1 飛行・上空設置物・地下建造物などは土地所有権の上下範囲が問題になる
2 民法の条文では土地所有権の上下の範囲が明確でない
3 土地所有権の高度上限は,航空法の最低安全高度建造物の高さ+300m
4 他人所有地の上空300m以内を無断で飛行→違法だが損害賠償ゼロもあり得る
5 建造物『張り出し』による上空侵犯は別とも考えられる
6 宇宙エレベーターや空中Wi-Fi基地・太陽光パネルの登場時には法整備が必要
7 土地所有権の地下深度限界は,大深度地下法の40m
8 湧水・地下水・温泉の利用,採鉱は土地所有権に含まれるが一定の制限もある

1 飛行・上空設置物・地下建造物などは土地所有権の上下範囲が問題になる

土地所有権の『上下の範囲』が問題になる例は
土地の所有権の内容の大きなものは,土地の利用です(民法206条)。
さらに具体化すると,次のようなものです。

<通常の『土地の利用』の具体例>

ア 建物などの構築物を設置する
イ 自動車その他動産を置く
ウ 通行する(通路とする)

ここまでは当たり前過ぎることです。
状況によっては,所有権の『上下の範囲』が問題になることがあります。

<所有権の『上下の範囲』が問題になる実例>

ア 上空を航空機・パラグライダー・無人ドローンが通過する
イ 上空にモノレール軌道を設置(建設)する
ウ 上空に高圧線・送電線を設置する
エ 地下に,地下鉄・地下道を設置(建設)する
オ 地下に素粒子検出装置(重力波望遠鏡・カミオカンデ・素粒子加速器)を設置する

以上のような場合に,土地所有者の承諾が必要かどうか,が問題になるのです。

<承諾が必要な場合の具体的な方式|例>

あ 区分地上権の設定(民法269条の2)

別項目|上空や地下などに地上権を設定できる;区分地上権

い 地役権の設定(民法280条)
う 賃貸借契約の締結(民法601条)

別項目|囲繞地の通路の位置・幅については『協議』で定めておくと良い|契約の種類・内容

2 民法の条文では土地所有権の上下の範囲が明確でない

土地所有権の『上下の範囲』について,民法上の条文がありますが,ちょっと分かりにくいのです。

<土地所有権の『上下』の範囲|民法207条>

土地の所有権は,法令の制限内において,その土地の上下に及ぶ。

『上下』は無限,というわけではありません。
その制限は『法令の制限』次第,ということになります。

所有権の上下の範囲に関係する法令>

ア 航空法
イ 鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律
ウ 鉱業法
エ 大深度地下法

次に,これらのうち主要なものについて説明します。

3 土地所有権の高度上限は,航空法の最低安全高度建造物の高さ+300m

国際的に高度100km以上の空間は,『宇宙』として,各国の主権(所有権)が及ばないとされています(カーマン・ライン)。
別項目|人工衛星×他国の領空侵害|カーマン・ライン
一方,日本の法律上,私権としての土地所有権の『上空の限界(高さ)』をストレートに規定した法令はありません。
この点,航空法の規定がヒントになります。

<航空法による最低安全高度

最も高い障害物(建物等)の上端から300mの高度
※航空法81条,航空法施行規則174条1号イ

ここで,一般的に,航空機が飛行する場合,『直下部分の土地所有者の承諾』は不要と考えられています。
現実的な不利益がないからです。
なお,ここでは『空間を通過する』ことについての問題のみが前提です。
『騒音・振動』については別問題ですので触れません。
詳しくはこちら|騒音,振動に対する差止,損害賠償請求;まとめ

4 他人所有地の上空300m以内を無断で飛行→違法だが損害賠償ゼロもあり得る

上記のように,民間所有の土地の上空300m以内については,飛行するためには,土地所有者の承諾が必要です。
承諾を取らずに=無断で飛行させた場合について説明します。
言わば領空侵犯です。

(1)民事的には損害賠償請求が成り立つが『損害』があまりない

無断での所有『空間』の無断利用は不法行為となります(民法709条)。
しかし,損害が認められない,ということも多いでしょう。
例えば上空数十メートルの位置をドローンが通過したということによる財産的損失や精神的苦痛が認められにくいのです。
この点仮に,無人ドローン登載のキャメラで『盗撮』したような場合はまったく別問題です。

(2)住居侵入罪という刑事責任も成立しない

ドローンやロボットが『侵入』しても,これ自体は『犯罪』とはなりません。
住居侵入罪については『人間が侵入』することが前提となっているのです。
もちろん,意図的に人を怪我させる,などの事情がある場合は『操縦した人間』に犯罪が成立します。
このような問題については別記事で説明しています。
詳しくはこちら|ドローン・ロボットの『侵入・上空侵犯』×犯罪|故意犯のみ|業務妨害罪・盗撮系

(3)『盗撮』は違法→『冤罪リスク』にも注意

もちろん,『盗撮』については迷惑防止条例違反となります。
仮に『撮影する意図がない』場合にも拡大的に認められてしまうリスクの方が心配だと思います。
詳しくはこちら|盗撮・迷惑防止条例|東京都・神奈川県の条文規定・定義・罰則

5 建造物『張り出し』による上空侵犯は別とも考えられる

結局,土地所有権の上空の限界は,建造物の上部から300mということになります。
ただし,この高度以上の部分に建造物を設置という場合は所有権の侵害となる可能性もあります。
現実的にこれが生じるのは『超高層ビルが横に張り出す』ということくらいです。
仮にこのような建築が行われるとしても,建築基準法上,『張り出し部分の直下部分』を『敷地』となります。
通常は,区分地上権の設定を行うはずです。

以上のことから,航空法の最低安全高度を元にした解釈は,『所有権の範囲』ではなく『所有権は及ぶが通過(通行)は禁止できない』とも考えられます。
いずれも解釈論でも,現時点では実質的な違いはありません。

6 宇宙エレベーターや空中Wi-Fi基地・太陽光パネルの登場時には法整備が必要

一方,将来は,宇宙エレベーター空中に浮遊するWi-Fi基地・太陽光パネルというテクノロジーが進化するかもしれません。
この場合に『所有権の侵害』『承諾が必要』となるかどうかの解釈は,現時点では統一的なものがありません。
テクノロジー進化とともに法整備も進める必要がありましょう。
なお,空中に物体を飛行・浮遊させることについては,許認可の問題があります。
これは『所有権の範囲』とは別のマターです。
詳しくはこちら|無人ドローン運用に必要な許認可とケアすべき法律問題

7 土地所有権の地下深度限界は,大深度地下法の40m

土地所有権の『地下』方向の限界については,大深度地下法が関係しています。

<『大深度地下』の定義>

次のうち,いずれか深い方(より深い地下)(法2条)
ア 地表から40m(法2条1項1号,施行令1条)
イ 地表から『基礎杭を支持することにより2500kN/平方メートル以上の許容支持力を有する地盤最上部+10m』(法2条1項2号,施行令2条1項,3項)
※『法』=大深度地下法,『施行令』=大深度地下法施行令

要するに,一般の宅地など,一定の強度(耐力)を持つ地面(地盤)については,『地表から40mの深さ』ということです。

<『大深度地下』に適用される規制>

あ 認可事業者

使用の認可を得た事業者が事業区域を使用する権利を取得する(法21条,25条)

い 土地所有者

・所有権の行使を『制限』される(25条)
・1年以内に限り補償請求可能(37条)

以上のように,深度40mより深いエリアは『所有者の利用に制限がある』という状態です。
『完全に自由な利用』という意味では『所有権の限界』と言えます。

8 湧水・地下水・温泉の利用,採鉱は土地所有権に含まれるが一定の制限もある

ややイレギュラーな土地の利用もあります。

土地の利用として土地所有権に含まれる権利>

あ 湧水を利用する権利
い 井戸を掘って地下水を利用する(汲み上げる)権利

大判昭和4年6月1日

う 温泉(湯)を利用する権利→温泉権

別項目|温泉の湧水を使う権利は認められる;温泉権

以上のような利益は,原則的に権利として,土地所有権の一環として認められています。
しかし,『地方の慣習』や『権利濫用』の理論によって,一定の制限を受けることもあります(民法90条,92条)。

<参考情報>

論点体系判例民法2物権 第一法規 p216〜

条文

[民法]
(公序良俗)
第九十条  公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。

(任意規定と異なる慣習)
第九十二条  法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従う。

(所有権の内容)
第二百六条  所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。
(土地所有権の範囲)
第二百七条  土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ。

[航空法]
(最低安全高度)
第八十一条  航空機は、離陸又は着陸を行う場合を除いて、地上又は水上の人又は物件の安全及び航空機の安全を考慮して国土交通省令で定める高度以下の高度で飛行してはならない。但し、国土交通大臣の許可を受けた場合は、この限りでない。

[航空法施行規則]
(最低安全高度)
第百七十四条  法第八十一条 の規定による航空機の最低安全高度は、次のとおりとする。
一  有視界飛行方式により飛行する航空機にあつては、飛行中動力装置のみが停止した場合に地上又は水上の人又は物件に危険を及ぼすことなく着陸できる高度及び次の高度のうちいずれか高いもの
イ 人又は家屋の密集している地域の上空にあつては、当該航空機を中心として水平距離六百メートルの範囲内の最も高い障害物の上端から三百メートルの高度
ロ 人又は家屋のない地域及び広い水面の上空にあつては、地上又は水上の人又は物件から百五十メートル以上の距離を保つて飛行することのできる高度
ハ イ及びロに規定する地域以外の地域の上空にあつては、地表面又は水面から百五十メートル以上の高度
二  計器飛行方式により飛行する航空機にあつては、告示で定める高度

[大深度地下の公共的使用に関する特別措置法;大深度地下法]
(定義)
第二条  この法律において「大深度地下」とは、次の各号に掲げる深さのうちいずれか深い方以上の深さの地下をいう。
一  建築物の地下室及びその建設の用に通常供されることがない地下の深さとして政令で定める深さ
二  当該地下の使用をしようとする地点において通常の建築物の基礎ぐいを支持することができる地盤として政令で定めるもののうち最も浅い部分の深さに政令で定める距離を加えた深さ
2  この法律において「事業者」とは、第四条各号に掲げる事業を施行する者であって大深度地下の使用を必要とする者をいう。
3  この法律において「事業区域」とは、大深度地下の一定の範囲における立体的な区域であって第四条各号に掲げる事業を施行する区域をいう。

(使用の認可の告示等)
第二十一条  国土交通大臣又は都道府県知事は、第十六条の規定によって使用の認可をしたときは、遅滞なく、その旨を当該使用の認可を受けた事業者(以下「認可事業者」という。)に文書で通知するとともに、次に掲げる事項をそれぞれ官報又は当該都道府県の公報で告示しなければならない。
一  認可事業者の名称
二  事業の種類
三  事業区域
四  事業により設置する施設又は工作物の耐力
五  使用の期間
2  国土交通大臣は、前項の規定による告示をしたときは、直ちに、関係都道府県知事にその旨を通知するとともに、事業区域を表示する図面の写しを送付しなければならない。
3  都道府県知事は、第一項の規定による告示をしたときは、直ちに、国土交通大臣にその旨を報告しなければならない。
4  使用の認可は、第一項の規定による告示があった日から、その効力を生ずる。

(使用の認可の効果)
第二十五条  第二十一条第一項の規定による告示があったときは、当該告示の日において、認可事業者は、当該告示に係る使用の期間中事業区域を使用する権利を取得し、当該事業区域に係る土地に関するその他の権利は、認可事業者による事業区域の使用を妨げ、又は当該告示に係る施設若しくは工作物の耐力及び事業区域の位置からみて認可事業者による事業区域の使用に支障を及ぼす限度においてその行使を制限される。

(その他の損失の補償)
第三十七条  第三十二条第一項に規定する損失のほか、第二十五条の規定による権利の行使の制限によって具体的な損失が生じたときは、当該損失を受けた者は、第二十一条第一項の規定による告示の日から一年以内に限り、認可事業者に対し、その損失の補償を請求することができる。
2  前項の規定による損失の補償については、第三十二条第二項、第四項及び第五項の規定を準用する。

[大深度地下の公共的使用に関する特別措置法施行令;大深度地下法施行令]
(建築物の地下室及びその建設の用に通常供されることがない地下の深さ)
第一条  大深度地下の公共的使用に関する特別措置法 (以下「法」という。)第二条第一項第一号 の政令で定める深さは、地表から四十メートルとする。
(通常の建築物の基礎ぐいを支持することができる地盤等)
第二条  法第二条第一項第二号 の通常の建築物の基礎ぐいを支持することができる地盤として政令で定めるものは、その地盤において建築物の基礎ぐいを支持することにより当該基礎ぐいが一平方メートル当たり二千五百キロニュートン以上の許容支持力を有することとなる地盤(以下「支持地盤」という。)とする。
2  前項の許容支持力は、地盤調査の結果に基づき、国土交通大臣が定める方法により算出するものとする。
3  法第二条第一項第二号 の政令で定める距離は、十メートルとする。

[刑法]
(住居侵入等)
第百三十条  正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。