく対立することが多いです。
大地震が『想定外』か『想定内』か,という主観的な判断と直結するのです。
これについては別に説明しています。
詳しくはこちら|土地売買の後に地盤沈下・軟弱地盤・液状化が発覚・発生した場合の法的責任・判断基準

6 地盤保証|火災保険との重複・加入要件が厳しさに注意

地盤改良の施工業者やハウスメーカーが『地盤保証』を付けることもあります。

<地盤保証の対象>

あ 保証対象

地盤改良工事に起因して建物が不同沈下した場合の損害(の保証)

い 『損害』の具体例

ア 地盤補強工事イ 建物の不具合補修ウ 仮住居費用エ 居住者の身体・建物内の財産に関する損失

この『地盤保証』は,保証対象が,一般の住宅の火災保険・地震保険と重複する部分もあります。
また,加入時の審査(条件)として,『過剰』気味な改良工事を要請されることもあります。
必須というわけではないです。
カバーされる損失と,加入のための金銭・審査内容を考慮して,加入するかどうかを判断すると良いでしょう。

地盤調査・地盤改良工事は『メインの建築の準備段階』として軽視されがちです。
しかし,以上の説明のようにいろいろなリスクが潜んでいます。
信頼できる調査・地盤改良工事の業者をしっかりと選ぶことが重要です。
みずほ中央では,信頼できる工事業者・コンサルタントをご紹介することもしています。

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